投 稿
杉山 正隆(すぎやま まさたか)
福岡県歯科保険医協会副会長
5年間、毎日新聞(東京)記者をつとめ、現在もフリーの
記者として医療・社会の分野を中心に活動中。
患者の権利オンブズマン正会員。
杉山歯科医院副院長(北九州市小倉北区)
カネミ油症被害の集中する五島市で視察会ー保団連公害環境部
カネミ油症被害の集中する五島市で視察会ー保団連公害環境部
2009.12.20
保団連公害環境対策部は11月22、23日の両日、長崎県五島市で公害視察会を開催し、カネミ油症患者・被害者26人を含む70人が参加した。福岡県からは歯科協会の杉山正隆副会長、医科協会の和田文夫理事が視察団に加わった。カネミ油症は「病気のデパート」と言われるほど様々な疾病が同時並行的に発症する。今回の視察会で歯科・口腔検診も行われ、1968年の事件発生から40年余りを経た今も被害者が救済されず、苦しんでいる実態が明らかになった。
カネミ油症事件は、カネミ倉庫(本社・北九州市小倉北区)が製造した食用油にPCB(ポリ塩化ビフェニール)やダイオキシン類が高濃度に混入したことによって起きた。患者らは1970年にカネミ倉庫と鐘淵化学工業(現・カネカ)、国を相手取って損害賠償請求訴訟を起こし二審では患者らが国に勝訴し約830人が仮払金約27億円を受け取ったが、最高裁で逆転敗訴の可能性が高まったため、訴訟を取り下げた。
油症患者は法的に救済されていないばかりか、国は仮払金の返還を求めるなどした。患者らは生活に窮したうえ、差別や偏見を受けながら、時間の経過とともに事件は風化してきた。しかし、2004年に認定基準がようやく見直され、仮払金が特例法により国が債権放棄するなど、被害者救済に向け動きはじめたが、数多くの問題が残されたままだ。
今年、長崎県や五島市で未認定患者に対する健康調査が開始され、カネミ倉庫を相手に福岡地裁小倉支部で新たな訴訟が起こされたことをふまえ、保団連として長崎の離島である五島で視察会を実施した。
初日の22日は、保団連公害環境対策部長の野本哲夫医師の主催者挨拶に続き、五島市健康政策課の吉谷清光課長が、全認定患者(1,927人)の3分の1以上にもなる697人の患者を抱えている五島市の被害者救済の取り組みについて報告。高齢化する被害者を早急に救済するため理解と支援を求めた。
また、弁護士の古坂良文氏がカネミ油症裁判の経過と現状や課題について報告した後、水俣協立病院の藤野糺名誉院長がカネミ油症と水俣病の類似点を含めた油症の医学的な到達点について講演した。藤野氏は、油症はダイオキシン問題の頂点に位置する重大な問題ととらえるべきで、実態解明をすすめ、医学的に問題が多かった診断基準を見直すなど、被害者救済が急務の課題と指摘した。
23日は、五島市の奈留島を訪れ、患者・被害者との懇談、交流を行い、油症患者の実態を聞き取るとともに、希望者には簡易な歯科検診も実施した。
その結果、油症患者の口腔は出血傾向があることや、歯肉にメラニン様色素沈着が見られること、義歯装着者には疼痛がでやすいことなどが分かった。外見上、異常は軽微にとどまる一方、患者の苦痛は軽減しにくいことから、歯科治療の際、「不定愁訴が多く扱いにくい患者」などと扱われる恐れがあることが明るみに出た。
交流会で、被害者の会の宿輪敏子事務局長は「全国から医師・歯科医師の先生方が来て下さり感謝しています。今日、近年になく多数の患者が集まったのはお医者さんへの大きな期待があるから。みな体中のさまざまな症状や痛みに苦しんでいる。被害者を早く救済して欲しい」と訴えた。五島市訴訟原告団の古木武次団長は「賠償勧告に従わないカネミをやむなく提訴した。支援をお願いしたい」と話した。
視察会では、①被害者の健康調査の実施、②油症の検診・研究事業の抜本的な見直し、③医療費の給付など医療・生活支援措置、④認定基準の抜本的見直し、を求めるアピールを採択し、政府・厚生労働省はじめ関係機関に送付した。
鳩山政権1カ月 社会保障政策でも疑問符 公約と政策に目立つ食い違い
鳩山政権1カ月 社会保障政策でも疑問符 公約と政策に目立つ食い違い
2009.10.27
鳩山政権が誕生して1カ月余り。今年度1次補正予算の見直しと、2次補正予算の立案、来年度予算の概算要求を進める中で、マニフェストなどの政権公約と、実際の政策との間に大きな食い違いが表面化しつつある。世論調査で期待する閣僚に挙げられた長妻昭・厚生労働大臣だが、医療関係者から「明確な公約違反がある」と指摘されるなど社会保障政策でも疑問符が点き始めた。
ITできない医師は廃業か
その1つが、「レセプトオンライン義務化」を巡る政策の転換だ。医療費の請求手続きがIT化され、1年余りでほぼ完成される。医療機関が患者に代わって手続きするため問題化しにくいが、患者の氏名や生年月日、病名、治療内容などの個人情報が含まれる。国が蓄積して活用し、住基ネットなどと組み合わせることで、機密性の高い個人情報を国が握ることになる。これらの情報利用は民間への開放が前提となっており、悪用や情報漏えいが懸念される。
民主党は、従来の手書き請求を容認する「原則化」をマニフェストで公約した。山間地や離島の診療所や高齢の医師などから廃業せざるを得ないとの悲鳴が全国から湧き上がり、訴訟に発展したことにも配慮した。
しかし、長妻大臣は10月9日、「将来的には100%オンライン化したい」と述べ、医師全員が高齢な場合や小規模医療機関は当面、除外する例外規定などを新設した上で、実施する方針を打ち出した。
民主党のベテラン衆院議員の1人は「IT化できない医師は廃業しろ、というのは問題だ。政権を取ると国民の情報を管理できる方が都合が良いから変節したのだろうが、公約違反だ」と眉をひそめる。自公政権下とは異なり、議員個人や党の部会などの意見が尊重されにくく、鳩山首相ら首脳と、大臣、副大臣、政務官の政務三役で政策を決定することへの批判が強い。
医療崩壊の対策は後回し?
生活保護の母子加算は年内に復活しそうだが、障害者自立支援法廃止は未定だ。後期高齢者医療制度の廃止について、長妻大臣は「1期4年の中で実現する」とトーンダウン。一部は来年4月の診療報酬改定の中で先行実施する意向を明らかにするにとどまった。
その診療報酬を答申する中央社会保険医療協議会(中医協)について、政府は廃止か権限縮小など大幅に見直す検討に入った。自民党の支援組織・日本医師会の影響を排除するのが目的だ。しかし、専門性の強い診療内容を国会で詳細まで決めるのは不可能。公平性・中立性を保つのは容易なことではない。
医療崩壊が社会問題となったのを受け、診療報酬を10%程度上げて医療費を増やすことを民主党は公約していたが、来年度予算の概算要求では3000億円と約4%上げにとどまった。医療関係者からは「焼け石に水。とても医療を立て直せない」との声が上がっている。
政府は、「年越し派遣村」元村長で反貧困ネットワーク事務局長の湯浅誠氏を国家戦略室の非常勤政策参与として迎えた。臨時国会の論戦と来夏の参院選を控え、厳しい財政状況を見極めつつ、国民生活を立て直す政策を打ち出せるのか。社民党、国民新党とともに、民主党の正念場はこれからだ。
〔写真説明〕
湯浅誠氏らが参加した社会保障充実を求めるシンポジウムには500人を超す市民が詰め掛けた(9月27日、東京・新宿。「貧困をなくし社会保障を守る『基本法』を考えるシンポジウム」。撮影・杉山正隆)
特別国会が召集された9月16日には、8月30日の総選挙で当選した新人議員らも初登院した(9月16日、東京・永田町。撮影・杉山正隆)
日本ジャーナリスト会議(JCJ)発行
「ジャーナリスト」2009年10月25日
(出稿10月15日、編集10月20日)
私たちも変わらねば
私たちも変わらねば
総選挙で民主党が「圧勝」。民社国の連立合意、そして首班指名と異例づくめの政局だ。
朝日新聞は9月10日付けのコラム「天声人語」で社民を7キロのスピッツ、国民新を3キロのチワワに例えたのはおもしろい。小さくともキラリと光る、か。一方の民主は308キロのクマ。「頭脳と度量の見せどころ」に期待したい。
天声人語でも「気がかり」としているのが119キロの自民イノシシだ。得票率は民主党に迫ったのだが、結果は惨敗。公明は代表はじめ幹部の多くが落選した。小選挙区の怖さが身に染みただろう。
共産は2大政党の「逆風」の中、何とか踏ん張った。政権の一角に入った社民と路線の違いはあるが、革新勢力ができるところでは協力・協調し、医療、年金、介護などの社会保障を立て直して欲しい。
民主主義で誤解されているのが、「多数決の論理」。1票(人)でも多ければ、多い方の意見が通る、と考えがちだが、実は事情は違う。「多数派が少数派に歩み寄り、少数派の違憲を採り入れて合意形成に努力する」のが正しい姿だ。
ヒットラー下のドイツで、絶対多数を得たナチスが「民主主義」により、非道な政策を繰り返し、歯止めを掛けられなかった反省から「修正」されたものだ。新政権では、少数派の意見を尊重し、日本を根本から変えて欲しい。
そして、重要なのが私たちがどんどん声を上げて運動することだ。政治を動かすのは政治家ではなく国民。生活に直結する政治を変えるには私たちが変わるしかない。
新聞OB会機関紙 2009年9月号 コラム 「ひろば」より
第9回アジア・太平洋地域エイズ国際会議 (9th ICAAP) バリ島で開催
第9回アジア・太平洋地域エイズ国際会議 (9th ICAAP) バリ島で開催
今も世界中で感染者が増え続けるHIV/エイズ。問題解決に向け、さまざまな角度から話し合う「第9回アジア・太平洋地域エイズ国際会議」(9th ICAAP)が8月9日から13日、インドネシア・バリ島のヌサ・ドゥア国際会議場で開かれた。会議にはアジア地域を中心に78カ国から約6000人が参加し、2000を超す演題が発表された。日本からは医師や栄養士、大学生ら約50人が出席し、食べ物を適切に口から摂取する重要性が再認識され、「より良く食べることで、生活の質(QOL)が向上する」ことなど歯科に関連・隣接する分野で大きな注目が集まった。
今回の会議のテーマは「Empowering Peoples, strengthening Networks」(人々に力や権限を取り戻させ、ネットワークを強めよう)。程度の差こそあれ、世界中でエイズの流行が拡がって20年以上になる。グローバル化が進むにつれ、人々の移動や移住に対応する介入策や、地球規模、地域規模での対策が一段と重要になっている中での会議だった。
7月末の大統領選挙で再選されたばかりのスシロ・バンバン・ユドヨノ大統領も大統領特別機で空路バリ島に入って開会式に出席。各国に手を携えてエイズ対策に取り組むよう訴える一方で、国内での啓蒙・啓発活動などに今後いっそう力を入れることを公に約束した。
エイズは「死の病」だった10年前と異なり、治療費を払い、薬さえ飲めば永く生きられる「慢性病」へと質を大きく変化させた。根本治療としてのワクチン開発が期待されてはいるが、依然開発には至っていない。このため、近年の国際エイズ会議では、生活の質をどう向上させるかや、予防法や啓発に関する発表が多くを占めるようになった。
今回も、日本から多くの栄養士が参加するなど、口から十分な栄養素をしっかり摂取することをあらためて見直す発表が多くなされた。管理栄養士の吉森悠さんは「エイズなどの慢性疾患でも、いくら薬を飲んでいても、栄養の偏りがあれば薬効が十分あらわれないこともある」と指摘。また、別の栄養士は「会議に参加している日本人歯科医師から歯ブラシや口腔清掃の重要性を教わり、たいへん勉強になりました。栄養士と歯科医師・歯科衛生士が連携すれば、患者さんのQOL向上にさらに役立つのでは」と歯科分野への期待を語った。
( 2000を超す演題が発表され、歯科関連分野の発表が目立ったICAAP「バリ会議」 )
大学生や20歳代の若者たちの活躍も目立った。東京経済大学の大学生ら7人はアルバイトで旅費と参加費を捻出し会議に参加し、会議やスタディ・ツアーなどにも積極的に出掛けた。指導に当たったオーストリア人講師のケイトリン・ストロネルさんは「日本人の若者たちも捨てたものじゃないです。各国の青年たちと交流したのは素晴らしい経験。将来に生かして欲しいですね」と話した。
( エイズへの取り組み強化と支援を求め、大学や高校生らがデモ行進 )
わが国では6時間に1人の割合で感染者が増え続け、感染者数は2万人~3万人程度とみられている。先進国の中でもペースが落ちず一貫して増加しているのは日本ぐらいだ。一般の歯科医院などにも、感染の事実を告げずに、来院するケースも少なくないとみられる。しかし、HIVは日常生活などでは感染しない。歯科医院では針刺し事故などに注意するとともに、抵抗力の落ちている感染者に術者らから風邪などをうつさないようにする心配りも重要だ。「ユニバーサル・プレコーション」や「スタンダード・プレコーション」と言われる標準的な感染防護を歯科医院でも取り、積極的に治療に当たるようにしたい。そして、歯科治療だけでなく、口腔衛生指導など歯科分野での貢献は十分できるはずだ。
日本歯科新聞8月25日=速報として掲載=
市立札幌病院事件 罰金6万円の一、二審判決を支持 最高裁
市立札幌病院事件 罰金6万円の一、二審判決を支持 最高裁
2009.7.29
市立札幌病院救命救急センターで研修中の歯科医師(口腔外科医)に資格外の医療行為をさせたなどとして、医師法17条(医師以外の医業の禁止)違反の罪に問われた元センター部長の医師、松原泉被告(59)の上告審で、最高裁第2小法廷(今井功裁判長)は7月23日付けで、松原被告の控訴を棄却する決定をした。罰金6万円とした二審判決が確定する。
裁判官4人全員一致の決定。松原被告側は「医師法の医業の概念は不明確だ」などと主張したが、今井裁判長は「憲法違反などの上告理由に当たらない」と退けた。
二審(札幌高裁)で、松原被告側は「研修は正規の手続きを経て、指導医の下で安全に行われ、医師法違反にはあたらない。歯科医師であるとのネームプレートをつけていた。患者の様態が急変した場合の対応能力を向上させるための正当行為で、違法性も阻却される」と主張。検察側は「歯科医師は歯を見るのが職務であり、医療の無資格者。医療行為を習得する研修を受ける必要性はない。患者の急変があっても、救急医に引き継ぐまでの間、救命処置をすれば足りる」とし、全面的に対立した。
札幌高裁の矢村宏裁判長は「歯科医師が緊急事態に対処する能力を身につけるために救急研修は必要」と認定した。しかし、同センターで行われていた研修は「患者に歯科医師であるとの説明がほとんどなされておらず、医師とほぼ同様の立場で医行為をしていた」などとした。研修には医師による常時の監視・付き添いが必要とし、一審判決後に厚生労働省が作成した「ガイドライン」に照らしても違法性は退けられない、との判断を示し、08年3月、検察の求刑通り、罰金6万円の有罪判決を言い渡した。
二審判決などによると、松原被告は1998年8月から2001年3月にかけ、医師の免許を持たない歯科医師3人を同センターの研修医として順次受け入れ、7人の救急患者に対し、院内や救急車内で腹部触診や気管挿管などの医療行為を行わせたとして医師法違反の罪に問われていた。
一審(札幌地裁)に先立ち、研修医ら3人は、責任は小さいなどとして起訴猶予処分になった。医師法17条違反は「3年以下の懲役または100万円以下の罰金」だが、検察の松原被告への求刑は罰金6万円だった。
(歯科医師・ジャーナリスト 杉山正隆) =日刊歯科通信2009年7月29日付け=
派遣切りや生活保護などの生活困窮者 医療、住宅など多岐にわたる悩みが深刻に 特に歯科で治療を受けられない現状が明らかに
派遣切りや生活保護などの生活困窮者 医療、住宅など多岐にわたる悩みが深刻に 特に歯科で治療を受けられない現状が明らかに
2009.7.14
日本歯科新聞 2009年7月7日付け なんでもかけこみ相談会in北九州
景気悪化のあおりを受け深刻化する派遣切りや雇い止め、生活保護などの問題について、医療、法律、労働、住宅などについて専門家が相談に応じる「なんでもかけこみ相談会&ホットラインin北九州」が6月28日、北九州市の市立生涯学習総合センターで開かれた。医師や弁護士らで作る実行委員会が主催し、北九州市医師会や県弁護士会などが後援し、電話を含め70件を超す相談があった。
医師・歯科医師をはじめ、弁護士や司法書士、社会福祉士などの実行委員130人が会場や無料電話で相談に乗った。おにぎりや豚汁、惣菜の炊き出しがふるまわれ、歯ブラシや洋服、下着などの生活必需品の配布もあった。
北九州市では、生活保護の申請希望者が役所窓口などに訪れても、申請書をすぐには渡さず再考させるなどの「水際対策」を採ってきた。何度も窓口で申し入れても生活保護を受けられず、生活に困窮し餓死した状態で発見される事例が毎年のように出る事態となり、「闇の北九州方式」と恐れられ大きな社会問題になった。厚生労働省は表向き、同市の対応は「問題がある」としながらも、社会保障費の1つである生活保護費が削減されることに注目。強い批判を浴びた同市は対応を一部、改善したものの、北九州方式を採り入れようとする自治体は少なくない。
世界同時不況が追い討ちを掛け、悪化する雇用情勢に危機感を強めた弁護士や司法書士を中心に、これまで個別の相談や炊き出しなどを実施してきた。状況が一向に改善しないことから各団体が集結し5月に実行委員会を発足。一体的な相談会の開催で、生活に困った人たちを一体的、総合的に支援しようと準備してきた。
この日の医療相談では、訪れた53人のうち約3割の14人は健康状態が「不良」と判断され、治療に行くようアドバイスを受けた。特に、歯科では治療を受けられず、歯がほとんど失われたり、多数のムシ歯のまま放置されている人がほとんどだった。健康保険も30人ほどが無保険の状態で、治療を受けたくても受けられない状況にあることが分かった。また、無年金の人が多く、生活費が底をついた人が半数に上った。
実行委員会では、寄せられた相談について、生活保護申請や医療、年金、多重債務、住宅などの支援を継続するとともに、市や県、国などに対し支援体制の改善などを求めていくことにしている。
実行委員の高木佳世子弁護士は「生活に困って、1人で多くの問題を抱えてしまう人が多い。医療・健康問題などは後回しにせざるを得なくなり、さらに問題解決が難しくなる実態がある。今後も相談会の開催を検討したい」と話す。
厚労省が6月30日に発表した5月の有効求人倍率は0・44倍。99年5、6月と並んで過去最低の0・46倍だった4月を下回り、最低を更新した。総務省が同日発表した労働力調査(速報)によると、5月の完全失業率は03年9月以来、5年8ヶ月ぶりの水準の5・2%と悪化し、過去最低(5・5%)に迫っている。労働局の幹部は「政府内でも一部に景気底打ちとの意見もあるが、現場ではそういう実感はない。まだ悪くなるかもしれない」と話す。
不況に加え、政策ミスのしわ寄せが、医療、特に歯科領域で「国民皆保険」の恩恵に預かれない「放置」の形で現れている。歯科医療も社会保障の一部であることを厚労省をはじめとする行政や歯科医療関係者は心し、施策に反映させるべきだろう。
(歯科医師・ジャーナリスト 杉山正隆。写真も)


写真説明 相談会では医師や歯科医師、弁護士らが一体的に生活困窮者への相談に応じた。(撮影・杉山正隆)
新型インフルエンザ 冷静さ欠く日本の行政とメディア 「医療崩壊」の現状で困難な対応
新型インフルエンザ 冷静さ欠く日本の行政とメディア 「医療崩壊」の現状で困難な対応
大型連休をはさみ世界に拡がる新型インフルエンザ。国内でも感染拡大が続き学校の休校など大規模の措置が取られたが、毒性が想定されより低かったこともあり、各国では早期治療や病弱者対策に軸足をおいた冷静な対策がなされた。しかし、わが国では舛添要一厚生労働大臣のメディアへの露出が目立つ一方、「封じ込め対策から早く政策転換すべきだ」と内外から批判が出るなど問題点が明るみになってきた。
日本では諸外国では行われない「機内検疫」を実施。新型を疑われた例を舛添大臣自ら次々に発表するなど極めて異例の対応を取った。WHO(世界保健機関)は、検疫に感染症の拡がりを減らす効果は認められない、との見解を5月7日にあらためて発し、国際交通に影響を及ぼす方策を採る国は、その理由と証拠を提出するよう求めた。
厚労省の膨大な情報発信もあり過剰反応も相次いだ。教育委員会の中には、生徒や家族がメキシコや米国、韓国を訪問した場合は、帰国後10日間、学校を休ませるなどの例が続出。日本初の感染者が出た高校には「なぜ旅行先でマスクをしなかったのか」など批判の電話や手紙が殺到した。米国、カナダなどでは「マスクは効果が薄い」が常識であり、過信はかえって危険なのだ。
海外出張や学会参加を中止する例が日本人のみ頻発。「東京かぜと命名すべき」と皮肉る報道もあった。
アジア各国では冷静な対策が取られた。香港では、発熱や渡航先などを調べる質問票を基に検疫官からの質問はあったが、予防法を記した文書が配られ早期治療をPRする放送が繰り返されたほか、手洗いや洗口器具が特設された。韓国やタイ、スリランカ、UAEでは通常と同様の対応で、トップニュースなどでの報道はされたが、日本のように通常の番組や記事を差し替えてまでの展開はなかった。
ウイルスは姿を変化させて人間に脅威を及ぼす。今後、病原性が高まったり、別のH5N1などが流行したりする可能性が高い。感染症の専門家は「効果の薄い水際対策に躍起になった日本政府のパニックぶりは問題だ。致死率の高い本当の『新型』などの感染症には対応できない」と話す。
早期の発見・治療が重要で、病気にならない健康づくりが重要なのは感染症に限ったことではない。厚労省は感染症外来を整備しているとするが、これは安上がりだが不十分な対策だ。強力に推し進めた医療費抑制政策の影響で、医師や看護師が不足する「医療崩壊」に至った現状では、感染症への対応は困難だ。
新たな感染症の発生は今後も続く。不採算を理由に廃止を進めた公的病院を復活させる必要がある。感染者らを隔離するにしても期間を不必要に長くせず、発生した損害は一定額補償する制度を確立すべきだ。また、今後は予防と早期治療を確実に行い、妊産婦や乳幼児、糖尿病・高血圧などの病気を持つ人の体調管理を徹底すべきだろう。
専門家は「今回の新型は毒性、病原性は低く、感染力は従来型と同程度。伝播性は強い」と見るが、こうした用語を正確に理解する報道は少ない。情報量が多ければ良いというものではない。過剰反応や無関心を防ぐべく、背景を含めた解説記事を充実させる必要がある。(日本ジャーナリスト会議運営委員 杉山正隆)
香港では出国直前にあわててマスクをつける家族連れが目立った
日本ジャーナリスト会議(JCJ) 「ジャーナリスト09年5月号」より
北九州・小倉で医療問題緊急集会
JCJ北九州支部は新聞OB会北九州と5月31日(日)北九州市小倉北区の朝日新聞西部本社4階「さんさん広場」で、医療問題緊急集会を開く。テーマは「今日の医療問題について考えるーどうなる後期高齢者医療制度、介護保険~新型インフルエンザの現地報告を交えて~」。
講師は、歯科医師でジャーナリストの杉山正隆氏。杉山氏は元毎日新聞(東京)記者。94年の「横浜会議」以来、国際エイズ会議に毎年出席するなどエイズをはじめとする感染症に詳しい。「神戸会議」の際は、関西空港検疫所でHIV(エイズウイルス)感染者の受け入れ支援やメディアセンター運営などを担当した。
杉山氏は、今回の日本での対応について、「政府やマスコミがパニックに近い状態になっており、それによる被害が出始めている。感染症対策のノウハウを蓄積しているアメリカなど各国の冷静な対応に学び、バランスの取れた対策に戻るべきだ」と話す。
そして、大型連休中に取材に入った香港、韓国、タイなどでの新型インフルエンザ対策の実情を報告。参加者とともに、国の失政により「医療崩壊」に至った現状を見据え、不採算を理由に廃止を進めた公的病院を見直すことや、諸外国と比べて少ない医療費を増やすなど、医療を充実させる手法などを話し合う。
第23回保団連医療研究集会 第17回国際エイズ会議
日本ジャーナリスト会議(JCJ) 「ジャーナリスト」より
国際エイズ会議
止まらぬ患者増、深まる危機感 問われる日本メディアの無関心
2008.10.25
今も感染者が増え続けるHIV/エイズ。問題.解決に向け様々な角度から話し合う第17回国際エイズ会議が8月、メキシコシティであった。ラテンアメリカ初となった会議には194力国から2万5千人の医師や感染者、NGO(非政府組織)、政府代表らが参加した。パン・ギムン国連事務総長やクリントン前米大統領ら政治指導者が多数出席したほか、3千人を超す記者が全世界に会議の模様を連日、発信した。しかし日本ではほとんど報道されず、取材や報道姿勢の違いが際立った会議となった。
パン国連事務総長は「エイズへの対応には長期的かつ持続的な資金供給が必要」と強調し、2010年までに全ての人々が治療や薬を得られるように、との国連などの提言を守るよう各国に求め、「世界規模での予防と治療の『ユニバーサル・アクセス』を実現させよう」と強く訴えた。
エイズの感染経路は性行為や母子感染等によると分かっており、ワクチンなどの根本的治療法は未開発ではあるものの、予防法も確立しつつあり「死なずにすむ病気になった」(日本人研究者)。だが、年間の新規感染者は270万人と感染拡大は続いており、理想とされる「ユニバーサル・アクセス」には程遠いのが現実だ。貧しさや差別などから医学の恩恵を受けられない人が多く、みすみす助かる命が今も失われているのだ。
最新の研究成果などの演題は1万を超し、メディアセンターは常時満席の状態。CNNやBBCなどは特設スタジオから特別番組を放送した。日本のメディアも、毎日新聞、共同通信の現地駐在・記者らが記事を送ったほか、NHKが東京や北米総局から取材クルーを派遣。時事通信なども出稿した。だが、実際に掲載されたのは開会式の模様を短く伝える記事が中心で、踏み込んだ内容はほとんどなかった。日本のメディアを見ると、「エイズはすでに過去のこと」のようだ。
だが、先進国やアジアの中で感染者が目立って増加しているのが他ならぬ日本だ。厚生労働省エイズ動向委員会によると、日本では96年以降、増加が続き、07年の新規感染は1082件。エイズ患者418件と合わせて1500件で過去最高となった。30、40歳代が中心だが、若年層に加え、60歳以上でも増加傾向を強める。
会議に日本からも研究者ら50人余りが出席したのは強い危機感からだ。エイズは病気の側面だけでなく、人間社会の様々な歪みを映し出した悲劇である。
黙殺を決め込んだ日本のマスコミは、メディアの感覚が問われている。(運営委員 杉山正隆)
新聞OB会北九州会報コラム「温故知新」より
新聞OB会北九州会報コラム「温故知新」より
2008.10.21
年金での不祥事に加え、「長寿医療」を巡る問題が噴出。厚生労働省・社会保険庁は何をやってきたのか。違法行為や不正が強く疑われるのに、誰も責任を取らない。「官僚や労組が悪い」と麻生首相らは言うが、行政組織を監督する与党に責任があるのは明確だ。
▼厚労省・社保庁の「もう一つの闇」と指摘されるのが、医師や医療機関への「指導」だ。不正請求防止などの名目で、医師らを呼び出し、暴言や脅迫などで医療費を返還させる。医療費抑制を進めようと強化され、各地で医師が自殺に追い込まれる例が急増している。
▼高熱に苦しむ子どもを診た医師は、保険では子どもに使えない特効薬を、引率の母親に出したことが「不正請求」として保険医を抹消された。ある歯科医師は、カルテ記載ミスを理由に何度も呼びつけられ、「診療できなくしてやるぞ」と怒鳴られ自殺を図った。
▼保険のルールを決めるのも、変えるのも、不正か否か判断するのも厚労省・社保庁。秘密のべールの中で恣意的に運用されるのが実態だ。国や医師会などに都合の悪い医師に「不正」のレッテルを貼って抹殺するのは簡単なのだ。
▼「まるで特高警察」と危機感を強めた医師や弁護士らが「指導・監査・取消処分支援ネット」を結成。支援集会では、医師らに対しセクハラやパワハラを繰り返した社保庁職員を断罪する勝訴判決の報告もあった。
▼官に甘く民に辛い日本。それを変えるには行動するしかない。日本を「民主主義国家」へと脱皮させるために、総選挙は最良の方法だ。(杉山正隆)
全国保険医新聞 2008年10月5日号より
行政の違法行為や人権侵害 裁判での闘い支える 指導・監査・取り消し処分 支援ネットの集会に70人
「ネット」の結成報告を兼ねた支援集会のもよう 保険医・保険医療機関に対する指導や監査と、その結果、課される取り消し処分などに対し、司法の場で闘う医師・歯科医師らを支援する「指導・監査・取り消し処分支援ネット」がこのほど結成された。同ネットの結成報告を兼ねた支援集会が9月23日、東京で開かれ全国から70人が参加。保険医に対して違法行為や人権侵害が行われている実態が明らかにされた。保団連の住江憲勇会長は、集会にメッセージを送った。
集会では、支援ネットの高久隆範代表世話人が、40年以上にわたり個別指導が密室で恣意的に行われ多くの自殺者が出たのに改善されることがなかったことを強調。「保険医取り消しを目的とした『狙い撃ち監査』ともいうべき手法が取られている。こうした理不尽に患者さんからも励まされ、画期的な勝訴などを得てきたのは、本日参加している先生方の奮闘があったからだ」と話した。そして、「訴訟を傍観するだけでは指導や監査の改善は絶対にあり得ない。長年、保険医を苦しめてきた指導・監査・取り消し処分という構造自体を訴訟支援を通じ、根本的に変えるべきだ。積極的な支援をお願いしたい」と呼び掛けた。
保険医にとっては「死刑」に等しい
岡山県の歯科医師、暮石智英氏は、国家賠償請求訴訟を起こした経緯を報告した。地裁、高裁で敗訴はしたものの、①指導に従うか否かは保険医の任意②指導を従わなかったことを理由に不利益な取り扱いはできない。
③指導官らの見解に異論がある場合は同意できない旨を述べ指導に従わないこととすればよい、など暮石氏の主張の核心部分が認められた。
兵庫県の「細見訴訟」弁護団の西田雅年弁護士は、神戸地裁は被告の兵庫社会保険事務局の保険医取り消し処分について、裁量権の範囲を逸脱。濫用があったとして違法と結論付ける画期的な勝訴判決だったと話した。
「取り消しは保険医にとって『死刑』ともいえるもの。戒告・注意との差が大きすぎる。指摘で直させればすむものまで安易に取り消しにされているのは問題だ」とした。
また、保険医取り消し処分の執行を停止する勝訴の決定を得た山梨県の医師、溝部達子氏や、監査に対し国家賠償請求訴訟を起こした高知県の歯科医師、塩田勉氏から報告があった。「暮石訴訟」「塩田訴訟」弁護団の竹内俊一弁護士は「違法で不適切な『患者調査』がなりふり構わず行われている実態もある。全国から指導や監査などの情報を集め分析したい」と述べた。
支援ネットの事務局は岡山県保険医協会(電話086-277-3307)内に置かれている。

国際エイズ会議①