杉山正隆

投  稿

20081020.jpg杉山 正隆(すぎやま まさたか)

 福岡県歯科保険医協会副会長
 5年間、毎日新聞(東京)記者をつとめ、現在もフリーの
 記者として医療・社会の分野を中心に活動中。
 患者の権利オンブズマン正会員。
 杉山歯科医院副院長(北九州市小倉北区)

[速報]国際エイズ会議(AIDS2010)

取材した各国メディアは1276人

2010年7月30日

 200カ国から参加者・ボランティア2万人が参加した第18回国際エイズ会議(AIDS2010)には、各国の記者たち1276人が取材に当たった。英国BBCや米国CNNなどTV各社が設置したブロードキャスト・センターは49にもなり、世界各国では大きなニュースとして報道された。

 今回の「ウィーン会議」で目立ったのは、地元・ヨーロッパと、地理的に近いアフリカ、そして、中国のメディアだった。「エイズは今も人類を脅かせ続ける病禍」という共通認識が各国メディアにはある。

 一方、感染者が先進国で唯一、明らかに増え続けている日本のマスコミは、NHKと共同通信が現地・ウィーンで取材し開会式の模様などを伝えたが、情報量は各国メディアとは比較にならない状況。また、読売新聞などはワシントン発などで新しいエイズ治療薬開発のニュースを短く伝えるにとどまった。

RIMG0823.JPG
・今回、大きなニュースとなった「女性用HIV予防薬」の開発チームの記者会見後、取材する記者たち。



RIMG0995.JPG
・研究者らに取材する中国のTVメディアのクルー。



RIMG0352.JPG
・ノルウェーのメッテ・マリット王女を取材するヨーロッパのTVクルー。



RIMG0573.JPG
・1276人の各国メディアが連日、ニュースを発信したメディアセンター。



RIMG0576.JPG
・英国BBCや米国CNNなどのTV各社の報道拠点である「放送センター」は49にも。





200カ国から2万人が参加し閉幕

2010年7月25日

 7月18日からオーストリア、ウィーンで開かれていたAIDS2010(国際エイズ会議「ウィーン会議」)が23日、閉幕した。参加者は197カ国から19300人(22日分までの速報)。登録なしに市民が参加できる「グローバル・ビレッジ」の参加者や、関連行事の参加者を加えると、ゆうに3万人を超す人々が集まったとみられる。また、発表された演題は1万を超えた。

 23日にあった最終記者会見では、組織委員会の関係者から「これほど巨大な会議は他に例がなく運営に多少の混乱はあったが、まずまずの成功だった。2年後の米国、ワシントンDCでの開催までに、資金をいかに集めるかなど解決すべき問題は多く、ウィーン会議の成果と反省に立っていっそう奮起したい」との意気込みが語られた。

 閉会式は23日夕刻(日本時間24日未明)に開かれ、参加者たちは2年後の国際エイズ会議「ワシントンDC会議」での再会と、エイズ問題への取り組み強化を約束しあっていた。(ウィーンで 杉山正隆)

RIMG1172.JPG
・最終記者会見で話す組織委員会のメンバーたち。



RIMG1157.JPG
・閉会式を前に、「グローバル・ビレッジ」では参加者に市民も加わり、会議成功を喜んでダンスする光景も。





世界では3340万人、日本では推定で5万人にも

2010年7月25日

 昨年末現在、HIV(エイズ・ウイルス)感染者は世界で3340万人と推定されている。2000年と比べると20%増加しており、1990年の約3倍となっている。新規感染者が年間300万人弱に上り、エイズ関連疾病で200万人が亡くなる一方、世界的なHIV感染のピークは96年で、新たな感染者はピーク時より30%減少している。

 これは抗HIV治療の効果が反映されたものといえる。低・中所得国で抗HIV治療を受けているのは400万人。国連エイズ計画(UNAIDS)などによると、5年間で10倍の感染者が治療を受けられるようになったという。

 エイズは世界保健における最優先の解決すべき課題であることは変わりなく、流行はさらに拡大を続けている。国や地域により、また、その中でも地域差が大きく、また弱い立場の人、これまで「ゲイ」の人たちが中心だったが、特に女性やこどもたちの間で深刻化を増している。また、注射器の回しうちによる感染が諸外国では多く、こうした問題をどう解決していくかが大きな問題だ。

 HIVは、エイズに関する啓発活動と、早期発見・早期治療が極めて有効であり、HIV対策は成功しているとの科学的根拠(エビデンス)が確立されている。

 日本では患者・感染者は1万5000人ほど。しかし、これは厚生労働省の発表した報告者数。日本では感染の事実を知らない人が多く、補足率は30%ほどとみられている。70~80ほどの欧米と比べて極めて高く、感染者の実数は5万人にも上ると推定される。

 「経済大国」日本ではHIV対策予算が年々削られるなど、エイズを取り巻く環境は厳しさを増している。地方自治体でも、感染症対策の中での統合が進行し、もともと少なかったエイズ関連予算はさらに削減されている。患者・感染者は先進国の中で唯一、拡大を続けている一方で、社会的関心は薄れ、マスコミも報道することは少ない。そうしたことから、検査を受ける人はさらに減少し、若者や中高年のの感染拡大と行政などの対応の遅れも目立つ。

 社会的弱者に経済的負担を強いる社会保障制度の空洞化が拡がり、拠点病院などの整備は確立しつつあるが、病院・診療所での診療の拒否の問題も相変わらずだ。感染に気付かず、病状が深刻化して病院に駆け込む「いきなりエイズ」が日本では急増している。

 雇用制度の確立の動きはあるが、感染者の就職困難や解雇の事例が多く報告され、感染者や外国人、セックスワーカー(性風俗労働者)での差別や偏見は根深い。若者やMSM(男性と性行為をする男性)の間での違法・脱法ドラッグの広がりにどう対応していくかも、今後取り組まなければならない残された課題だ。

 また、薬害の恒久対策や補償問題、今後こうした悲劇を繰り返さないために、厚生労働行政への強力な監視も重要だ。(ウィーンで 杉山正隆)


RIMG0662.JPG
・市民が自由に参加できる「グローバル・ビレッジ」では子連れで参加する市民の姿も。



RIMG0786.JPG
・JHCのメンバーは慣れない食事や環境の中で6日間のAIDS2010を走り続けた。





日本は先進12か国中9位の「落第点」

2010年7月25日

 エイズや結核、マラリアの対策に掛かる費用を世界各国で負担する国際的な約束のもとに結成された「世界エイズ・結核・マラリア基金」(Global Fund)。その関係者らがAIDS2010で先進各国の実際の費用負担などの貢献度をAからEの5段階などで評価し公表した。

 それによると、最も熱心に公約を守り貢献しているのはオランダとロシアでAと評価された。続いて、デンマークとスペインがB、英国とドイツがC+、米国とカナダはCとの評価だった。日本はオーストラリアとともにD評価で先進12カ国中9位の「落第点」。イタリアはE-、AIDS2010開催国のオーストリアは「論外」のF評価だった。

  •  関係者によると、日本は2008年から10年までで6億2500万ドルを拠出。11年から13年まででは18億3500万ドルを要請されている。「日本が今後拠出を増やしてくれる期待を込めて、少し甘めのD評価にとどめた。日本には期待が大きいことを、日本政府や国民の皆さんに分かっていただきたい。こうした取り組みは粘り強く続ける必要があり、巨額な資金が必要なのだ」と強調する。( ウィーンで 杉山正隆 )


RIMG1058.JPG
・先進12カ国の「成績表」を前に、記者会見するGlobal Fundの関係者たち。



RIMG1059.JPG
・巨額な資金提供をしている日本だが、さらなる援助を期待される日本は「落第点」のD評価にとどまった。





日本からは100人近い研究者、NGO関係者が参加

2010年7月25日

 国際エイズ会議(AIDS2010)には日本から100人近い研究者、NGO関係者が参加した。厚生労働省の外郭団体「エイズ予防財団」は10人を派遣し、うち9人が演題発表した。ここでも国の予算削減の影響が大きく、派遣関連予算は昨年のバリでのアジア地域会議(アジア太平町地域エイズ国際が意義=ICAAP「バリ会議」)の600万円から250万円へと5割超削減された。関係者は「行政仕分けなどの圧力が今まで以上に高まると予想され、今後、派遣できなく事態もあり得る」と危機感を強める。

 医学系はもとより、東京都新宿区の看護系大学である聖母大学から10人が派遣されるなど看護や栄養学などの研究者が数十万円の自腹を切って参加したのが目立った会議だった。エイズの問題は世界でも、そして日本でも深刻化しており、「何とかしなければ」との危機感が強いからだ。

 NGO(非政府組織)のJHC(HIVと人権・情報センター)からは4人が参加した。ブースこそ出さなかったものの、日本から唯一ブースを設置した「エイズ予防財団」に協力し、日本の活動状況を参加者に説明したり、各国での状況などの情報収集に積極的に動いていた。

 JHCの参加者、静岡県藤枝市の栄養士、関野愛さんは「初めての参加だったが、各国で熱心に活動しているのを見て圧倒された。エイズは慢性病の側面もあるので、栄養や食事指導などで私たちができることがまだまだあると痛感した」と話していた。また、他の参加者は「経済大国とされる日本で資金難が目立ち、派遣事業の先行きが怪しくなっているのは情けない。必要な資金はしっかり投入しないと、問題は深刻化するだけで解決は遠のく」と強調した。(ウィーンで 杉山正隆)


RIMG0757.JPGRIMG0780.JPG
・エイズ予防財団のブースで日本の状況を各国参加者に説明するJHCのメンバーたち



RIMG0952.JPGRIMG0602.JPGRIMG0615.JPG


・各国参加者たちでにぎわうエイズ予防財団のブース。アジア、アフリカから熱い視線が向けられている。





多くの日本人研究者たちが発表

2010年7月23日

 7月18日からウィーンで始まった国際エイズ会議(AIDS2010)は、現地時間23日夜(日本時間24日未明)閉幕する。「ウィーン会議」では80人近い日本人が参加したとみられている。

 今まで紹介した他にも、次のような研究者・関係者が演題発表や様々な企画に参加していた。

 厚生労働省エイズ動向委員長を務める東京大学医科学研究所の岩本愛吉教授、同研究所の細谷紀彰研究員、立川愛助教、宮崎菜穂子薬剤師。京都大学大学院医学研究科血液・腫瘍内科の高折晃史教授、東京医科大学臨床検査医学講座の鈴木隆史講師、国立病院機構機構名古屋医療センターエイズ治療開発センターの杉浦亙部長・センター長。鹿児島大学副学長で大学院医歯学総合研究科/医学部の馬場昌範教授、同大抗ウイルス化学療法研究分野の岡本実佳講師。山梨学院大学経営情報学部の仲尾唯治教授、中国科学院生物物理研究所日中連携研究室の松田善衛・客員研究員、ユニセフ・ミャンマー事務所の安田正専門員、ケニヤ厚生省の竹中優子チーフアドバイザー。アフリカ日本協議会・エイズ&ソサエティ研究会議の小川亜紀・国際コーディネーター、HIV/AIDS情報ラウンジ「ふぉー・てぃー」愛川修平ピアスタッフ。

 また、ヤンセン・ファーマの栗村尚子マネジャー、ロシュ・ダイアグノスティックスの横溝勉氏も研究者らと交流を深めていた。

RIMG0799.JPGRIMG1093.JPGRIMG1098.JPG

RIMG1101.JPG



日本でのHIV陽性者の生活・社会参加についての調査報告

2010年7月23日

 日本でHIV(エイズ・ウイルス)感染者を支援するNGO(非政府組織)の1つ、「ぷれいす東京」のメンバーら3人がAIDS2010(国際エイズ会議「ウィーン会議」)で日本でのHIV陽性者の生活・社会参加についての調査報告を行った。3つの演題に分けてポスター発表した。HIV陽性者が病気と闘いながら、日本では病気を家族や職場にも明かせず苦しんでいる実態があらためて浮き彫りになった。

 調査は、日本国内のエイズ治療・研究開発センター、ブロック拠点病院、中核拠点病院の59病院に依頼状を郵送。九州医療センターなど33病院から協力の承諾を得て、外来受診時に医療者がHIV陽性者1813人に無記名の質問用紙を配布し、HIV陽性者自身が郵送する形で回収した。回収数は1203通。回収率は66.4%だった。調査票が日本語だったため、外国籍の回答は1.3%にとどまった。

 演題は、「ぷれいす東京」の生島嗣さんと大槻知子さん、埼玉県立大学の若林チヒロさんが発表した。回答者の94.3%は男性で、男性は同性間、女性は異性間接触による陽性者がそれぞれ4分の3を占めた。平均年齢は男女とも42.2歳で最年少は18歳、最高齢は77歳。

 世帯や家計をみると、1人暮らしが40.4%と最も多く、次いで父母とが27.9%、夫や妻とが16.7%、パートナー・恋人とが12.7%、子とが10.5%、兄弟とが1.9%、祖父母とが1.6%などだった。また、同居パートナーがいる人の92.1%がHIV陽性を知らせていたが、同居の夫や妻には84.2%、同居の親には58.0%、同居の兄弟には52.6%、同居の子には19.4%しかHIV陽性せあることを知らせてなかった。若林さんは「家庭ですらなかなか感染の事実を話せず、大きなストレスになっているようだ」と分析する。

 世帯の家計を支えている収入源は、自分の就労収入が72.7%と最も高く、次いで同居者の就労収入が28.8%、その他の年金や恩給が10.9%、預貯金の取り崩しが9.9%など。自分や同居者の収入以外に年金などの社会保障制度と組み合わせて家計を維持していることがうかがえる。

 HIV陽性が分かった直後の離職は42.2%が経験しており、通院のため、やむなく離職せざるを得なくなったケースや、体力的な問題、仕事より健康や生活を重視するなど、健康関連の理由が多く挙げられた。

 職場でのHIV陽性の開示は上司が11.9%と最も高く、次に役員などの管理者11.5%、同僚や部下が8.4%、人事担当者が6.8%、会社の産業医などが4.3%などだった。「勤務先の誰かに病名を開示している」のは23.2%、開示していないのは66.9%で、生島さんは「英国では4割が勤務先で病名を開示しているとの発表がAIDS2010で発表された。しかし、日本では、この人なら大丈夫かな、と逡巡しながら開示しているようだ」と話す。

RIMG0990.JPG
・他の会議参加者の質問に答え調査の詳細を話す埼玉県立大学保健医療福祉学部の若林チヒロさん(中央)



RIMG1091.JPG
・日本でのHIV陽性者の生活・社会参加について解説する「ぷれいす東京」の生島嗣さん(左から2人目)






 「権利を今こそここで!今すぐに!」

2010年7月22日

 AIDS2010(国際エイズ会議「ウィーン会議」)の会議テーマは「Rights Here, Right now」(権利を今こそここで、今すぐに)。

 組織委員会は次のように説明する。HIV(エイズ・ウイルス)の流行に立ち向かう前提として、人権の擁護や尊重こそが最重要。HIV感染の流行に大きな影響を受けている集団の尊厳と自己決定の権利、保健および生命に関わる予防、治療などへ平等にアクセスできる権利、そしてイデオロギーでなく科学的根拠に基づいた介入策を求める権利などは、すべて対策を実行するために緊急に必要である。

 また、今回なぜオーストリアのウィーンが開催地に選ばれたのか。薬物中毒により、急速にHIVの流行が拡大した東欧や中央アジア諸国に接していることも理由に挙げられる。今年2010年は国連特別総会などで世界の指導者たちが約束したHIV予防や治療、ケア、支援の普遍的他アクセスの実現の締め切りの年であり、世界におけるHIVの流行に関して極めて重要な時期に会議が開かれることも強調している。

 「権利を今こそここで!今すぐに!」。「Rights Here, Right Now」は日本の菅首相を含む先進国のリーダーなどの指導力と説明責任、そして何よりも「行動」を求めている。

RIMG0367.JPG
・発表に乱入し「黙れ!」「フランスは一体どこにいるんだ」と抗議の声を上げる市民団体「ACTUP」のメンバーたち。



RIMG0404.JPGRIMG0412.JPGRIMG0416.JPG


・「約束を破ることは許されない」と抗議活動する参加者たち。

RIMG0435.JPG
・開会式典の壇上に上がり怒りの声を上げる参加者たち。



RIMG0981.JPG
・EUのブースに詰めかけ、担当者に「もっとしっかり真剣に取り組め」と詰め寄る市民団体のメンバーたち。





日本人研究者の発表続く

2010年7月22日

 国際エイズ会議(AIDS2010)は発表演題が1万をゆうに超える巨大な学会でもある。支援策やNGO(非政府組織)の活動報告などが多いのは事実だが、医学的な発表も少なくない。今回の会議でも、日本の大学や研究機関などの研究者の発表が目に付いた。

 東京都立駒込病院感染症科の柳澤如樹医師は日本人のHIV感染者623人を対象に、高齢や高血圧、糖尿病、中性脂肪、CD4値、タンパク尿などの危険因子を点数化して分析した。その結果、高齢が特に危険因子として問題となり、他の因子も慢性腎臓病などに悪影響を及ぼしていることが分かった。柳澤医師は「高齢に加え、高血圧や糖尿病なども累積してHIV感染者には打撃となる。これらの因子に留意して治療などに当たる必要がある」と話した。諸外国では多くの人種が生活しており人種が混在した研究になりがちだが、今回の研究では日本人という1人種のみを対象としており、今後の研究が期待される。

 東京医科歯科大学大学院ウイルス制御学分野の井戸栄治・特任教授はHIV(エイズ・ウイルス)のタイプについて、アフリカの民主コンゴ共和国の2つの都市と、近接するルワンダ、ブルンジのタイプとを比較し考察した。ルワンダではタイプAが多い一方、ブルンジはタイプCが多い。国境を接するコンゴでは2つの都市でタイプAが50%前後と共通していたが、タイプCが18%ほどある都市と、1%ほどの都市に分かれるなど、大きな差があった。HIVの分化の仕組みを解明する手掛かりになる研究として注目を集めた。

( ウィーンで 杉山正隆 )

RIMG0968.JPG
・高齢や高血圧などの危険因子がHIV感染者に及ぼす悪影響が大きいことを発表する東京都立駒込病院の柳澤如樹医師(中央)。



RIMG0963.JPG
・コンゴ民主共和国での研究成果を発表する東京医科歯科大学ウイルス制御学分野の井戸栄治・特任教授(右)。





ウィーン中心部で1万人近い市民らが行進
エイズ対策強化を訴え オバマ米大統領の異父姉も

2010年7月21日

 数千人の市民らが7月20日夜(日本時間21日未明)、ウィーンの中心部を行進し、HIV感染者らへの人権の尊重と、さらなる取り組み強化を訴えた。「エイズ対策強化を」「約束を守ろう」「資金提供を今すぐ」などと書かれたTシャツを着るなど、参加者それぞれが個性的なパフォーマンスを展開。国際エイズ会議(AIDS2010)参加者に市民が加わり1万人近くにまで膨れ上がった。中には、子連れで参加する家族もあり、「子どもの人権も重要だ」と書いたプラカードを持つ小学生の姿も。サッカーのW杯でお馴染みになった「ブブセラ」や笛、太鼓を打ち鳴らしながら、ウィーンの目抜き通りであるリンク(環状道路)をウィーン大学から市庁舎、国会議事堂を通り王宮まで約1時間パレードした。

 行進には、国際エイズ学会(IAS)のジュリオ・モンタナ会長や国連エイズ計画(UNAIDS)のミシェル・シディベ事務局長、「世界エイズ・結核・マラリア基金」(Global Fund)のミシェル・カザチキン会長らが先陣を切って参加した。バラク・オバマ米国大統領の異父姉でケニアでHIV/エイズ問題に取り組んでいるアウマ・オバマさんも行動に参加した。

 王宮前広場で開かれたラリーとパフォーマンスには、歌手でエイズ問題にも取り組むアニー・レノックスさんがエイズ禍が急速に広がっている東ヨーロッパの歌も披露し、「あなたはどこにいるの?人々が苦しんでいるのに無視していいの?エイズにもっと関心を持ちましょうよ。そして、先進国などは国際的に約束した資金を実際に拠出して下さい!」と訴え、拍手喝采を浴びた。そして、エイズで亡くなった数千万人もの犠牲者のために1分間の黙祷をした。

( ウィーンで 杉山正隆 )

RIMG0842.JPG
・ウィーンの目抜き通りを行進するAIDS2010参加者たち(前列中央がIASのジュリオ・モンタナ会長)。



RIMG0850.JPGRIMG0848.JPG
・「子どもの人権も大事だよ」のプラカードを持つ小学生の姿も。



RIMG0884.JPGRIMG0876.JPG
・正面にエイズ問題に取り組む姿勢を示す「レッドリボン」が掲げられた国会議事堂前をパレードする参加者たち。



国際エイズ会議(AIDS2010) 注目される発表が相次ぐ

2010年7月21日

 ウィーンで開催されている「国際エイズ会議」(AIDS2010)では様々な研究成果が発表されている。中でも特に注目を集めているのが、女性の感染防止に効果がある「ゼリー薬」開発の発表だ。当地で7月19日に発表されると同時に米科学誌「サイエンス」電子版に掲載された。

 研究チームは、南アフリカのダーバンなどに住む18~40歳の女性889人を対象に臨床試験を実施。エイズ治療薬の抗レトロウイルス剤「テノフォビル」入りのゼリー薬を性交前と性交後12時間以内に女性器に塗る方法で実施した。

 その結果、ゼリー薬を塗った人は偽薬(プラシーボ)を使用した人に比べて感染のリスクが39%、定期的に使用した人は54%低下した。性器ヘルペスの感染リスクも51%低下したという。

 これまでHIV感染を防ぐにはコンドームが唯一で最適な手段だったが、今回のゼリー薬の開発で、選択肢が増えることになると期待されている。

 一方、ポスターセッションを中心に日本人研究者らの発表も相次いだ。熊本大学エイズ学研究センター・予防開発分野の岡田誠治教授は脳リンパ腫の国内での23症例について研究した成果を発表。岡田教授は「エイズ治療をしっかりやれば脳リンパ腫はほとんど出現しない。日本ではHIVに感染しているのに気がつかない人が多いので、早期発見早期治療がエイズでも重要だ」と話す。放射線療法より、化学療法が有効と強調する。

 また、看護師の河野小夜子さんは中央アフリカ共和国でインタビューと描画によりエイズ孤児たちの喪失体験を調査した結果などを発表した。孤児たちは「悲しい」「不幸」「悔しい」「苦しい」「抑圧」の5つで喪失体験を表出していたという。

( ウィーンで 杉山正隆 )

RIMG0611.JPG
・ 参加者の質問に答える看護師の河野小夜子さん。



RIMG0796.JPG
・ 熊本大学の岡田誠治教授もポスター発表した。



RIMG0817.JPG
・ 記者会見に臨む抗レトロウイルス入りのゼリー薬を
  開発した研究チーム。



RIMG0819.JPGRIMG0826.JPG
・抗レトロウィルス入りゼリー薬



[速報]国際エイズ会議、始まる いっそうの資金援助を求める声

2010年7月20日

 今も世界中でさまざまな悲劇を生み出しているエイズについて、感染者や医療関係者、政治・経済の指導者、学生らが解決方法を探る「国際エイズ会議」が7月18日、オーストリアのウィーンで始まった。23日までの日程で、世界190カ国から2万人あまりが参加する見込み。

 18日夜行われた開会式で、国際エイズ学会のジュリオ・モンタナ会長は「ギリシャなどへの支援はすぐに打ち出すのに、国連などで約束したエイズ支援を各国は破り続けている。私たちの財布には金はない」と強調。国連エイズ計画(UNAIDS)のミッシェル・シディベ事務局長は「経済危機もあり各国が厳しい状況にあることは分かるが、それを名目にしてエイズ対策の支援を減らすことは許されない」述べ、各国にいっそうの資金援助や対策強化を訴えた。

 開会式の冒頭、「一刻も早い支援を!」「エイズ対策に資金を」「先進国は約束を守れ」などのプラカードを掲げた100人を超すデモ隊が一時、開会式典の壇上を占領したため、式の進行が遅れるハプニングがあった。

 実質的な会議初日の19日には、ビル・クリントン元アメリカ大統領のキーノート・スピーチや、マイクロソフト社のビル・ゲイツ会長の特別講演などがあった。

 UNAIDSによると、2008年末では世界のエイズウィルス感染者・患者は約3340万人にのぼり、1年間に約200万人がエイズに関連した病気で死亡。貧困などで十分な治療を受けられない人は1000万人にもなる。1兆円も資金が不足しているとの分析もある。

( ウィーンで、杉山正隆 )


RIMG0435.JPG
・ 開会式典の壇上に上がり「一刻も早い資金拠出を」各国に訴える
 デモ隊のメンバーたち



RIMG0498.JPG
・ 開会式で国を挙げてエイズへの取り組みを約束する
 オーストリアのハインツ・フィッシャー大統領



RIMG0533.JPG
・ キーノート・スピーチするビル・クリントン元アメリカ大統領



RIMG0635.JPG
・ 特別講演するマイクロソフト社のビル・ゲイツ会長



RIMG0621.JPG
・ 会場内に掲げられた大きなバルーンにはG8の大統領らに
 約束どおりの資金拠出を訴える文言が。管首相の顔と名前もある。




生存権とは何か考え直すべきだ

 生活保護の老齢加算の廃止の是非が問われた裁判で福岡高裁は6月14日、廃止は正当な理由の無い不利益変更で「社会通念に照らし著しく妥当性を欠き裁量権の逸脱、濫用に当たる」と判断した
▼古賀寛裁判長は、生活保護基準の改定は「一定程度、厚生労働大臣の裁量にゆだねられている」としたが、専門委員会が①最低生活水準を維持するよう検討②激変緩和措置を講ずべき、とした中間取りまとめから4日後に財務省が老齢加算の廃止などを内示した点に着目
▼「考慮すべき事項を十分考慮していない」などとして一審の福岡地裁判決を取り消し、北九州市で生活保護を受給されている39人のお年寄りの原告「勝訴」判決となった。同様の裁判は原告敗訴が続いていたが、今後の訴訟や生活保護行政に大きく影響しそうだ
▼残り少ない人生、せめてごく普通の生活をしたい。そんな思いで立ち上がった74歳から92歳の原告たち。弁護団長の高木健康弁護士は「画期的判決であり原告はみな高齢なので国は控訴しないで欲しい。厚労省に老齢加算復活を申し入れに行きたい」と話す。一審判決では「憲法が保障する生活保護を下回っているとまでは言えない」などとして原告の訴えを退けていた
▼生活保護では、30万世帯が老齢加算を、10万世帯が母子加算を受給していたが自民党政権下での抑制政策により減額・廃止された。母子加算は、障害者自立支援法とともに政権交代で見直しが決まっている。この10年間、社会保障抑制策が次々に打ち出された。「まず削減ありき」の国は生存権とは何か考え直すべきだ。

新聞OB会北九州「温故知新」2010年6月22日

医療崩壊はどこの病院でも
医療を受けるのは「基本的人権」

 「ゼロの会」辻井喬さんとスペシャル対談

 医療機関での重すぎる窓口負担の解消などを目指し活動を続けている「ゼロの会」が4月3日、横浜・桜木町で作家・詩人の辻井喬氏をゲストにスペシャル対談を開催した。マイケル・ムーア監督の話題の最新作、ドキュメンタリー映画「キャピタリズム~マネーは踊る」の上映もあり、定員500人余りの会場には市民が詰め掛け立ち見が出るほどの盛況ぶりだった。
20100603.JPG
 辻井氏は実業家・堤清二として旧セゾングループ代表を務めたが、94年には「虹の岬」で谷崎純一郎賞受賞したのを皮切りに、作家・詩人として精力的に執筆活動を本格化させた。父・堤康次郎との確執と理解、自らの思いなど人間の複雑な内面を描写した「父の肖像」(2004年)では野間文芸賞を受賞。「消費社会批判」や「憲法に生かす思想の言葉」など社会や経済に関する著作も多い。3月には大平下首相の生涯を描いた「茜色の空」(文芸春秋)を刊行した。

 対談は、神奈川県保険医協会前理事長で糖尿病専門医の平尾紘一氏と進められ、ジャーナリストの早川幸子氏が司会を務めた。

 平尾氏は最初に、いつでも、どこでも、誰でも保険証1枚で病院に掛かれるのが日本の特徴で「WHO健康達成度で日本は世界一を誇るが、医療費は世界では21位と、安いのに質が良くとても効率的だった」と話した。「しかし、低医療費政策が長引き、国民の85%が3割負担となって治療中断や受診手控えなどが相次いでいる。私の病院でも、できれば栄養士さんなどスタッフをもう1人2人雇用できれば治療の成果が上がるのにそれができない。医療崩壊は、実はどこの病院ででも深刻な問題となっている」と強調した。

 辻井氏は、「医療などの社会保障は憲法で明確に定められているが、実際には十分ではないのは問題だ。医療はその国の状態を表す。アメリカの医療は、ある面では遅れているのに、政治家や官僚などは、そんな『アメリカのようになれば良い』と考えているのだろうか」と現在の医療政策に疑問を呈した。

 さらに辻井氏は「企業や財界人は働く人の立場に立って考えていない。社会保障の負担をしたくないので非正規雇用を増やす。弱い立場の人に冷たい企業、そして社会になっている。医療を受けられるというのは『基本的な人権』だ。人間を人間らしく大切に扱える制度や国にしなければならない」と指摘した。

 フロアーから活発な質問や意見が出された。ゼロの会に賛同している作家で精神科医のなだいなだ氏は「酒税をアルコール依存症の治療費に回そう。空気を悪くした企業が肺がんの治療費も出すべきだ。そうした観点も重要では」と発言した。

 対談に先立ち、前作「シッコ」に続き世界から注目を受けているマイケル・ムーア監督の2年ぶりの最新作「キャピタリズム~マネーは踊る」が上映された。資本主義大国・アメリカでは1%の富裕層が95%の富を独占。利益のために従業員に無断で生命保険を掛け、高金利で無理に勧めた住宅ローンが払えなくなると家を取り上げ放り出す。「利益と富がすべて」であるアメリカの実情を鋭く描いた映画に満場の拍手が沸き上がった。


人権侵害の指導、改めさせよう  保険医への指導、監査の改革を!3.13全国集会

保険医への行政指導を正す会

2010.3.13

 保険医らに対する指導で人権侵害が常態化している問題で、「保険医への指導、監査の改革を!3・13全国集会」が3月13日、東京都内で開かれ全国各地から医師・歯科医師や患者、弁護士ら約100人が出席した。自らも歯科保険医である国会議員が以前、指導に呼び出された際、異常な雰囲気で威圧されたことを話すなど、単に行政指導に過ぎないのに、保険医の人権が無視され、不正・不当との判断が一方的に押し付けられている実態があらためて明らかになった。

 集会は保険医への行政指導を正す会の主催。挨拶に立った川口浩衆院議員(民主党)は「保険医への指導などは異常な状態になっている。私も以前、共同指導に当たったことがあり、持参物が不足していたとの理由で、(監査への移行を意味する)『中止』『中止』と担当官から怒鳴られた経験がある」と述べ、改善に向けて全力を尽くすと決意を語った。

 また、初鹿明博衆院議員(民主党)は「(異常な指導がなされていることは)普通では考えられない事態。行政と国民が公平な関係でないのは問題。不正は論外だが、真面目な人が不当な圧力を受けることがないように取り組みたい」と話した。

 基調報告で、「成田国家賠償訴訟」の葛西聡弁護士が、国は個別指導に選ばれたおおまかな理由ですら回答を拒否する一方、実際に適切な治療をしているのに書類上、部位の記載間違いを理由に「自主返還」を強いたことなどを説明。「『指導は、国民の任意の協力によってのみ実現される』『(国などは)行政指導の趣旨、内容、責任者を明確に示さなければならない』と行政手続法で定められているのに、国は従わず論理矛盾した弁明に終始している」と裁判の状況を話した。

 シンポジウムでは、各地からの報告があった。岐阜市の大島健次郎氏は「私は内視鏡での手術・処置が中心なので平均点が高くなり、指導に呼び出される。『拒否とみなすぞ』と監査や取消をほのめかされることが何度もあった。医療費抑制の手段として使われているのは大きな問題」と指摘。「溝部訴訟」で患者の立場として「山梨小児医療を考える会」を立ち上げ支援する田中聡顕氏は「溝部先生はこどもや家族に優しく患者のことを最優先に考えてくれる。廃院されると本当に困る。お母さんたちを中心に患者会を作り3万人近い人が署名し国に公開質問状も出した。溝部先生への指導や監査、そして取消は非常に不条理で許せない」と話した。

 また、成田国賠訴訟の成田博之氏は訴訟に至った経緯と国の本音を解説。「本来、医療現場と行政が相互信頼の上に立って協力共同すべき。患者・国民、医療関係者の権利を擁護し、各者が施策に参加できる医療行政を実現しよう」と訴えた。

 最後に、「闘っている保険医を支援し、不当な指導や監査には保険医同士が支え合い共有し、正当な権利を主張して立ち上がろう」などとする集会アピールを採択した。(杉山正隆)
20100313全国集会.jpg
・写真は「患者・住民を巻き込んだ運動に拡げる契機に」と挨拶する「正す会」代表の大竹進氏



カネミ油症被害の集中する五島市で視察会ー保団連公害環境部

カネミ油症被害の集中する五島市で視察会ー保団連公害環境部

2009.12.20

 保団連公害環境対策部は11月22、23日の両日、長崎県五島市で公害視察会を開催し、カネミ油症患者・被害者26人を含む70人が参加した。福岡県からは歯科協会の杉山正隆副会長、医科協会の和田文夫理事が視察団に加わった。カネミ油症は「病気のデパート」と言われるほど様々な疾病が同時並行的に発症する。今回の視察会で歯科・口腔検診も行われ、1968年の事件発生から40年余りを経た今も被害者が救済されず、苦しんでいる実態が明らかになった。

 カネミ油症事件は、カネミ倉庫(本社・北九州市小倉北区)が製造した食用油にPCB(ポリ塩化ビフェニール)やダイオキシン類が高濃度に混入したことによって起きた。患者らは1970年にカネミ倉庫と鐘淵化学工業(現・カネカ)、国を相手取って損害賠償請求訴訟を起こし二審では患者らが国に勝訴し約830人が仮払金約27億円を受け取ったが、最高裁で逆転敗訴の可能性が高まったため、訴訟を取り下げた。

 油症患者は法的に救済されていないばかりか、国は仮払金の返還を求めるなどした。患者らは生活に窮したうえ、差別や偏見を受けながら、時間の経過とともに事件は風化してきた。しかし、2004年に認定基準がようやく見直され、仮払金が特例法により国が債権放棄するなど、被害者救済に向け動きはじめたが、数多くの問題が残されたままだ。

 今年、長崎県や五島市で未認定患者に対する健康調査が開始され、カネミ倉庫を相手に福岡地裁小倉支部で新たな訴訟が起こされたことをふまえ、保団連として長崎の離島である五島で視察会を実施した。

 初日の22日は、保団連公害環境対策部長の野本哲夫医師の主催者挨拶に続き、五島市健康政策課の吉谷清光課長が、全認定患者(1,927人)の3分の1以上にもなる697人の患者を抱えている五島市の被害者救済の取り組みについて報告。高齢化する被害者を早急に救済するため理解と支援を求めた。 

 また、弁護士の古坂良文氏がカネミ油症裁判の経過と現状や課題について報告した後、水俣協立病院の藤野糺名誉院長がカネミ油症と水俣病の類似点を含めた油症の医学的な到達点について講演した。藤野氏は、油症はダイオキシン問題の頂点に位置する重大な問題ととらえるべきで、実態解明をすすめ、医学的に問題が多かった診断基準を見直すなど、被害者救済が急務の課題と指摘した。

 23日は、五島市の奈留島を訪れ、患者・被害者との懇談、交流を行い、油症患者の実態を聞き取るとともに、希望者には簡易な歯科検診も実施した。
IMG_4667.JPG
 その結果、油症患者の口腔は出血傾向があることや、歯肉にメラニン様色素沈着が見られること、義歯装着者には疼痛がでやすいことなどが分かった。外見上、異常は軽微にとどまる一方、患者の苦痛は軽減しにくいことから、歯科治療の際、「不定愁訴が多く扱いにくい患者」などと扱われる恐れがあることが明るみに出た。
RIMG0085.JPG
 交流会で、被害者の会の宿輪敏子事務局長は「全国から医師・歯科医師の先生方が来て下さり感謝しています。今日、近年になく多数の患者が集まったのはお医者さんへの大きな期待があるから。みな体中のさまざまな症状や痛みに苦しんでいる。被害者を早く救済して欲しい」と訴えた。五島市訴訟原告団の古木武次団長は「賠償勧告に従わないカネミをやむなく提訴した。支援をお願いしたい」と話した。

 視察会では、①被害者の健康調査の実施、②油症の検診・研究事業の抜本的な見直し、③医療費の給付など医療・生活支援措置、④認定基準の抜本的見直し、を求めるアピールを採択し、政府・厚生労働省はじめ関係機関に送付した。



鳩山政権1カ月 社会保障政策でも疑問符 公約と政策に目立つ食い違い

鳩山政権1カ月 社会保障政策でも疑問符 公約と政策に目立つ食い違い

2009.10.27

 鳩山政権が誕生して1カ月余り。今年度1次補正予算の見直しと、2次補正予算の立案、来年度予算の概算要求を進める中で、マニフェストなどの政権公約と、実際の政策との間に大きな食い違いが表面化しつつある。世論調査で期待する閣僚に挙げられた長妻昭・厚生労働大臣だが、医療関係者から「明確な公約違反がある」と指摘されるなど社会保障政策でも疑問符が点き始めた。

ITできない医師は廃業か
 その1つが、「レセプトオンライン義務化」を巡る政策の転換だ。医療費の請求手続きがIT化され、1年余りでほぼ完成される。医療機関が患者に代わって手続きするため問題化しにくいが、患者の氏名や生年月日、病名、治療内容などの個人情報が含まれる。国が蓄積して活用し、住基ネットなどと組み合わせることで、機密性の高い個人情報を国が握ることになる。これらの情報利用は民間への開放が前提となっており、悪用や情報漏えいが懸念される。


 民主党は、従来の手書き請求を容認する「原則化」をマニフェストで公約した。山間地や離島の診療所や高齢の医師などから廃業せざるを得ないとの悲鳴が全国から湧き上がり、訴訟に発展したことにも配慮した。

 しかし、長妻大臣は10月9日、「将来的には100%オンライン化したい」と述べ、医師全員が高齢な場合や小規模医療機関は当面、除外する例外規定などを新設した上で、実施する方針を打ち出した。

 民主党のベテラン衆院議員の1人は「IT化できない医師は廃業しろ、というのは問題だ。政権を取ると国民の情報を管理できる方が都合が良いから変節したのだろうが、公約違反だ」と眉をひそめる。自公政権下とは異なり、議員個人や党の部会などの意見が尊重されにくく、鳩山首相ら首脳と、大臣、副大臣、政務官の政務三役で政策を決定することへの批判が強い。


医療崩壊の対策は後回し?
RIMG0200.JPG
 生活保護の母子加算は年内に復活しそうだが、障害者自立支援法廃止は未定だ。後期高齢者医療制度の廃止について、長妻大臣は「1期4年の中で実現する」とトーンダウン。一部は来年4月の診療報酬改定の中で先行実施する意向を明らかにするにとどまった。

 その診療報酬を答申する中央社会保険医療協議会(中医協)について、政府は廃止か権限縮小など大幅に見直す検討に入った。自民党の支援組織・日本医師会の影響を排除するのが目的だ。しかし、専門性の強い診療内容を国会で詳細まで決めるのは不可能。公平性・中立性を保つのは容易なことではない。

 医療崩壊が社会問題となったのを受け、診療報酬を10%程度上げて医療費を増やすことを民主党は公約していたが、来年度予算の概算要求では3000億円と約4%上げにとどまった。医療関係者からは「焼け石に水。とても医療を立て直せない」との声が上がっている。

 政府は、「年越し派遣村」元村長で反貧困ネットワーク事務局長の湯浅誠氏を国家戦略室の非常勤政策参与として迎えた。臨時国会の論戦と来夏の参院選を控え、厳しい財政状況を見極めつつ、国民生活を立て直す政策を打ち出せるのか。社民党、国民新党とともに、民主党の正念場はこれからだ。

〔写真説明〕
RIMG0203.JPG
 湯浅誠氏らが参加した社会保障充実を求めるシンポジウムには500人を超す市民が詰め掛けた(9月27日、東京・新宿。「貧困をなくし社会保障を守る『基本法』を考えるシンポジウム」。撮影・杉山正隆)
RIMG1062.JPGRIMG1067.JPG
 特別国会が召集された9月16日には、8月30日の総選挙で当選した新人議員らも初登院した(9月16日、東京・永田町。撮影・杉山正隆)

日本ジャーナリスト会議(JCJ)発行
「ジャーナリスト」2009年10月25日
(出稿10月15日、編集10月20日)


私たちも変わらねば

私たちも変わらねば

 総選挙で民主党が「圧勝」。民社国の連立合意、そして首班指名と異例づくめの政局だ。

 朝日新聞は9月10日付けのコラム「天声人語」で社民を7キロのスピッツ、国民新を3キロのチワワに例えたのはおもしろい。小さくともキラリと光る、か。一方の民主は308キロのクマ。「頭脳と度量の見せどころ」に期待したい。
 天声人語でも「気がかり」としているのが119キロの自民イノシシだ。得票率は民主党に迫ったのだが、結果は惨敗。公明は代表はじめ幹部の多くが落選した。小選挙区の怖さが身に染みただろう。

 共産は2大政党の「逆風」の中、何とか踏ん張った。政権の一角に入った社民と路線の違いはあるが、革新勢力ができるところでは協力・協調し、医療、年金、介護などの社会保障を立て直して欲しい。

 民主主義で誤解されているのが、「多数決の論理」。1票(人)でも多ければ、多い方の意見が通る、と考えがちだが、実は事情は違う。「多数派が少数派に歩み寄り、少数派の違憲を採り入れて合意形成に努力する」のが正しい姿だ。

 ヒットラー下のドイツで、絶対多数を得たナチスが「民主主義」により、非道な政策を繰り返し、歯止めを掛けられなかった反省から「修正」されたものだ。新政権では、少数派の意見を尊重し、日本を根本から変えて欲しい。

 そして、重要なのが私たちがどんどん声を上げて運動することだ。政治を動かすのは政治家ではなく国民。生活に直結する政治を変えるには私たちが変わるしかない。
新聞OB会機関紙 2009年9月号 コラム 「ひろば」より


第9回アジア・太平洋地域エイズ国際会議 (9th ICAAP) バリ島で開催

第9回アジア・太平洋地域エイズ国際会議 (9th ICAAP) バリ島で開催

 今も世界中で感染者が増え続けるHIV/エイズ。問題解決に向け、さまざまな角度から話し合う「第9回アジア・太平洋地域エイズ国際会議」(9th ICAAP)が8月9日から13日、インドネシア・バリ島のヌサ・ドゥア国際会議場で開かれた。会議にはアジア地域を中心に78カ国から約6000人が参加し、2000を超す演題が発表された。日本からは医師や栄養士、大学生ら約50人が出席し、食べ物を適切に口から摂取する重要性が再認識され、「より良く食べることで、生活の質(QOL)が向上する」ことなど歯科に関連・隣接する分野で大きな注目が集まった。

 今回の会議のテーマは「Empowering Peoples, strengthening Networks」(人々に力や権限を取り戻させ、ネットワークを強めよう)。程度の差こそあれ、世界中でエイズの流行が拡がって20年以上になる。グローバル化が進むにつれ、人々の移動や移住に対応する介入策や、地球規模、地域規模での対策が一段と重要になっている中での会議だった。

 7月末の大統領選挙で再選されたばかりのスシロ・バンバン・ユドヨノ大統領も大統領特別機で空路バリ島に入って開会式に出席。各国に手を携えてエイズ対策に取り組むよう訴える一方で、国内での啓蒙・啓発活動などに今後いっそう力を入れることを公に約束した。

 エイズは「死の病」だった10年前と異なり、治療費を払い、薬さえ飲めば永く生きられる「慢性病」へと質を大きく変化させた。根本治療としてのワクチン開発が期待されてはいるが、依然開発には至っていない。このため、近年の国際エイズ会議では、生活の質をどう向上させるかや、予防法や啓発に関する発表が多くを占めるようになった。

 今回も、日本から多くの栄養士が参加するなど、口から十分な栄養素をしっかり摂取することをあらためて見直す発表が多くなされた。管理栄養士の吉森悠さんは「エイズなどの慢性疾患でも、いくら薬を飲んでいても、栄養の偏りがあれば薬効が十分あらわれないこともある」と指摘。また、別の栄養士は「会議に参加している日本人歯科医師から歯ブラシや口腔清掃の重要性を教わり、たいへん勉強になりました。栄養士と歯科医師・歯科衛生士が連携すれば、患者さんのQOL向上にさらに役立つのでは」と歯科分野への期待を語った。
RIMG0695.JPG
( 2000を超す演題が発表され、歯科関連分野の発表が目立ったICAAP「バリ会議」 )



 大学生や20歳代の若者たちの活躍も目立った。東京経済大学の大学生ら7人はアルバイトで旅費と参加費を捻出し会議に参加し、会議やスタディ・ツアーなどにも積極的に出掛けた。指導に当たったオーストリア人講師のケイトリン・ストロネルさんは「日本人の若者たちも捨てたものじゃないです。各国の青年たちと交流したのは素晴らしい経験。将来に生かして欲しいですね」と話した。
RIMG0852.JPG
( エイズへの取り組み強化と支援を求め、大学や高校生らがデモ行進 )



 わが国では6時間に1人の割合で感染者が増え続け、感染者数は2万人~3万人程度とみられている。先進国の中でもペースが落ちず一貫して増加しているのは日本ぐらいだ。一般の歯科医院などにも、感染の事実を告げずに、来院するケースも少なくないとみられる。しかし、HIVは日常生活などでは感染しない。歯科医院では針刺し事故などに注意するとともに、抵抗力の落ちている感染者に術者らから風邪などをうつさないようにする心配りも重要だ。「ユニバーサル・プレコーション」や「スタンダード・プレコーション」と言われる標準的な感染防護を歯科医院でも取り、積極的に治療に当たるようにしたい。そして、歯科治療だけでなく、口腔衛生指導など歯科分野での貢献は十分できるはずだ。
日本歯科新聞8月25日=速報として掲載=


市立札幌病院事件 罰金6万円の一、二審判決を支持 最高裁

市立札幌病院事件 罰金6万円の一、二審判決を支持 最高裁

2009.7.29

 市立札幌病院救命救急センターで研修中の歯科医師(口腔外科医)に資格外の医療行為をさせたなどとして、医師法17条(医師以外の医業の禁止)違反の罪に問われた元センター部長の医師、松原泉被告(59)の上告審で、最高裁第2小法廷(今井功裁判長)は7月23日付けで、松原被告の控訴を棄却する決定をした。罰金6万円とした二審判決が確定する。
 裁判官4人全員一致の決定。松原被告側は「医師法の医業の概念は不明確だ」などと主張したが、今井裁判長は「憲法違反などの上告理由に当たらない」と退けた。

 二審(札幌高裁)で、松原被告側は「研修は正規の手続きを経て、指導医の下で安全に行われ、医師法違反にはあたらない。歯科医師であるとのネームプレートをつけていた。患者の様態が急変した場合の対応能力を向上させるための正当行為で、違法性も阻却される」と主張。検察側は「歯科医師は歯を見るのが職務であり、医療の無資格者。医療行為を習得する研修を受ける必要性はない。患者の急変があっても、救急医に引き継ぐまでの間、救命処置をすれば足りる」とし、全面的に対立した。

 札幌高裁の矢村宏裁判長は「歯科医師が緊急事態に対処する能力を身につけるために救急研修は必要」と認定した。しかし、同センターで行われていた研修は「患者に歯科医師であるとの説明がほとんどなされておらず、医師とほぼ同様の立場で医行為をしていた」などとした。研修には医師による常時の監視・付き添いが必要とし、一審判決後に厚生労働省が作成した「ガイドライン」に照らしても違法性は退けられない、との判断を示し、08年3月、検察の求刑通り、罰金6万円の有罪判決を言い渡した。
 二審判決などによると、松原被告は1998年8月から2001年3月にかけ、医師の免許を持たない歯科医師3人を同センターの研修医として順次受け入れ、7人の救急患者に対し、院内や救急車内で腹部触診や気管挿管などの医療行為を行わせたとして医師法違反の罪に問われていた。

 一審(札幌地裁)に先立ち、研修医ら3人は、責任は小さいなどとして起訴猶予処分になった。医師法17条違反は「3年以下の懲役または100万円以下の罰金」だが、検察の松原被告への求刑は罰金6万円だった。
(歯科医師・ジャーナリスト 杉山正隆) =日刊歯科通信2009年7月29日付け=

派遣切りや生活保護などの生活困窮者 医療、住宅など多岐にわたる悩みが深刻に 特に歯科で治療を受けられない現状が明らかに

派遣切りや生活保護などの生活困窮者 医療、住宅など多岐にわたる悩みが深刻に 特に歯科で治療を受けられない現状が明らかに

2009.7.14

日本歯科新聞 2009年7月7日付け なんでもかけこみ相談会in北九州

 景気悪化のあおりを受け深刻化する派遣切りや雇い止め、生活保護などの問題について、医療、法律、労働、住宅などについて専門家が相談に応じる「なんでもかけこみ相談会&ホットラインin北九州」が6月28日、北九州市の市立生涯学習総合センターで開かれた。医師や弁護士らで作る実行委員会が主催し、北九州市医師会や県弁護士会などが後援し、電話を含め70件を超す相談があった。

 医師・歯科医師をはじめ、弁護士や司法書士、社会福祉士などの実行委員130人が会場や無料電話で相談に乗った。おにぎりや豚汁、惣菜の炊き出しがふるまわれ、歯ブラシや洋服、下着などの生活必需品の配布もあった。

 北九州市では、生活保護の申請希望者が役所窓口などに訪れても、申請書をすぐには渡さず再考させるなどの「水際対策」を採ってきた。何度も窓口で申し入れても生活保護を受けられず、生活に困窮し餓死した状態で発見される事例が毎年のように出る事態となり、「闇の北九州方式」と恐れられ大きな社会問題になった。厚生労働省は表向き、同市の対応は「問題がある」としながらも、社会保障費の1つである生活保護費が削減されることに注目。強い批判を浴びた同市は対応を一部、改善したものの、北九州方式を採り入れようとする自治体は少なくない。

 世界同時不況が追い討ちを掛け、悪化する雇用情勢に危機感を強めた弁護士や司法書士を中心に、これまで個別の相談や炊き出しなどを実施してきた。状況が一向に改善しないことから各団体が集結し5月に実行委員会を発足。一体的な相談会の開催で、生活に困った人たちを一体的、総合的に支援しようと準備してきた。

 この日の医療相談では、訪れた53人のうち約3割の14人は健康状態が「不良」と判断され、治療に行くようアドバイスを受けた。特に、歯科では治療を受けられず、歯がほとんど失われたり、多数のムシ歯のまま放置されている人がほとんどだった。健康保険も30人ほどが無保険の状態で、治療を受けたくても受けられない状況にあることが分かった。また、無年金の人が多く、生活費が底をついた人が半数に上った。

 実行委員会では、寄せられた相談について、生活保護申請や医療、年金、多重債務、住宅などの支援を継続するとともに、市や県、国などに対し支援体制の改善などを求めていくことにしている。

 実行委員の高木佳世子弁護士は「生活に困って、1人で多くの問題を抱えてしまう人が多い。医療・健康問題などは後回しにせざるを得なくなり、さらに問題解決が難しくなる実態がある。今後も相談会の開催を検討したい」と話す。

 厚労省が6月30日に発表した5月の有効求人倍率は0・44倍。99年5、6月と並んで過去最低の0・46倍だった4月を下回り、最低を更新した。総務省が同日発表した労働力調査(速報)によると、5月の完全失業率は03年9月以来、5年8ヶ月ぶりの水準の5・2%と悪化し、過去最低(5・5%)に迫っている。労働局の幹部は「政府内でも一部に景気底打ちとの意見もあるが、現場ではそういう実感はない。まだ悪くなるかもしれない」と話す。

 不況に加え、政策ミスのしわ寄せが、医療、特に歯科領域で「国民皆保険」の恩恵に預かれない「放置」の形で現れている。歯科医療も社会保障の一部であることを厚労省をはじめとする行政や歯科医療関係者は心し、施策に反映させるべきだろう。
(歯科医師・ジャーナリスト 杉山正隆。写真も)

画像 1439.jpg画像 3031.jpg
写真説明 相談会では医師や歯科医師、弁護士らが一体的に生活困窮者への相談に応じた。(撮影・杉山正隆)


新型インフルエンザ 冷静さ欠く日本の行政とメディア 「医療崩壊」の現状で困難な対応

新型インフルエンザ 冷静さ欠く日本の行政とメディア 「医療崩壊」の現状で困難な対応

 大型連休をはさみ世界に拡がる新型インフルエンザ。国内でも感染拡大が続き学校の休校など大規模の措置が取られたが、毒性が想定されより低かったこともあり、各国では早期治療や病弱者対策に軸足をおいた冷静な対策がなされた。しかし、わが国では舛添要一厚生労働大臣のメディアへの露出が目立つ一方、「封じ込め対策から早く政策転換すべきだ」と内外から批判が出るなど問題点が明るみになってきた。

 日本では諸外国では行われない「機内検疫」を実施。新型を疑われた例を舛添大臣自ら次々に発表するなど極めて異例の対応を取った。WHO(世界保健機関)は、検疫に感染症の拡がりを減らす効果は認められない、との見解を5月7日にあらためて発し、国際交通に影響を及ぼす方策を採る国は、その理由と証拠を提出するよう求めた。

 厚労省の膨大な情報発信もあり過剰反応も相次いだ。教育委員会の中には、生徒や家族がメキシコや米国、韓国を訪問した場合は、帰国後10日間、学校を休ませるなどの例が続出。日本初の感染者が出た高校には「なぜ旅行先でマスクをしなかったのか」など批判の電話や手紙が殺到した。米国、カナダなどでは「マスクは効果が薄い」が常識であり、過信はかえって危険なのだ。

 海外出張や学会参加を中止する例が日本人のみ頻発。「東京かぜと命名すべき」と皮肉る報道もあった。

 アジア各国では冷静な対策が取られた。香港では、発熱や渡航先などを調べる質問票を基に検疫官からの質問はあったが、予防法を記した文書が配られ早期治療をPRする放送が繰り返されたほか、手洗いや洗口器具が特設された。韓国やタイ、スリランカ、UAEでは通常と同様の対応で、トップニュースなどでの報道はされたが、日本のように通常の番組や記事を差し替えてまでの展開はなかった。

 ウイルスは姿を変化させて人間に脅威を及ぼす。今後、病原性が高まったり、別のH5N1などが流行したりする可能性が高い。感染症の専門家は「効果の薄い水際対策に躍起になった日本政府のパニックぶりは問題だ。致死率の高い本当の『新型』などの感染症には対応できない」と話す。

 早期の発見・治療が重要で、病気にならない健康づくりが重要なのは感染症に限ったことではない。厚労省は感染症外来を整備しているとするが、これは安上がりだが不十分な対策だ。強力に推し進めた医療費抑制政策の影響で、医師や看護師が不足する「医療崩壊」に至った現状では、感染症への対応は困難だ。

 新たな感染症の発生は今後も続く。不採算を理由に廃止を進めた公的病院を復活させる必要がある。感染者らを隔離するにしても期間を不必要に長くせず、発生した損害は一定額補償する制度を確立すべきだ。また、今後は予防と早期治療を確実に行い、妊産婦や乳幼児、糖尿病・高血圧などの病気を持つ人の体調管理を徹底すべきだろう。

 専門家は「今回の新型は毒性、病原性は低く、感染力は従来型と同程度。伝播性は強い」と見るが、こうした用語を正確に理解する報道は少ない。情報量が多ければ良いというものではない。過剰反応や無関心を防ぐべく、背景を含めた解説記事を充実させる必要がある。(日本ジャーナリスト会議運営委員 杉山正隆)

RIMG0505.JPGRIMG0509.JPG
香港では出国直前にあわててマスクをつける家族連れが目立った
日本ジャーナリスト会議(JCJ) 「ジャーナリスト09年5月号」より

北九州・小倉で医療問題緊急集会
 JCJ北九州支部は新聞OB会北九州と5月31日(日)北九州市小倉北区の朝日新聞西部本社4階「さんさん広場」で、医療問題緊急集会を開く。テーマは「今日の医療問題について考えるーどうなる後期高齢者医療制度、介護保険~新型インフルエンザの現地報告を交えて~」。

 講師は、歯科医師でジャーナリストの杉山正隆氏。杉山氏は元毎日新聞(東京)記者。94年の「横浜会議」以来、国際エイズ会議に毎年出席するなどエイズをはじめとする感染症に詳しい。「神戸会議」の際は、関西空港検疫所でHIV(エイズウイルス)感染者の受け入れ支援やメディアセンター運営などを担当した。

 杉山氏は、今回の日本での対応について、「政府やマスコミがパニックに近い状態になっており、それによる被害が出始めている。感染症対策のノウハウを蓄積しているアメリカなど各国の冷静な対応に学び、バランスの取れた対策に戻るべきだ」と話す。

 そして、大型連休中に取材に入った香港、韓国、タイなどでの新型インフルエンザ対策の実情を報告。参加者とともに、国の失政により「医療崩壊」に至った現状を見据え、不採算を理由に廃止を進めた公的病院を見直すことや、諸外国と比べて少ない医療費を増やすなど、医療を充実させる手法などを話し合う。

第23回保団連医療研究集会 第17回国際エイズ会議

第23回保団連医療研究集会 第17回国際エイズ会議

2008.11.27

ポスターセッション資料
LinkIcon国際エイズ会議①
LinkIcon国際エイズ会議②

日本ジャーナリスト会議(JCJ) 「ジャーナリスト」より

国際エイズ会議
止まらぬ患者増、深まる危機感 問われる日本メディアの無関心

2008.10.25

 今も感染者が増え続けるHIV/エイズ。問題.解決に向け様々な角度から話し合う第17回国際エイズ会議が8月、メキシコシティであった。ラテンアメリカ初となった会議には194力国から2万5千人の医師や感染者、NGO(非政府組織)、政府代表らが参加した。パン・ギムン国連事務総長やクリントン前米大統領ら政治指導者が多数出席したほか、3千人を超す記者が全世界に会議の模様を連日、発信した。しかし日本ではほとんど報道されず、取材や報道姿勢の違いが際立った会議となった。

 パン国連事務総長は「エイズへの対応には長期的かつ持続的な資金供給が必要」と強調し、2010年までに全ての人々が治療や薬を得られるように、との国連などの提言を守るよう各国に求め、「世界規模での予防と治療の『ユニバーサル・アクセス』を実現させよう」と強く訴えた。

 エイズの感染経路は性行為や母子感染等によると分かっており、ワクチンなどの根本的治療法は未開発ではあるものの、予防法も確立しつつあり「死なずにすむ病気になった」(日本人研究者)。だが、年間の新規感染者は270万人と感染拡大は続いており、理想とされる「ユニバーサル・アクセス」には程遠いのが現実だ。貧しさや差別などから医学の恩恵を受けられない人が多く、みすみす助かる命が今も失われているのだ。

 最新の研究成果などの演題は1万を超し、メディアセンターは常時満席の状態。CNNやBBCなどは特設スタジオから特別番組を放送した。日本のメディアも、毎日新聞、共同通信の現地駐在・記者らが記事を送ったほか、NHKが東京や北米総局から取材クルーを派遣。時事通信なども出稿した。だが、実際に掲載されたのは開会式の模様を短く伝える記事が中心で、踏み込んだ内容はほとんどなかった。日本のメディアを見ると、「エイズはすでに過去のこと」のようだ。

 だが、先進国やアジアの中で感染者が目立って増加しているのが他ならぬ日本だ。厚生労働省エイズ動向委員会によると、日本では96年以降、増加が続き、07年の新規感染は1082件。エイズ患者418件と合わせて1500件で過去最高となった。30、40歳代が中心だが、若年層に加え、60歳以上でも増加傾向を強める。

 会議に日本からも研究者ら50人余りが出席したのは強い危機感からだ。エイズは病気の側面だけでなく、人間社会の様々な歪みを映し出した悲劇である。

 黙殺を決め込んだ日本のマスコミは、メディアの感覚が問われている。(運営委員 杉山正隆)

新聞OB会北九州会報コラム「温故知新」より

新聞OB会北九州会報コラム「温故知新」より

2008.10.21

 年金での不祥事に加え、「長寿医療」を巡る問題が噴出。厚生労働省・社会保険庁は何をやってきたのか。違法行為や不正が強く疑われるのに、誰も責任を取らない。「官僚や労組が悪い」と麻生首相らは言うが、行政組織を監督する与党に責任があるのは明確だ。

▼厚労省・社保庁の「もう一つの闇」と指摘されるのが、医師や医療機関への「指導」だ。不正請求防止などの名目で、医師らを呼び出し、暴言や脅迫などで医療費を返還させる。医療費抑制を進めようと強化され、各地で医師が自殺に追い込まれる例が急増している。

▼高熱に苦しむ子どもを診た医師は、保険では子どもに使えない特効薬を、引率の母親に出したことが「不正請求」として保険医を抹消された。ある歯科医師は、カルテ記載ミスを理由に何度も呼びつけられ、「診療できなくしてやるぞ」と怒鳴られ自殺を図った。

▼保険のルールを決めるのも、変えるのも、不正か否か判断するのも厚労省・社保庁。秘密のべールの中で恣意的に運用されるのが実態だ。国や医師会などに都合の悪い医師に「不正」のレッテルを貼って抹殺するのは簡単なのだ。

▼「まるで特高警察」と危機感を強めた医師や弁護士らが「指導・監査・取消処分支援ネット」を結成。支援集会では、医師らに対しセクハラやパワハラを繰り返した社保庁職員を断罪する勝訴判決の報告もあった。

▼官に甘く民に辛い日本。それを変えるには行動するしかない。日本を「民主主義国家」へと脱皮させるために、総選挙は最良の方法だ。(杉山正隆)

全国保険医新聞 2008年10月5日号より

行政の違法行為や人権侵害  裁判での闘い支える  指導・監査・取り消し処分  支援ネットの集会に70人

20080923_01.jpeg「ネット」の結成報告を兼ねた支援集会のもよう 保険医・保険医療機関に対する指導や監査と、その結果、課される取り消し処分などに対し、司法の場で闘う医師・歯科医師らを支援する「指導・監査・取り消し処分支援ネット」がこのほど結成された。同ネットの結成報告を兼ねた支援集会が9月23日、東京で開かれ全国から70人が参加。保険医に対して違法行為や人権侵害が行われている実態が明らかにされた。保団連の住江憲勇会長は、集会にメッセージを送った。

 集会では、支援ネットの高久隆範代表世話人が、40年以上にわたり個別指導が密室で恣意的に行われ多くの自殺者が出たのに改善されることがなかったことを強調。「保険医取り消しを目的とした『狙い撃ち監査』ともいうべき手法が取られている。こうした理不尽に患者さんからも励まされ、画期的な勝訴などを得てきたのは、本日参加している先生方の奮闘があったからだ」と話した。そして、「訴訟を傍観するだけでは指導や監査の改善は絶対にあり得ない。長年、保険医を苦しめてきた指導・監査・取り消し処分という構造自体を訴訟支援を通じ、根本的に変えるべきだ。積極的な支援をお願いしたい」と呼び掛けた。

保険医にとっては「死刑」に等しい

 岡山県の歯科医師、暮石智英氏は、国家賠償請求訴訟を起こした経緯を報告した。地裁、高裁で敗訴はしたものの、①指導に従うか否かは保険医の任意②指導を従わなかったことを理由に不利益な取り扱いはできない。

③指導官らの見解に異論がある場合は同意できない旨を述べ指導に従わないこととすればよい、など暮石氏の主張の核心部分が認められた。

 兵庫県の「細見訴訟」弁護団の西田雅年弁護士は、神戸地裁は被告の兵庫社会保険事務局の保険医取り消し処分について、裁量権の範囲を逸脱。濫用があったとして違法と結論付ける画期的な勝訴判決だったと話した。

「取り消しは保険医にとって『死刑』ともいえるもの。戒告・注意との差が大きすぎる。指摘で直させればすむものまで安易に取り消しにされているのは問題だ」とした。

 また、保険医取り消し処分の執行を停止する勝訴の決定を得た山梨県の医師、溝部達子氏や、監査に対し国家賠償請求訴訟を起こした高知県の歯科医師、塩田勉氏から報告があった。「暮石訴訟」「塩田訴訟」弁護団の竹内俊一弁護士は「違法で不適切な『患者調査』がなりふり構わず行われている実態もある。全国から指導や監査などの情報を集め分析したい」と述べた。

 支援ネットの事務局は岡山県保険医協会(電話086-277-3307)内に置かれている。

支援ネットへLinkIcon

何が医療を崩壊させているのか-瀕死の医療現場をみる

何が医療を崩壊させているのか-瀕死の医療現場をみる

-都市問題-特集② 崩壊する救急医療より

こちらからLinkIcon