福岡県歯科保険医協会タイトル

 ●政策部解説

保険証を残せ・・・
「マイナ保険証はどうぞやってください。ただし、保険証を残してください」
医療DXという曖昧な表現・・・
オンライン資格確認とマイナ保険証
政策部解説vol.172 2024.3
 
 1月の第51回保団連定期大会にて全国の先生方(医科・歯科)の意見・発言を伺いました。その内オンライン資格確認とマイナ保険証の問題と保険証存続の意見が2割近くあり、深刻な事態を表していました。問題の多いシステムであることを痛感し「これは使えん」と、認識を再確認しました。
▼何となく良さそう?
 「医療DX」という言葉で「医療をデジタル化する流れが良い」と、「ふわ~っとした、そして何となく良さそうな」感じを装って医療人を始め国民を欺き、実はトンデモない方向に行くのではと感じています。特に心配なのは、医療DXに異を唱えると、まわりから「悪」というレッテルを貼られるのではないかという事です。日本によくある同調圧力ではないかとさえ思います。
 「医療DX」の中身をズバリ具体的に述べることの出来る人は少数でしょう。国のイメージ戦略が効いていると思っていますし、だからこそ実は危ない「医療DX」なのです。
 経産省、厚労省の言う「医療DX」をそれぞれのサイトから探してみました。読むと分かってきたのは、両者ともに「医療」を「企業の儲け」のダシに使うということです。
▼経産省の「医療DX」
 「医療DXの推進に向けた経済産業省の取組」 というタイトルの資料を見ると、「健康医療情報は、国民の健康増進のために使われ、国民がそのメリットを実感できてこそ、真の価値を発揮するもの。民間活力を活かしながら、国民が自らのニーズに応じて、安全安心に活用できる環境を整備する。」という前置きから、「①日常生活での活用(小売・飲食・フィットネス等の生活関連産業との連携を推進し、新たなサービスの創出を加速化する。)」が先に来て、「②医療機関での活用を推進」が来ています。
▼厚労省の「医療DX」
 定義は「保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報やデータに関し、全体最適された基盤を構築し、活用することを通じて、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えていくこと。」とされています。
 ここから、「医療情報システムに関与する人材の有効活用、費用の低減を実現→医療保険制度全体の運営コストの削減」、「民間事業者との連携/保健医療データの二次利用による創薬、治験等の医薬産業やヘルスケア産業振興→結果として国民の健康寿命の延伸に資する」ことが導かれています。
▼医療を儲けの手段に?コストは下がる?
 経産省、厚労省ともに医療DXを通じて医療を「新たな儲けの道具」にし、効率化を盾に医療費抑制を目論んでいると理解出来ます。
 経産省は「国民が自らのニーズに応じて、安全安心に活用」と謳っていますが、国民のニーズがあるのか、そしてマイナ保険証が安心安全から程遠いことは明白です。厚労省は「制度全体」のコスト減と言いますが、オン資のトラブルやランニングコストで、「制度の一端」を担う医療機関はコスト増です。
▼マイナ保険証に一本化する必要はない
 閣議決定方針では、「全国医療情報プラットフォームの創設」がうたわれ、その中身は「オンライン資格確認等システムのネットワークを拡充し、レセプト・特定健診等情報に加え、予防接種、電子処方箋情報、自治体検診情報、電子カルテ等の医療(介護を含む)全般にわたる情報について共有・交換できる全国的なプラットフォームをいう。」とされています。「オンライン資格確認が前提」という事ですが、これまでもマイナ保険証の取得とは無関係に資格確認用のデータが生成されており、「医療DX」のために敢えて現行の保険証を廃止して一本化する必要があるというのは成り立ちません。
 マイナンバーやマイナ保険証導入のために多額の税金を投入して、行先は大手IT企業。毎月、オンライン資格確認やマイナ保険証関係システムに医療機関が維持費を払い続けることになります。そしてIT企業は医療情報を活用して一儲け。
 これが医療DXの本質なのでしょう。
 

保険証を残せ・・・
「マイナ保険証はどうぞやってください。ただし、保険証を残してください」
「デジタル庁」>>「厚労省」なのか
マイナ保険証利用率2・95%
政策部解説vol.171 2024.2
 
 去年の暮、2023年12月22日の閣議で2024年12月2日をもって現行の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードを保険証として使う「マイナ保険証」に一本化することを決定しました。これ自体怒り心頭です。
 素朴な疑問です。なぜ、保険証とマイナ保険証の両立を考えないのでしょうか。表題の通りです。「マイナ保険証はどうぞやってください。ただし、保険証を残してください。」
 さて、以前にも記載いたしましたが、列車やバスなどの交通機関を利用する時を考えてください。基本的に駅やバスでは「現金」でも「交通系ICカード」でもどちらでも利用出来ます。「現金」が保険証、「交通系ICカード」がマイナ保険証と置き換えてみてください。生きていく上での重要なインフラである交通機関では、これらが両立されて利用者が困らないようになっています。よく出来たインフラだと感心しています。
 現代の社会は「電気」依存です。そしてICT(電気依存のシステム)は必需です。しかし、電気やシステムにトラブルがあった時にはICカードはお手上げです。こんな電気依存、システム依存のマイナ保険証ですが、存在は否定しません。
 しかしながら、社会的弱者や電気系統・システムトラブルへの対応のため保険証が必要なのです。2024年1月1日の能登半島地震では停電、通信回線が通じない状況がありました。こんな時こそ、電気依存ではない保険証やお薬手帳が役立ちます。
 過日、2023年6月30日に当時の加藤厚労大臣は記者会見で「初めてマイナ保険証を使う時などは、念のため保険証を持参するように」と呼びかけています。このことは、医療保険部会で正式に確認されています。「恒常的ではない」との条件付きではありますが、マイナ保険証のトラブルに対応する手段は医療機関では唯一、保険証しかない事を述べています。今回の今年12月2日の保険証廃止の閣議決定時、デジタル大臣の出演がTVなどで見られました。厚労大臣の姿はありませんでした。この報道の様子からすると、厚労大臣の上位にデジタル大臣が存在して、「デジタル大臣のヒエラルキーが上」との印象が焼き付きました。件の当時の加藤厚労大臣の「保険証を持参」という言葉を現デジタル大臣は否定したと感じました。国民の大事な生命を守る厚労省は一体どういった見解なのか。
 まだまだ、国民の多くは今年12月2日をもって保険証が廃止されることを知りません。当院においてもこのお話をすると、ほとんどの患者さんが「知りません」の一言。
 これが現実とならないよう、これから「保険証を残せ」運動がさらに活発化されなければなりません。医療が社会的弱者にも平等に受けられる社会インフラであり続けられるように「保険証を残せ」、それだけです。
 因みに、マイナ保険証利用率(11月)は政府発表では4・33%ですが、これはオンライン資格確認システム中の利用率で、「真の」マイナ保険証の利用率は、マイナ保険証利用件数/健康保険証の利用件数、すなわち727万件/2億4600万件⇒2・95%です。これが意味するものをデジタル庁、政府は深く噛みしめて頂きたい。

「保険証の発行存続を求める」
日弁連が意見書を発出
政策部解説vol.170 2024.1
 
 保険証存続のため、日弁連(日本弁護士連合会)も立ち上がりました。日弁連は「人権」を非常に大切にする品格のある団体であることは周知のことです。
 思い出してください。14年8月25日「健康保険法等に基づく指導・監査制度の改善に関する意見書」を厚生労働大臣及び各都道府県知事に提出にしたことは深く記憶にとどまっております。保険医が「指導」「監査」の下では保険医の権利は固より、「人格」まで否定されることもあり不利益処分に至ることを問題としてこの意見書が出されました。
 今回23年11月14日付けで「マイナ保険証への原則一本化方針を撤回し、現行保険証の発行存続を求める意見書」を取りまとめ、28日に以下宛に発出しました。その趣旨は次の2点。
1 政府は、マイナ保険証への原則一本化方針を撤回し、現行の健康保険証の発行を存続するべきである。
2 政府は、マイナンバーカードの利活用については、カードを取得しない自由を保障するとともに、カードの取得を希望する者に対してプライバシーを最大限保障し、さらに、地方自治体等の意向を踏まえて現場に過度の負担をかけないようにするべきである。
 宛先は「総務大臣、厚生労働大臣、デジタル大臣、個人情報保護委員会委員長、都道府県知事、政令指定都市市長、全国知事会会長、全国市長会会長、全国町村会会長、全国都道府県議会議長会会長、全国市議会議長会会長及び全国町村議会議長会会長」で、非常に多くの行政の長に出されています。
 意見の理由は「日弁連 保険証存続」で検索してください。拝読すると、理路整然としています。マイナ保険証への一本化は「任意取得の原則」反する。マイナ保険証管理が出来ない人を置き去り、紛失時再発行までの手間、本人確認を喪失させるマイナ保険証、マイナ保険証未取得者に医療費格差を付ける、所謂「なりすまし」については、厚労省は頻度・状態について公式報告はない、医療現場からは「なりすまし防止」を求める声はない。保険資格異動情報システムに反映するまでにはタイムラグが避けられず、過誤請求がなくなるわけがない、患者側からするとマイナ保険証によるオンライン資格確認システムに不具合があると10割負担請求などトラブルに見舞われる。システム対応が出来ない医師は廃業せざるを得ない、等々問題点を大変分かり易く表記しています。
 「保険証をなくせ」。これは「誰が得するか」ですが、当然ながらこのシステムに乗っかっている企業です。最近、マイナ保険証オンライン資格確認対応の企業から、回線トラブルに備えて保守契約の案内が届きました。毎月1万円程での契約ですが、日本国全体で考えるとこのサブスクは医院・病院が存続する限り大儲けするシステムです。もちろん、今トレンドの言葉、政権政党に「キックバック」もあるのかと思ってしまいます。

5%未満の
マイナ保険証の利用率
政策部解説vol.169 2023.12
 
 最初に申し上げておきます。「マイナ保険証を廃止」の訴えているものではありません。申し上げたいのはただ一点簡単です。「保険証を残せ」これだけです。
 現行の保険証とマイナ保険証の併用を国(デジタル庁、厚労省)はなぜ容認しないのか理解に苦みます。両方使ってみて患者さんが利用しやすいと思った方で受付すればそれで事は済むことです。
 3月以来のマイナ保険証利用率を見ますと3月2・2%、4月6・3%、5月6・0%、6月5・6%、7月5・0%、8月4・7%、9月4・5%となっています。(東京新聞 小数点以下2桁を四捨五入)
 3月から4月に掛けての増加は、ご存じの通り「マイナ保険証保険証資格確認義務化」の影響で各医院渋々顔認証カードリーダに踏み切った結果と思われます。しかしながら、マイナ保険証のトラブル、そしてカードリーダの使用方法が分からない等の理由で利用率は右肩下がりです。ザックリ言うと100人のうち5人も使っていないものは「使えん」と言うのが医療現場です。
 特に高齢者や障がいをもった患者さんなど、いわゆる弱者には利用出来ないマイナ保険証です。以前にもお話したように、最も医療が必要な方を医療から遠ざけてしまいます。それも、受付出来ないようにしてしまう、言わば「門前払い」するのです。
 唯一「マイナ保険証」だけを保険医療の資格確認とし現行の「保険証廃止」を行うことは、国民を医療から遠ざけるのには打ってつけの方法だとさえ思えます。医療費抑制には窓口負担をアップさせて受診抑制させることは長瀬指数が証明していますが、このマイナ保険証だけの受診資格確認は新しい医療費抑制ツールとなります。
 今の状況(利用率4・5%)では来年10月からの保険証廃止は現実的ではありません。
 来院された患者さんに「保険証残せ」の署名をお願いすると、皆さん快く引き受けてくれています。まだの先生も少し勇気を出して署名をお願いしてみてください。患者さんに「来年の10月で保険証が原則なくなります」と申し上げると「知らなかった」と驚愕の反応が返ってきます。
 

「保険証を残せ」ティッシュで
一人でも多くの署名を
政策部解説vol.168 2023.11
 
 10月の保団連理事会に出席した時、一番の議題は「保険証を残せ」でした。出席した理事の先生方の院所での経験など「マイナ保険証」の不具合など話題沸騰の理事会でした。
 マイナ保険証問題で全国TVにも出られたことのある大阪の内科の先生からのご発言が興味を引きました。ご承知の通り、マイナ保険証のトラブル事例は枚挙に暇がありません。
 その先生の院所で一度、顔認証カードリーダでオンライン資格確認された患者さんは、次回からはマイナ保険証を使わず「保険証」で受付をされるとのです。この報告を聞いた理事の先生方は大爆笑でした。では、なぜ「2度目を使わないのか?」ですがその理由は、オンライン資格確認システムの構造的かつ改良不可能な問題が原因していることに気付きました。
 マイナ保険証をカードリーダに翳し、顔を機会に合わせます、そしてパネルに出る事項を読んで「タッチ」します。この間およそ30秒。この30秒は絶対必要時間、しかも短縮不可能なのでした。ところが、「保険証」を受付に提出するや「おはようございます。○○さんですね(にっこり)」の1秒、そして受付の方の「笑顔付き」です。
 先月(9月)のある朝、始業前にTVを見ていたらNHKの若い女性アナウンサーが登場し、東京の診療所でマイナ保険証の普及促進と取れる体験映像が放送されました。「マイナポイントが魅力でマイナンバーカードを取りました。」と素直にマイナンバーカード取得理由もチラリとお話されました。そして、ここが重要なのですが放送では「たった30秒で受付できました。」との感動したお話。私個人的には、「上手くいっても30秒も掛かるのか。」とのネガティブの思いがしました。
 個人的に数か月に一度、病院に通院していますが、10月上旬受診した時マイナ保険証を使う患者さんがいるか1時間程度待合室で観察していました。この間、誰も使用していませんでした。マイナ保険証利用率が5%未満ということも頷けました。
 件のマイナポイントについてですが、ざっくり言うと日本国での総ポイント分が予算で2兆円、税金で賄う額が3兆円なのです。2兆円貰うから、3兆円国民が支払させられます。
 保団連、当会を含め全国51の医会・協会は現在「保険証を残せ」署名はがき付きティッシュを先生方の院所に届けております。患者さんに「保険証がなくなったら困るね」の一言を先生がお話するだけで多くの患者さんは共感してくださいます。
 「保険証残せ」運動するのは今しかありません。もはや、対岸の火事ではありません。
 どうぞ一人でも多くの署名をお願い申し上げます。

医療は誰でも利用できる
インフラでなければならない
政策部解説vol.167 2023.10
 
 先日、路線バスに乗った時の事です。私が乗った後、途中から手押し車を押した高齢の女性が乗車しました。乗るにも大変なご苦労をされておられ、かなり認知力も衰えているご様子でした。何とか座席に腰を掛けてバスが発車。乗客も少なく、私の近くの座席だったので「どこで下車するのか。支払いは交通系ICカードなのか現金なのか」と思っていました。このご様子では、ICカードは利用していないだろうなと思いながら。
 しばらくしてその方が下車する時が来て見ていると、ぎこちなく手押し車を押し、出口で財布を探し始めやっと見つけたようでした。そして、運転手さんに運賃を尋ねあちらこちらと財布を探し、やっと硬貨を出しました。自分で両替が出来ないのか、運転手さんが両替をして料金箱に入れて覚束ない足取りで下車されました。その間、暫くバスは停車のままでした。
 どこにでもありそうな弱者の利用風景である、と言ったらそれで話は終わりですが、今一つ考えてみました。
 「バス」と言う移動手段、これは「飛行機」などと違い身近で、いつでも誰でもすぐに利用しやすいインフラであると誰もが思う所です。そして、多くの人が利用出来る環境であることが必要十分であります。
 今回のバスの中での経験。「ICカード」が上手く使えない人(言わば、デジタル難民)も「現金」と言うアナログ手段でバスを利用出来ます。ICカードを持つか持たないかは「任意」です。
 バス会社は様々な状況・境遇の利用者がいることを想定し対応して社会インフラを作っています。心温かいと感じます。
 このことを思い出すと現在話題沸騰の「保険証廃止」問題を思い出します。全く正反対です。
 保険証廃止は利用者(患者さん)の利用制限した風に感じてなりません。マイナ保険証は任意であると(「強制」であれば、トラブルが発生すると国の責任となり全国で多くの訴訟が起きるであろう)言いながらも実質強制を目標にしています。一部、資格確認書は逃げ道として後出しジャンケン的に出したものですが、これは全国民が「マイナ保険証」を取るまでの暫定であることがその根本であると感じます。
マイナ保険証、デジタルが利用できない国民は身近で、いつでも誰でもすぐに利用しやすいインフラである医療は受けられませんよ、と言っている日本政府があるようです。因みに、マイナンバーのシステム構築に関係する「5大ベンダー(=ITシステム開発会社)」と呼ばれる企業(富士通、日立製作所、NTTデータ、NEC、日本IBM)5社。これらの企業に渡る2兆円もの予算がつぎ込まれるのです。
 
 

「保険証廃止、総理の会見」
…他はありません「保険証を残せ」これだけです
政策部解説vol.166 2023.9
 
 8月4日の夕方「保険証廃止について」岸田総理の会見がありました。興味津々でTVを見ていましたが会見内容は予想通りで、失望したものでした。
 内容の骨子は4つです。1)現行の保険証は来年秋(9月30日)で廃止する。2)資格証明書の有効期間は5年を超えないこと。3)資格証明書はプッシュ型にする。(ただし、マイナ保険証を保有していない者に限定)4)マイナ保険証の登録解除が出来る。
 特に、問題になるのは1)2)3)の3項目で、会見をする前から予定された内容で新しいことは出ませんでした。むしろ、首相のデジタル化推進のための敷石になるための言わば弁解のような会見であったと個人的に感じました。
 特に会見の中で「更新の時期は5年を超えない期間において、それぞれの保険者が更新の時期を決めていく。こうしたことで国民の皆さんの安心につなげていく。」と話した事は、実際に、保険証廃止が起こると患者・国民、そして医院・病院の窓口の混乱は避けられない、現場の事は放置されてしまったと考えてしまいました。
 会見で聞き流してはならない箇所は『マイナカードを持っていない人などが保険証の代わりとして利用する「資格確認書」はマイナ保険証を持っていないすべての人に発行する』と言ったところです。
 要は、マイナ保険証を持っている(と思しき)人には資格確認書は出しませんよ、と言っています。
 先般のANNの報道で「マイナ保険証に関する独自取材で新たに、保険情報とひも付いていないマイナンバーが、少なくとも40万人分あることが分かりました。」と判明しました。80万人分が対象になるとも言われています。該当する健保組合の話では「名前や住所などの情報をもとにマイナンバーを照会しましたが‶完全に一致″する人物のマイナンバーを取得できなかったとしています。該当する方の情報は長年、ひも付くことなく‶宙に浮いた状態″です。」
このような事例で来年9月末日を迎えたら、その人は保険証を出さないと受診出来ない、そして資格確認書ももしかしたら入手出来ない事態になってしまうかと危惧してしまいました。
 以前から何度も当会や保団連が主張しているように、「保険証を残せ」それだけです。マイナ保険証は発行し使うか使わないかは患者さんが決める事であって国民から医療を奪い取るツールにしてしまう今政府の方針は如何なものか、と恐ろしさまで感じてしまいます。
 そして、厄介なことに「資格確認書は今の保険証とほとんど変わらないのものになる見通しだ。」との論調が出回っておりますが、これは危険です。資格確認書と保険証は全く違います。資格確認書は「マイナ保険証」が出来るまでのその場凌ぎ・橋渡しにしか過ぎません。巧みなゴマカシには乗ってしまってはなりません。
 

2022年度税収
消費税が過去最高かつトップ
~消費税率引き下げ、法人税控除を考える~
政策部解説vol.165 2023.8
 
 6月下旬、「国の2022年度一般会計税収が71兆円台に達した」との報道がありました。「2021年度の67兆379億円を上回り、3年連続で過去最高を更新」との見出しがあり、税収が伸びる事が喜ばしいと言わんばかりの記述です。確かに、税収が上がることで国にとっては実行出来る事業が多くなる事が考えられます。
 数字上は頷けるのですが、中身を紐解いてみるとどうもチョット違和感を覚えてしまいます。財務省のHPを見ると2020(R2)年度以降、法人税・所得税を抜き国税のトップは消費税です(グラフ参照)。2022年度の詳しい結果の発表を待たなくても消費税の1位は予想されます。
 これは2019年10月に消費税が10%に増税された事、そして国民がコロナ禍で生活苦にも関わらず消費税減税しなかった事の結果だと思っています。コロナ禍で消費税率(付加価値税)を下げた国や地域はイギリス、ドイツなど100以上とも言われています。
 所得税や法人税の税収はもっと金額があるのかと思っていましたが、ずっと前からこれらの税率を下げ、国の税収の組み立てが消費税に偏った政策に転換した事が読み取れます(消費税導入以降、法人税率は42%→23・2%と半減)。新型コロナがあろうが、不況であろうがGDPの6割を占める個人消費に支えられているのが消費税。確実に取れる税だから消費税率を下げることはしないのでしょう。今年の10月からのインボイス制度もその一環であることは想像に難くないところです。
 財界から法人税が諸外国に比べ高いから下げるよう圧力があり、その補填に消費税が充てられたと以前述べましたが、法人税の控除があまりにも多くあり、その控除額は3・84~4・54兆円と計算されています。
 少々昔のお話ですが、民主党政権時、法人税を決定の際、税額控除(3・84~4・54兆円)を廃止することを検討していましたが、当然、財界から反発されて実行出来ませんでした。
 法人税控除の廃止に該当するのは、1.特別償却・割り増し償却(20措置)、2.準備金(13措置)、3.研究開発税制、4.特定事業用資産の買い替え特例、5.減価償却制度の抜本見直し、6.貸倒引当金・返品調整引当金、7.欠損金の繰越控除、8.受取配当の益金不算入制度の見直し、9.一般寄付の損金不算入制度、10.揮発油税・石油石炭税のナフサ免税。主なものを書きだしただけでも以上のように多岐に及びます。
法人税額=法人所得(益金-損金)×法人税率-法人税額控除
で計算しますが、法人税率が件のように1/2に下がっている上、先述の法人税控除があった上での2021年度の法人税収(14兆6000億円)です。
 物価高になると、消費税が潤う構造です。消費税を下げ、法人税控除が廃止されると物価高に苦しむ国民には有難いことになるのではないでしょうか。
 因みに、「2021年度の企業の内部留保は前年度(2020年度)比6・6%増の516兆4750億円となり、2017年以来の高い伸び率」となっています。これで計算すると、2020年度は484兆4900億円。
 こう言った数字を目にすると、税負担のアンバランスを考えてしまいます。2023年6月の労働者の「実質賃金」が14か月連続で減少したことも追記しておきます。
 

保険証廃止は
究極の医療費抑制政策
政策部解説vol.164 2023.7
 
 6月2日、2024年10月1日に健康保険証廃止し「マイナ保険証」に一本化する「マイナンバー法等改正案」が参議院本会議で賛成多数で可決、成立しました。賛成した政党は自民、公明、維新、国民民主で、反対は立憲民主、共産という結果でした。
 マイナ保険証のトラブル事例は保団連が調べたところでは、6月9日の時点で、オン資(オンライン資格確認)を運用している6062の医療機関の内、64・8%にあたる3929カ所でマイナ保険証に関するトラブルが報告されています。資格情報が正しく反映されていないという事例が最も多くありました。マイナ保険証のみを持参した患者で保険証の確認ができない事例が生じてしまい、窓口で全額負担になってしまった事例が少なくとも533件あったことも報告されました。
 マイナ保険証は一見すると便利なようですが、マイナ保険証の情報が確認不可能、読み取りカードリーダの不具合、オンラインシステムの異常など致命的なトラブルが、窓口で起きた場合には全く機能しません。残念でお粗末です。
 当初、厚生労働省は、マイナ保険証の不具合で患者の資格確認が出来ない場合「患者からは割分を取るように」とマニュアルで公言していました。しかし、国民からの批判を受けて、6月2日付で内容を「マイナンバーカードの生年月日に基づき自己負担分(3割など)を支払ってもらう」と何のアナウンスもなく突然変更しました。患者さんが、無保険だった場合、支払われなかった分(7割)は、「未収金」となります。「医者は損しろ」と言わんばかりです。
 一番心配していることがあります。高齢者や障がい者の方々、所謂「弱者」の多くはマイナンバーカードすら作れない状態である、しかも施設入居者の方々の保険証は現在、施設が預かっていて、必要な時に受診できる体制であることは多くの事例報告がなされています。
 この方々がマイナ保険証で医療をスムーズに受けられるとは到底出来そうもありません。医療からスポイルされてしまうのです。マイナ保険証がないなら、資格確認証を発行する、とのお話。実はこれは相当ハードルが高いと感じます。「自己申請」の上に「毎年更新」の煩雑さです。「弱者」の方々は医療を受ける前に、ここで門前払いとなり、受診機会がなくなります。
 生きるための医療が受診出来ない不幸な事になります。国民皆保険制度が崩壊してしまいます。他方、これは医療費と言う観点からすると、「使わない」「使えない」のだから抑制効果は大きくなると考えられます。
 現行の保険証はそのまま存続することを強く希望します。

現行の健康保険証を残しましょう
政策部解説vol.163 2023.6
 
 ここ最近の政策部解説では、オンライン資格確認(オン資)、マイナンバーカード、マイナ保険証、健康保険証廃止の問題を述べてきました。
 医療のICT化は進められて行くものだと思いますが、問題山積のまま進めて行くと医療現場での混乱、そして国民全体に「不利益」が生じてしまいます。
 現に、顔認証カードリーダーでトラブルが発生し、保険証番号が確認できない事例が多く報告されています。診療する前の段階でのトラブルですが、医療機関の窓口でこんな事象があると、その原因が「通信トラブル」、「機械トラブル」、「アップデートトラブル」など多くあり、どれなのかと考えてしまいます。その道に詳しくない私でさえ、この程度の原因を考えつきます。しかし、その対応策となると個人の力では限界があります。
 厚労省に問い合わせても解決策を教えてくれることはないし、それ以前に電話が繋がらない。(以前、私がオン資の件で電話した時、最長で45分間繋がりませんでした)来院された患者さんは受付でストップしてしまい、最後には「怒り」を露わにしてしまう次第です。不信感を持った患者・国民と医療機関の対立が起こってしまいます。
 最近あったネットで有名になった事例です。顔認証カードで受付した時、他の人の保険証が紐づけられていました。うっかり、そのまま診療してしまうと医院側が「不正請求」とされてしまいかねません。住民票を取ったら他人のが出てきたと報道があったことを思いだします。
 今回の他人の保険証との紐づけの原因は「保険者」での入力ミスだとの事ですが、そもそもこれはヒューマンエラーであります。医療者は「ヒューマンエラーは必ず起こる」そして、それが重なると事故に繋がることは熟知しています。その対応として「バックアップ」をすることもこれまた熟知しています。現行の保険証はこの「バックアップ」なのです。
 保団連では、昨年から何度も「オン資」「健康保険証廃止」の問題の打開に向けて厚労省と懇談をしております。担当保団連役員は自院を「休診」してまで上京し骨を折っています。未熟すぎ、ヒューマンエラー、穴だらけのシステムでは問題発生は必然であるし、その解決への対応も出来ません。
 そうであるなら医療現場でのトラブル回避のために保険証存続が絶対条件です。まさか、このようなトラブルが発生しても対応しない事が行政の施策とは思いませんが。
 4月27日に健康保険証を廃止してマイナンバーカードに一本化するマイナンバー法など関連法改正案が衆院本会議で与党などの賛成多数で可決しました。このまま参議院で可決成立してしまうと、政府は2024年秋に保険証を廃止します。
 さらに、この改正法案の恐ろしい点は、社会保障と税、災害対策に限られるマイナンバーの利用範囲を、国家資格の手続きなどに拡大する。法で認められた業務に「準ずる事務」なら法改正せずに政省令で利用できるようにもすることです。(共同通信社より)
 厄介なことに、この改正法案が所謂「束ね法案」であるので、法で決めるべきところを法改正せずその下にある「政省令」で出来るところが隠れてしまっています。
 オンライン資格確認が不備なシステムであり、ヒューマンエラーの発生は必然です。国のシステムではトラブル時の対応が出来ないので、現行の「健康保険証」は廃止せず存続させることを強く望みます。
 

「お上の決める事は間違いがないのか」
ものを言うのは今
政策部解説vol.162 2023.5
 
 最近起こっていること、そして国が起こそうとしていることを時系列にしてみました。
1)2023年4月1日、オンライン資格確認(オン資)義務化
2)2024年秋、現行保険証廃止
3)同 2024年秋、レセプトオンライン請求義務化
と一連の保険診療の手続き変更の実施について、余りにも強引なやり方には当惑されている先生方も相当数いらっしゃると思います。
 これらはマイナンバーカード取得と密接に関わり、その上で患者さんの受診手続き、医院の事務をネットシステムを使ってICT化を進める一連の流れと捉える事が出来るのですが、それに乗れない患者さんは保険診療から排除され、医療機関サイドは「閉院」に追いこまれてしまいます。
 4月になって個人的に医科の受診をしましたが、顔認証カードリーダーを置いていなかったり、あるいは置いていても私が見た限りでは、利用している患者さんはいませんでした。(当然ですが、私は従来通りの保険証での受診です)
 このような状況は日本全国どこにでもあるのでしょう。現実にはやはり保険証の確認が一般的なのだと感じています。
 さて、矢継ぎ早に出される上記の1~3です。オン資の義務化ですが、保険医療機関への徹底を図るべく、「療養担当規則(療担規則)」の改正が行われました。これはご存じの通り、所謂「法律」ではなく「省令」です。ですから、大臣が決めれば簡単に改正が行われる側面があります。
 療担規則は健康保険法を実施するために必要な保険診療の事務手続きや診療方針を定めるもののはずです。2010年4月から、診療明細書の発行が療担規則の改正によりいつの間にか義務化されました。この時医療側は患者さんの希望に応じた発行とするよう求めていましたが、健康保険法が具体的に定めていることなのか、大変違和感を覚えたことを思い出します。
 今回のオン資義務化も同じ手順で療担規則に手を付けました。法令のピラミッドからすると、政令や省令、そして通知は「法律」より下位にありますが、下位の法令は上位の法令の範囲内で定める必要があります。
 最近、東京保険医協会の先生方の「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」の訴状を拝読しました。
 東京保険医協会のホームページには「健康保険法には保険資格の確認方法をオンラインに限定する規定はなく、資格確認の方法に関して省令に委任する規定もない。健康保険法が委任していない事柄を、省令である療養担当規則に書き込んで変更することはできない。」と書かれています。法律の裏付けがないにも関わらず療担規則を変更することは出来ない、と理解しました。個人的に賛同しました
 このまま、「お上」の言うことをそのまま従うことにはいささか疑問を持ってしまいます。
 詳しいことは、東京保険医協会のホームページを一度開いてみてください。

生きにくい世の中
政策部解説vol.161 2023.4
 
 この政策部解説を書き始めて13年が過ぎました。最初は1年間くらいでこの文章は終わるだろうと思いながら、気が付くと、もうこんなに長く月日が経過しました。今までの13年を通して、この数年間が最も日常診療、そして生活がし難くなった時代であると感じます。
 2019年から金パラ価格が高騰し、保険点数と極端な実勢価格の乖離が生じ、当会や保団連では危機感をもって精力的に金パラ逆ザヤ解消の運動を行い、2021年4月から3ヶ月毎の保険金属材料価格の変更がなされるようになったのは記憶に新しいところです。
 2020年が始まるや新型コロナが蔓延し世界中混乱してしまいました。
 受診者の減少に加え、急激な円安、歯科材料を含め生活品の物価高、今年10月からのインボイス制度実施による免税事業者から課税事業者に余儀なく変更させられるかもしれない不安、そして保険医療機関のオンライン資格確認義務化、現行の保険証からマイナ保険証への移行、今までになかった不自由さを感じます。
 デジタル化すること自体は結構な事と思います。余りにも拙速なオンライン資格確認、マイナ保険証の実質義務化です。オンライン資格確認を実施している医院でのトラブル事例は枚挙に暇がありません。これらデジタル化を行うには、一旦トラブルが起きれば回復には多大な犠牲が伴うのであるけど、どうも行政にはその危機意識がないのではと感じます。
 昨年11月、特定機種の顔認証付カードリーダーの不具合が起きた時も、担当の役所の対応は業者任せでした。厚労省のウェブから探すと、【顔認証付きカードリーダーの不具合事象(011エラー)と暫定対処について】とのタイトルで12月から新しいアプリ配信すると結論付けられています。この間の窓口はご想像に余りある状態だったと思います。他方、昨年4月、5月には全国でレセプトオンライン請求が締め切り日時に出来なくなった事例もありました。保険医の先生方は真面目に診療や保険請求に携わっておられます。こんな不具合が多く発生するシステム、そして役所の対応がお粗末な状態ではこの先不安です。
 ランニングコストも医院の持ち出しであります。受診減、物価高騰もあり医院を廃業する先生も実際にあります。そこの医院に長年通院されて、その先生と深い信頼関係が成立している患者さんはどうなるのでしょうか
 もっとこれらのシステムが信頼される状態になってから運用出来ることを願います。
 直近の医療経済実態調査では歯科医院1件当たりの収支差額の最頻値が約32万円/月であったことを思うと廃業を考える先生もこれからは増えるのではないかと思います。

オンライン資格確認と医療のICT化
政策部解説vol.160 2023.3
 

 医療を始め、世の中の様々な分野でのICT化は避けられないとつくづく感じています。
 多くの先生方が、去年の年末まで悩み抜いて顔認証付カードリーダーの申請をされたと思います。「オンライン資格確認を行わない医療機関には指導のペナルティを課す」などと療養担当規則にまでオドシの文言を入れてくれば、不本意ながら応じるしかないのが現実です。保団連では、「義務化」の撤回を何度も厚労省との間で求めて参りましたが、6項目期限付きの経過措置でしか回答を得られなかったことは失望の念を禁じえません。
 紙の保険証を2024年秋に廃止し、マイナ保険証(マイナンバーカードに紐づけされた保険証)に切り替えると河野デジタル相が昨年秋に発表しました。果たして実行出来るのかと思っています。
 病院、医院、調剤薬局でデジタル化させて、次は国民には受療権を盾にしてマイナンバーカードを取得させます。
 一体、オンライン資格確認を必要とする医療機関はどれだけあるのでしょう。そして、国民はマイナ保険証を望んでいるのでしょうか。慣れ親しんだ紙の保険証で十分なはずです。
 2009年11月レセプト電子媒体(オンライン請求を含む)請求の義務化の省令改正が行われ、手書きなど、一部の例外を除き、電子レセプトでの診療報酬請求になりました。即ち、高額なレセプトコンピューター(レセコン)を医院が購入することが請求の条件になりました。高額なレセコンを購入する費用は医院の持ち出しですし、医療側にとって、診療は確実に行ってもレセコンを持っていなければ診療報酬は払われません。例えるなら、会社に行って仕事して給料を貰うには高級車で通勤しなさい。自転車やバス通勤なら給料は払わないですよ、と言わんばかりです。
 そして14年の年月が経ちました。今年は保険証の確認はオンラインでしなさい(医療側)、さもないと呼び出しますよ。そして来年(2024年)秋からは、国民の皆さんはマイナ保険証で受診してください。さもないと医療は受けられませんよ。病気や怪我をしても自己責任です。
 どれにしてもペナルティばかりです。
 ICT化するのは、診療報酬の支払い(レセプト電子媒体請求)、保険証の確認(オンライン資格確認)、健康保険証(マイナ保険証)など制度の都合です。見た感じICT化されて来ましたが、それに対応出来ない医療機関、国民の事は置き去りです。もっと柔軟な制度にならないものかと思います。

オンライン資格確認義務化
今後の国民への影響
政策部解説vol.159 2023.2
 
 「オンライン資格原則確認義務化」が本格化しました。伺う所では昨年12月下旬に開催された中医協の会議では、「義務化」についてどこからも反対意見が出なかったとの事でした。我々は「義務」ではなく「任意」を強く望み活動していたので非常に残念な結果でした。臨床現場のことを十分理解している医療代表の委員はいなかったのかとやり場のない焦燥感に駆られました。
 閉院に追い込まれる医院、地域医療の崩壊、受診できない患者(主に高齢者)など「オンライン資格確認」という医院のPC問題だけでなく、社会を巻き込む問題となります。
 現に、地方の過疎地で地域医療に取り組んでおられる先生(医科、歯科)がこの義務化に対応出来ないとのことで閉院される予定であることを少なからず伺っています。
 そして、これによりマイナンバーカードの保険証紐づけの準備が刻々と進んでいます。
 当然、マイナンバーカードの取得すら出来ない方々は、紐づけどころではなく、受診出来ない状況が確実に起こります。弱者切り捨て、新自由主義(現内閣の行う新しい資本主義)の路線を突き進み、このような手法で医療費削減を考えているのかとも考えてしまいます。防衛費の対GDP比2%(10兆円)が上がり、財源の担保がなされていません。医療費、介護費などの社会保障費を削ることで「防衛費」に回していくものなのだろうとさえ思っています。その陰で、どれだけの国民が医療・介護から遠ざけられるのか今後が心配になりました。

理由のない防衛予算
政策部解説vol.158 2023.1
 
 「防衛費2023年から5年間で43兆円増、それ以降はGDP対比2%以上(NATO加盟国がそうだから)毎年4兆円以上追加予算必要・・・」最近、このような見出しの新聞記事をよく目にします。
 2022年ウクライナに侵攻したロシア軍や日本周辺有事に備えての防衛予算増加との事でしょう。「防衛予算増加が必要でない」と言うことは思わないにしてもその理解に苦しみます。
 防衛予算費を「NATO加盟国並みに対GDP比2%以上」と2022年夏に唐突に言われ物議を醸しています。
 様々な報道でも「防衛費GDP対比2%の数値に特別の根拠があるわけではない。」と言われ、何となく「NATO加盟国が2%だから」なのでしょう。予算額にして10兆円、あれこれと積み上げた結果が10兆円でなく、最初に10兆円ありきです。何に使うか詳細な検討は出されていません。
 巨額な予算を一体どこから捻出し誰が負担するのでしょうか。増税、国債など盛んに論議されています。
 例えば、東日本大震災後の復興増税(付加税方式を思い出すと、25年間(2013~2037年 基準所得税額×2・1%&1%)増税されています。現在も我々国民は払っています。
 ところが、被災地と関係の薄い使途(南九州地区の道路整備など)にも流用されていた問題が大きく報道された事がありました。これから想像するに、この10兆円になる防衛予算費がまともに使われるとは信じ難いです。その上、この原稿を書いているこの時(12月8日)、復興税の一部を充てることを岸田首相が述べました。2日前(12月6日)、防衛財源について「個人の所得税負担が増加する措置は行わない」と述べていたにも関わらず。そんな今後の日本の方向性を決めてしまうかもしれない決定を僅か1週間、それも議会(国会審議)なしで決めてしまいました。
 復興税が防衛費に流用出来る程の額であるなら、復興税の減額も可能などと考えてしまいます。
 「所得倍増計画」と就任当時掲げた岸田内閣からはこの言葉は、もうどこかに行ってしまい「防衛費倍増計画」が突然出てしまいました。
 そして、医療人として最も気になることが次回診療報酬改定への影響です。2022年の歯科診療報酬改定額は僅か90億円のプラスで、これは保団連の社保担当副会長がおっしゃるには、札幌市の除雪費用にも満たない金額。これだけの防衛費を捻出するには、今年(2023年)の診療報酬改善運動には力を注がなければ、プラスどころかマイナス改定になることも予想してしまいます。

1か月7万円で暮らせますか
官製失業者増加制度~インボイス
政策部解説vol.157 2022.12
 
 インボイス、この言葉を最近聞くことは多いと思います。簡単に言うと、会社A(企業)が物を売る時、仕入れに掛かる消費税を控除(仕入れ税額控除)します。インボイスは適格請求書等保存と言われ、インボイスの保存が仕入れ税額控除を受ける要件になります。 
 先ほどのA社がインボイス保存をするなら、仕入れ先にインボイスを発行して貰うことになるのですが、仕入れ先の会社は税務署に行き登録申請を行い、インボイス発行が出来るように手続きを行います(適格証明書の発行)。ところが、ここに大きな罠があります。
 仕入れ先の会社が手続きをすると自動的に課税事業者となります。今まで零細で売り上げが1000万円未満の事業者であっても、このままでいくと2023年10月から消費税課税業者になります。中小企業庁の小規模企業白書をみると、個人事業者や1000万円以下の売り上げの企業が業種によるばらつきがありますが、どの業界を見ても50%かそれ以上であることが分かります。
 どの程度、新たな消費税が発生するのか気になっていたところ、11月2日(水)の財政金融委員会での田村貴昭衆院議員(共産・比例)の質問がありました。「インボイス実施でどれだけの消費税負担が生じるのか。例えば収入300万円の声優やアニメーターが簡易課税制度を選択した場合、13万6千円にも及びます。」国税庁も認めました。年金・保険料、所得税、住民税を差し引くと、手元に残るのは86万9千円。これを12か月で割ると、1ヶ月当たり、7万円。これでは暮らしてゆけません。従ってインボイス導入で声優の約2割が「廃業を検討」と回答しています。インボイスで新たに失業者が発生するのです。零細な個人事業者にとってこれは「官製失業増加政策」です。
 国の税収の基盤であるはずの、所得税(高額所得者)や法人税が減税され1989年から導入された消費税にシフトし、その税率をチョット触るだけで打ち出の小槌のように税金が入ります。(大雑把に言って1%で2兆円増税)これに反して、法人税はこの間下げられて、法人税の減税分を消費税がカバーした形になっているのは周知の事実です。
 因みに、消費税を3%→5%→8%→10%に4回上げた間に、法人税は10回下げました。

「保険診療が受けられませんよ」
と言うのと同じ
政策部解説vol.156 2022.11
 
 政府は「紙の健康保険証を2024年秋にも原則廃止する方向」であることを10月11日にTBSがすっぱ抜きました。言い方を変えれば「マイナンバーカードの保険証利用の義務化」、いわゆる「マイナ保険証の義務化」です。
 10月になっても政府の思うようにマイナンバーカードの普及は進んでいません。9月末日で交付率は49・0%(総務省HP)です。「9月までの申請ならマイナポイントを付ける」という言わば「お金」で釣る方法や、有名人を使い、これでもかと言うほどのPRをしています。これでもまだ49・0%なのです。ポイント付与の期間は延長されて12月末になりました。
 マイナンバーカードの普及のためなら紙の保険証を取り上げる、だからマイナンバーカードを作りなさい。保険証がなければ「保険診療が受けられませんよ」。そんなところでしょうか。任意であるはずのマイナンバーカードが、実質的に所持しないと大きな社会的マイナスを被るように計算された政策です。
 国民皆保険であるからには、保険証が紙であろうが構わないはずです。健康保険料を払っていれば、保険証がデジタル媒体であろうが紙媒体であろうが、保険診療を受ける権利をはく奪されることはないはずです。このままでは、マイナンバーカードを持つ人と持てない人との受療格差、健康格差が発生します。
 利害意識で「人」を動かす方法としては、2つあると考えています。その一つが「アドバンテージ」を与える方法(このようにしたらこんな物が貰えます)。もう一つが「ペナルティー」で脅かす(このようにしなかったら物理的、精神的に苦痛を伴いますよ)。今回のマイナンバーカードについてはこの2つの方法を取っていると感じます。
 そして、マイナンバーカードの情報管理についてはどうも疑問が残ってしまいます。情報管理を国が行うとしても、民間委託。その民間委託が下請け→孫請けの順にデータが流れていくのが常です。情報管理に国が予算をしっかり付け、漏洩できないシステムにすれば問題ないのですが、どうもそうなっていないようです。下請け、孫請けにICTに有能な人が所属して、その人から外部・外国に情報がダダ洩れと言うことは大いにありえます。
 他方、医療機関についても、カードリーダーを備え付け、オンライン資格確認ができなければ保険証を確認できず、保険診療ができない。そんな図式が成り立ちます。
デジタル化を急ぐ余り、国民皆保険を崩して国民を分断し、医療機関も分断することが国民の幸せなのかと感じます。もっと穏やかに、そして優しい政策が取れないものなのでしょうか。弱者切り捨ての政治です。
 ちなみに、過日、保団連理事会に出席した折、他県の先生のお話「オンライン資格確認システムが導入できないので既に2人の先生が閉院した。」…分断そのものですね。

オンライン資格確認
義務化ではなく、任意であるべき
まだ、焦ることはありません
普及状況次第で「原則義務化」は変わります
政策部解説vol.155 2022.10
 
 この4月の診療報酬改定で「電子的保健医療情報活用加算」が導入されましたが、「マイナンバーカードで資格確認をすると窓口負担が増える」と新聞や週刊誌に報道されるや、これを国民が総スカン。敢え無く廃止となりました。そして10月からは「医療情報.システム基盤整備充実加算」として(1)オンライン資格確認を行う体制が出来ている医療機関では初診料に4点加算、そして(2)この体制でオンライン資格確認等により情報を取得した場合は2点加算となります。もちろん、オンライン資格確認体制が未整備ならこの対象ではありません。
 さて、オカシナことに上記の(1)だけで4点加算。(2)はそれを利用して情報を得た、換言すれば高度な医療情報を得、利用すると4点→2点になる。利用すればするだけ2点低い評価となる改定となります。
 オンライン資格確認等の初期費用が補助金で賄えられ医院の持ち出しがなかったとしても、毎月のランニングコストは1・5万円とすると、(1)だけの4点(40円)でランニングコストをペイしようとするなら、毎月の初診患者数は1・5万円/円=375人となります。個人開業医がほとんどである歯科保健医療機関で初診数が毎月375人であることは殆どないでしょう。厚労省と関係のあるICT業者の笑う顔が目に浮かびます。
歯科医院の「オンライン資格確認運用開始施設数」は8月14日現在で18・8%(医科診療所は18・1%)です。カードリーダー申込数においても55・0%です。このように普及が低調にもかかわらず、2023年4月1日にオンライン資格確認導入原則義務化にする旨、8月10日の中医協総会は厚労大臣に答申しました。その上、これを療養担当規則に盛り込む具体案まで示され、9月5日号の官報に掲載されていました。随分早い対応で厚労省のなりふり構わぬ「焦り」が感じられます。
 ここからが、今回一番大事なことなのですが、附帯意見に「今年(2022年)年末に普及状況を再検討し、義務化の範囲(除外範囲)の更なる検討をして最終決定(原則義務化)をする」と明記されていることです。
 上記に書きましたが、進捗状況が20%に行っていない現実からすると到底来年の4月に100%完了する筈がありません。非現実・不可能な話です。マンパワーも機器も揃うとは思えません。それを見越して附帯意見が付けられているのでしょう。
 補助金については、年末までにカードリーダー申請、来年2月末までにベンダー契約に加えて、3月末までに事業完了、6月末までに補助金申請としています。ここをしっかり押さえておくことです。
 さて、厚生労働省の課長が未導入の医療機関にへの個別指導の実施について言及していますが、仮に来年4月に医科歯科3割が出来たとしても計算上、全国では9~10万の診療所が個別指導の対象になることになり、行政側の人員や実務面からして無理があると思えます。臨床の現場を知らない脅しともとれる発言です。
 まだ、急ぐことはありません。先ほどにも述べたように12月まで時間があります。

根こそぎ支払うことになる消費税
~「インボイス制度」の問題点~
政策部解説vol.154 2022.9
 
 8月の保団連理事会で税理士さんから「インボイス制度」の説明がありました。
 来年10月から(現時点では)予定されているインボイス制度についてなかなか理解出来ないのですが、その問題点を考えてみました。税理士でない開業医が理解出来るところで簡単分かったところで述べてみます。
文字の説明として「インボイス制度」とは正式には「適格請求書等保存法方式」と言い、「適格請求書」とは、請求書、納品書、領収書、レシートなどのことです。
 元々は「消費税」なる税を作ったのが原因で、このインボイス制度は事業者をジワリと課税事業者にしていく制度かと考えています。消費税がなければインボイス制度もなかったはずです。
 ここからが本題です。「消費税」は、物を仕入れて売る時、仕入れ時に10%掛かり、売る時にも10%掛けて販売するのが基本です。
 消費税の納税額は、(課税売上×10%)―(課税仕入×10%)になるので、納税額を少なくするには課税仕入×10%を「仕入れ税額控除」として控除しないと多くの消費税を払うことになります。
 売上高が1000万円を超えると課税事業者になり(医療では保険外の治療費が該当しますので一般の事業と異なります)消費税を納税することになります。この課税業者には、前述した「仕入税額控除」が必要となるのでインボイス発行が必須となります。
 課税事業者がインボイス発行するには「登録申請」が不可欠です。と、同時に課税事業者になるので消費税の申告納税が発生します。
 課税事業者になって、インボイス制度で「仕入れ税額控除」を受けるには、事務的にはインボイスの保存が必要です。今までは「帳簿方式」でした。
 さて、ここで課税事業者にインボイスがないとどうなるのか、と言う単純な疑問が出てきます。答えは簡単です。「仕入れ税額控除」が適応出来ないので多額の消費税を納税することになります。
 直接我々とは違いますが、事業者同士の取引がメインである事業者のうち1000万円以下の免税事業者の場合は、下請け側と元受け側のどちらかの消費税の納付額が増加します。通常弱い立場の下請け側が登録すれば、課税事業者となり消費税を納めることになるけれど、登録しなければ強い立場の元受け側の消費税(仕入れ控除がないことになり)が増えることになります。下請けへの圧力が高まることは必至です。
 消費税、インボイス、再度深く考える必要があります。

企業目線しかない日銀と政府
政策部解説vol.153 2022.8
 
 仕事が終わって夜遅くにスーパーで買い物をすることが多いのですが、物価が急激に上がった感じがします。
 最近円安と言われます。調べてみると、2021年2月までは凡そ対ドル105円代でしたが、それ以降下がり始め2021年12月では114円~115円代になり、今年3月からは円安に拍車がかかり135円まで下がり続けています。ざっと言うと、この1年で20円の円安ということです。日本は原材料の海外依存度が高いので、1年間で20円の円安では当然ながらコストが上がり、企業努力があるにしても物価高になることは容易に理解出来ます。円安が進めば、投資家は益々円売りドル買いに走り更に円安が進むことになります。
 もちろん、円安だけが物価高の原因ではなく、食料品の原料である農産物の不作、ロシアのウクライナ侵略など多くの要因はありますが、政府や日銀が円高に向かう政策を取れば物価は抑えられます。
 なぜ円安で生活苦の多くの日本国民を見放しているのか怒りに近い感情をもって保団連夏季セミナー(第一講座:「世界的な物価高をどのように考えるか」中央大学名誉教授 建部正義氏)に出席しました。講座の中で、建部氏の以下のお話で円安容認政策の根源が理解出来ました。
 黒田日銀総裁は、4月28日「全体として円安がプラスと言う評価を変えた訳ではありません。」と言い「全体としてプラス」とは輸出増加を期待される事実に他なりません。国民目線はなく企業目線しか存在しません。そして6月6日には「日本の家計の値上げ許容度も高まっている。」とまで言い、国民目線がありません。
 このように企業が儲かることこそが政策の柱であるならこの物価上昇は止まらない。
 2011年の大企業内部留保が324兆円、それが毎年増加し2020年には467兆円。賃金は30年間横ばい。これが新自由主義であり、政権の「新しい資本主義」なのです。トリクルダウンはありません。
 止め処なく企業だけが富を得、反して富の再分配が薄れていく政策を転換することが国民生活に必要であるとこの講座に出席して感じました。

「軒貸して母屋を取られる」
とはこのことか。
政策部解説vol.152 2022.7
 
 「こんなことがあっていいのか」と思った。それは「健康保険証の原則廃止」が5月25日の社会保障審議会(部会長 田辺国明氏:国立社会保障・人口問題研究所長)で「マイナ保険証」(マイナンバーカードと健康保険証を一体化)を打ち出したことだ。
 言い換えれば、現行の「保険証」は廃止する、と言うこと。極めて粗雑なことを堂々と言い始めた、と感じる。
 元来、保険者から発行される「保険証」があって、それをマイナンバーカードに紐付け「マイナ保険証」にする。保険証の代わりをするものとして出てきたもので、「軒」であり「母屋」ではなかった筈だ。
 患者さんの立場で言うと、マイナンバーカードが取得されていなければ、当然「保険証」がないと判断される。国民皆保険下での「保険診療」が受けられなくなる。
 順を追ってみると、マイナンバーカード取得→マイナ保険証(保険証の紐づけ)→そして、やっと「保険診療」が受けられる。というシステムである。
 医療機関の立場ではレセコンを入れた医療機関が、オンライン請求をし、カードリーダーを設置し始めてマイナ保険証が利用できる。前回号で、オンライン資格確認が医院とって持ち出しが多いとの記載をした。
 さて、今年4月・5月のオンライン請求で締め切り日に支払い側の送信が出来なくなった。オンライン請求をされている全国の医療機関の不安は相当なものがあった。請求ができなかったら、生活の糧が入らない。慌てて担当に電話したが、掛からなかった、と多くの先生方から伺った。オンラインにはこんな危険があることを知っているべきであるし、その時の対応策として「CDで請求出来ること」を明示する必要がある。危機管理が全くない。オンラインの危うさは記憶に新しいところではメガバンクの「M銀行」。決済が出来ない、現金の支払いが出来ないなど利用者に多大な迷惑を掛けた。責任者はそれなりの処分を受けた。
 そして、今後最も懸念されることは、運転免許証、金融機関口座の紐づけ。マイナンバーカード一枚に集約してしまうとこのカードを紛失した時に、「本人確認」が出来ないから、再発行には多くの時間と、多大な犠牲を払う事になる。行政は、紛失してしまうリスクなど微塵も想定に無いのだろう。お上のやることに間違いはない、という「官僚の無謬性」が匂う。マイナンバーカードについて法律を見てみると「マイナンバー法は、本人申請に基づいてカードを発行する」として任意取得と定めている。このことからしても、法の建付けからして大きな矛盾がある。
 社会保障審議会のメンバーを調べてみると「法」を熟知しているであろう学識のある方々の名前であるが、まさか「法」を調べず論議されたとはとても思えない。
 こんな問題山積のマイナ保険証の義務化はしてはならないし、現在の保険証の廃止は行うものではない。

モノ言えば変わった
金パラ価格
政策部解説vol.151 2022.6
 
 今年度は2年に一度の保険改定で、金パラ価格も上がりました。しかし、円安とロシアのウクライナ侵攻により金、パラジウムの高騰で金パラ価格は、実勢価格に比べ改定価格は遠く及ばず大きな「逆ザヤ」状況が続いています。4月に入り溜息ばかりついていましたところ、4月12日新聞報道から5月に再改定があることを知りました。因みに、4月改定では9万4470円/30g(税込み)、5月改定では10万2390円/30g(税込み)です。通常、購入する時は税抜き価格で考えるので、5月からは9万3081円/30g(税抜き)です。4月21日に購入した時の価格が9万7500円(税抜き)でしたので、この時点で税抜き価格で4419円の逆ザヤが既に出ています。その1週間前に購入した時には9万2600円(税抜き)でした。販売店の方のお話では、「これからは更に上昇するでしょう。」との事。
 逆ザヤ解消となることはないと落胆しながら、今まで3ヶ月に一度の改定ですら消極的な対応でしたが、連月での改定となりました。これは、この数年間の当会を始め、全国の保険医協会・保険医会、そして保団連の運動が反映しました。ずっと熱量を持ち続けて運動を続けることは骨の折れることですが成果が表れると達成感があります。
 保険医療が社会保障であるから、金パラに代表されるような「仕入れる材料が赤字」になることはあり得ない事と思います。
 政府が今のところ今年10月から実施しようとしている「75歳以上の高齢者の窓口負担割合の2割化」実行を阻止する運動を当会や保団連では行っています。年収200万円以上の高齢者、と年収ラインを決めていますが、一度決めると段々そのラインが下がり、やがて全ての高齢者が2割負担になることが予測されます。当然ながら、今はその年齢になっていない若い先生方ご自身も、これが実施されるとその年齢になった時には2割負担からの始まりです。現役世代の負担を軽減すると言う正義の御旗を掲げていますが、現役世代の1か月の負担軽減はわずか30円です。
 「5月から金パラ価格が上がるので、4月中に金属冠を入れたほうが安くなります。」と、高齢者の患者さんに伝えたところ、お話した全ての患者さんが4月中のセットを希望されました。「10月から、黙っていると2倍になるのです。ここは声を上げないといけません」と言うとお話を受け入れてくれました。
 7月に参議院議員選挙がありますが、この「2割負担化」が選挙の争点になるように声を上げたいと思います。
 もちろん、署名用紙がありますので先生方の院所で患者さんにご署名をお願いしていただければ幸いです。また、保団連では「ネット署名」も行っています。
 「保団連」のサイトから署名できますので右上のQRコードからアクセスしてください。

「オンライン資格確認」と
「マイナンバーカード」
政策部解説vol.150 2022.5
 
 今次診療報酬改定で「電子的保健医療情報活用加算」が新しく加わりました。この文字を読むと「電子的保健医療…」と書かれています。「電子的保険医療…」ではありません。このことには「保健」と「医療」の情報を統合する目的があるものと考えます。「保険医療」であるなら「保険」での「医療情報」ですが、「保健」であるからHEALTHです。この保健に関わる国民の情報を政府が一元的に管理して活用する(恐らく情報を欲しい企業・組織に提供することと考えています。自分の知らないところで個人の情報が、どこの誰とも知らない所に流れていくのでしょう)と思います。診療以外での「資格確認」に保険医療財源が使われるのには違和感があります。
 さて、この「電子的保健医療情報活用加算」は初診時に7点の加算が付きますが、条件があります。①レセプトオンライン請求をしていること。② 患者さん本人がマイナンバーカードに保険証を紐づけしていること。③医院にカードリーダーが取り付けられていること。④患者本人の同意が必要。⑤医院内に掲示すること。この5条件です。再診の月に1回限り4点の加算が算定できますが、条件は上記と同じです。
 患者さん本人に丁寧な説明をするなら、必ず窓口負担金のことをお話しないといけないと思って
います。院所サイドで患者さんの薬剤情報や特定検診情報等を取得するという利点はあるのですが、果たして同意を頂けるかが問題だと思います。初診料に7点加算、と言うことは70円です。3割負担では21円になります。同様に再診料の4点加算では40円です。3割負担では12円。
 デジタル庁が発足し、政府は今後デジタル化を急速に推し進めます。以前から保団連ではマイナンバーの「個人番号」と「オンライン資格確認」は別のもの、切り離して進めるべきと言っていま
すが、日本国民の個人情報を全てマイナンバーカードに集約するのは、国民の利益より政府の利益になるからではないかと思っています。
 医院側に点数がついたとしても月1回です。カードリーダーにつないだ専用回線の費用が1~2万円かかるとも伺っています。このようにランニングコストを考えたら収入<コストになると思います。
 最後に、初診料、再診料の加算点で窓口負担が高くなることを医療業界以外の方にお伝えしたら、こういった返事がありました。
 「マイナンバーカードを保険証として登録しておくと、保険証を忘れていてもマイナンバーカードで受診できるというメリットがあります。でも、保険証の代わりにマイナンバーカードを提示して窓口負担が高くなると言うのは知らなかったのでびっくりです。保険証登録することで、お金(マイナポイント)は貰えるので(笑)登録してポイントを貰ったとしても、保険証は今までどおり忘れずに持って行って、病院では保険証を出すのが正解ですね。職場のみんなにも情報を知らせておきます」。
 これが普通の国民の声だと思います。

報道されない
「食」の安全性の危機
政策部解説vol.149 2022.4
 
 人が生きていく上で必要不可欠なこと、それは「食べる」ことです。「食料、食材」には日頃から大変気になっています。歯科医だから特にそのように感じるのでしょう。
 今回は食品添加物表示記載の問題です。
 消費者庁が策定する、「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」が変わりました。
 食品添加物の表示が今までと異なり「化学調味料無添加」、「人工甘味料不使用」、「合成保存料不使用」等の表示が出来なくなります。食品表示法第9条にある「優良なものと誤認される恐れのある表示」を禁止する条文の解釈についての消費者庁の「指針」として出されたものですが、「ガイドライン」を「お上」が作成すると、食品メーカーはこれに従っていきます。
 「優良なものと誤認される恐れ」と言うので、消費者サイドに良いことを定めたのかな、と読み解くとどうもそうではないようです。
 この「指針」は、食品表示基準第9条に規定された表示禁止事項に該当するおそれが高いと考えられる表示を「10項目の類型」に分類し禁止事項を設けました。詳しくは消費者庁のサイトをご覧ください。
 10項目のうち特に驚いたのは「類型2」。元農水大臣をされた山田正彦氏がこのように述べられていますので改変し抜粋いたします。「町工場のような小さな業者が、例えばうま味成分を出すために煮だした鰹節の煮汁に含まれるアミノ酸は、味の素などの化学調味料の主成分アミノ酸とは成分としては変わりがないのに、その小さな業者が化学調味料不使用と表示するのは、消費者に味の素の化学調味料よりも優良だと誤認される恐れがあるから禁止するという理屈」と述べておられます。
 大手食品会社の製品と同じ表示にしろ、と言わんばかりで体良く小さな業者を排除すると理解出来ます。地方にある小規模な食品生産会社で作られたいわゆる食品添加物ゼロの食品でさえ、「保存料・着色料・無添加」の表示もこれからは類型3によって消費者庁から取り締まりを受けて出来なくなりそうです。例えば、お客さんのために真面目に手間暇かけ、無添加で作った明太子など「無添加」表示が出来ません。
 謳い文句は消費者のためのようですが、何かの力、バイアスが働いた感がしてしまいます。そもそも、消費者庁の考え方をガイドラインにしただけですが、法的には何も裏付けはないのです。
 前月号で「障壁」のお話をいたしましたが、ここで新しくマイナスに働く「障壁」が作られた感じです。

崩すべき「障壁」、守るべき「障壁」
~オミクロン株と日本の国防~
政策部解説vol.148 2022.3
 
 新型コロナオミクロン株の感染爆発が止まりません。毎日発表される新規感染者も2月上旬には10万人を超えて下がる気配がない状態です。この新聞が先生方のお手元に届く頃には患者数が下がっていることを心から願います。
 さて、今流行っているオミクロン株ですが、沖縄、岩国(山口県)、広島の例を思いだしてみてください。米軍の飛行場があるところです。
 日本で最初にオミクロン株の感染爆発が起こりました。当時、政府の方針で外国からの入国者を制限していましたが、後でわかったことですが、この米軍だけはフリーパスだったのです。
 日本に入る米軍の新型コロナウイルス検査は「日米地位協定」が障壁となって日本には出来ません。感染症国内への入り口がここにあります。せめてこの「障壁」を改善すること、願わくば、日米地位協定が撤廃されていると事態は大きく異なったのではないかと考えます。
 因みに、第二次世界大戦の敗戦国であるドイツ、イタリアでは自国での検査が出来るようになっています。イタリアでは、地位協定の改善要求で現在に至っていると伺いました。
 以前にも述べましたが、ヨーロッパでは国防とは「武力(武器)」「食料」「疫学(病気)」など多くの分野を含んだ考え方をします。日本では「武力により、領土や政治的独立を外部からの侵略から守ること」との認識があると思いますが、
ヨーロッパは歴史的に国家の危機に見舞われた歴史があるので日本の国防の意識とは異なるのでしょう。
 日本国を守るには疾病予防も国防として考えるべきで、日米地位協定という「障壁」がなければ日本が主体となって検査出来たことでしょう。残念ながらこの「障壁」が残ったままで、首相は国会で改善する予定がないとのお話をされました。遣る瀬無さを感じます。
 随分前にTPPが話題になった頃、BSE(牛肉)や外国産農産物非関税障壁の撤廃について述べたことがありますが、これらの日本を守る食料の安全保障という国防、
日本サイドの「障壁」は容易く崩され今や、ヨーロッパでは輸入できない残留農薬や遺伝子組み換え食品が日本には入っている状態です。
(なお、この話題については東京大学大学院農学生命科学研究科教授鈴木宣弘氏の講演が4月8日、9日に福岡県中小企業振興センターで行われます)

2022年診療報酬
改定率から考えられること
政策部解説vol.147 2022.2
 
 12月22日、2022年4月の診療報酬改定率が政府から発表されました。
 全体でマイナス0・94%。人件費・技術料に当たる「本体」を引き上げる一方、薬の公定価格である「薬価」を下げ、全体としてマイナス改定で決着しました(ニュース記事から)。
 少なくとも1998年以来、「薬価」を下げて「本体」を上げる手法がとられています。(グラフ参照)
 グラフには載っていませんが、2002年度、2006年度は「本体」もマイナス。2004年度は±0%。特に、2006年は「本体」が最悪の▲1・36%。歯科では矢鱈に、文章提出が義務化された改定で「史上最悪」と言われたことを忘れません。
 しかしながら、「本体」のグラフが際立って大きい2010年度(+1・55%)、2012年度(+1・379%)があります。
 グラフが示している通り、その時の政権が医療にどのように考えているか一つの指標として捉えることが出来ると考えます。
 この2010年度、2012年度はグラフの通り、民主党政権でした。歯科の改定率が改善された時でもありました。これには、東京歯科保険医協会や保団連が民主党議員と幾度にも歯科の現状の理解を求め懇談を行った結果です。「悪夢のような」と言われることがありますが、歯科にとっては「理解のある政権」だったと感じています。
 現在、歯科医療費の割合は総医療費(42兆円)のうち7%、額にして3兆円です。1990年頃までは10%あったのですが右肩下がりです。これを10%の割合にするには、ざっくりと言って1・2兆円UPが必要です。
 保団連ではこの12月に国会で「歯科総行動」を行いました(報告記事は別途参照)。全国から多くの先生方、技工士さんを始め歯科関係の方々が参加し、当会からも複数の役員が参加し金パラ逆ザヤ、低診療報酬、歯科技工士業界の問題等、歯科の窮状を国会議員に訴え与野党の多くの国会議員が訴えに耳を傾け賛同を頂き盛況のうちに終了致しました。しかしながら、神奈川県選出で現役歯科医の国会議員からは理解あるご発言を頂けなかったことが心残りでした。
 今後も粘り強く厚労省、国会議員に懇談を行う必要があります。

紐づけした利点はどうなのか?
マイナンバーカードとオンライン資格確認カードリーダー
政策部解説vol.146 2022.1
 
 最近、マイナンバーカード普及に向けた「ポイント付与」のPRがTV、ネットで盛んに行われています。マイナンバーカード申請されている方は、本当の利用価値を理解して作るより、「マイナポイント」欲しさから作る方が多いのではないかとさえ思えてきます。
 私たち保険医療機関に関わるのは、カードに保険証が紐づけされ、顔認証付きカードリーダーから情報を読み取る、というシステムであると思います。
カードに紐づけした人は2021年11月14日の時点で11・9%。歯科診療所でのカードリーダー運用診療所数は3837施設。カードリーダー申し込み歯科診療所は34481件(全数70815件)で申し込み率は48・47%。医科診療所の申し込み率が44・1%です。
 厚生労働省のチラシによると、紐づけした利点は、医院側では、1)患者さんからの保険証を預かる手間が削減、2)受付の保険証情報入力の手間の削減、3)資格喪失過誤の返戻削減、4)過去の診療・投薬情報が(閲覧)可能で災害時にも確認できる。この4点です。
 大病院なら1)と2)そして3)は利点があると思えますが、歯科個人開業医ではどれだけ利点があるのでしょうか。資格喪失した保険証の番号がカードに反映されるのは、被保険者の保険証を事業者が「資格喪失した」と手入力して初めて紐付けカードに反映されるとの認識を再認識しておかなければ、資格喪失過誤の返戻は無くなりません。そこは、さすがに厚労省です。「返戻削減」と書いています。「返戻無し」ではありません。事業者がその手続きをコンピューターに入力したかどうかにかかっています。医療機関としてはどうにも手の届かない問題です。
 ところで、ご承知の通り、世界的に半導体不足が深刻な状況です。様々な製品に半導体が使われていますが、数の足りない半導体は当然PC生産にも影響しています。伺うところでは、日本では半導体の供給順位として先ず、自動車に振り向けられているとの事です。半導体を必要とする機器製造はかなり遅れるとの様子です。
 前述して様に、申し込み数が34481件に対して運用は3837件です。こんなに時間がかかるのなら、「導入を検討したが、撤回したい」とのお話も伺います。その様なときには、「医療機関向けポータルサイト」→「オンライン資格確認利用・補助申請は、専用ページにてお手続きください。すでにアカウントをお持ちの方はログイン」をクリック→「顔認証付きカードリーダー申込」で「認証付きカードリーダー1」の「台数」に「1」から「---」に変更。これで取り消し完了です。
 「マイナンバーカードは保険証として使えます」という触れ込みのPRがされているのが気になります。カードに保険証を紐づけした上でのことなら理解出来るのですが、健康保険に加入しなくてもカードを持てば保険診療出来る。また、今後は「保険証」の発行はない。との誤解をされている方がいらっしゃいます。保険証は保険者(組合や市町村)が発行するのです。マイナンバーカードは総務省発行です。保険証が無ければカードに紐付けは出来ません。ですから、保険証の確認方法は従来通り、直に保険証をシッカリ見るのが一番だと思っています。

「国民に広く行き渡る成長と分配」
でありますように

政策部解説vol.145 2021.12
 
 総選挙が終わりました。NHKの報道では投票率が戦後3番目に低かった(55・93%)との事でした。
 国民の意思が政治に反映出来る大事な権利ですので、もっと高い投票率が求められるのですが。
 首相のスローガンである「成長と分配」。これが、今までのようにレントシーカーに代表される「特定の団体や人」などに恩恵が傾斜・集中されるようなことのないよう、経済成長の恩恵が日本国民全てに分配されるような政策と、それが実行され実りのあることを心よりお願いしたいと思います。
 例を挙げると、日本の労働者の平均賃金はOECDによれば、1990年では406万円、2020年では424万円(+18万円)でほぼ変わりません。アメリカは1990年517万円、2020年763万円で+246万円。韓国は1990年240万円、2020年462万円で+222万円でした。ドイツ、フランス、イギリスなどもこの30年で右肩上がりです。
 これは、正規・非正規雇用の割合が大きく影響していて、1990年に20・2%であった非正規の割合が、2020年では2倍近い37・2%に。2020年の年収の比較では正規:非正規=496万円:176万円となっています。
 以前より何度も申し上げていることですが、企業の内部留保は、2011年281兆7494億円だったのが、その後の安倍政権で2020年には484兆3648億円となっています。実に72%のアップ。利益が企業に流れ、国民には利益が落ちてこない(トリクルダウンしていない)構図です。
 当然ながら、GDPの6割を占める個人消費は伸びていないので、日本のGDPは増加しません。ただし、安倍内閣の時、GDPの定義を変えたので統計上の数字はアップしているように見えます。
 コロナ禍で貧困に陥りその日の暮らしも苦しい、食事を削るなどして生活している人々の報道を見ると心が痛みます。
 「お金がないから歯科治療を受けられない」という悲しい事がないような社会になってほしいです。特に、歯科は所得弾力性が診療科の中で一番高く、後回しになりがちな社会保障分野です。

今しかありません。
是非投票に行きましょう

政策部解説vol.144 2021.11
 
 自民党の岸田氏が、10月4日に総理になりました。組閣された閣僚を見るとAAAに配慮した顔ぶれです。今までの慣例から論功行賞の結果と巷では囁かれています。
 そして、14日に衆議院の解散、総選挙投票日が10月31日。新政権の「新しい匂い」のするうちに一気に選挙に持ち込む戦略なのでしょう。総選挙をして与党、野党の勢力図がどう変わるのか、国民の意思が反映されることが望まれます。
 前回4年前の2017年10月に行われた第48回衆議院議員総選挙の投票率は、53・68%でした。
 また、小選挙区(全289議席)で、47%の得票率だった自民党は、75%の議席を獲得(218議席)しました。「死票」は、全小選挙区の合計で約2661万票。全得票に占める死票率は、ほぼ半分の48%でした。このように投票率が低いので、組織票が多い党・候補が当選しやすい、死票が出やすい結果になりがちです。小選挙区制で当選者が1人という状況下では、野党が複数立候補すると「票が割れてしまう」ので民意が反映され難い制度です。しかしながら、国民が意思を持って投票行動に出れば、もっと民意を反映した結果になったはずです。
 昨年から国民の「コロナ禍で仕事を失った。お店を休業せざるを得ないが、給付金がおりない。病院に入院出来ず、自宅待機で不安だ。」等、色々な嘆きともとれる弱者の「声」が上がっています。いまだ、国民の医療や生活には政権政党の政策が機能していません。今度の総選挙で政権を取る政党には、是非とも国民の生活を最優先に考えて頂きたいと考えます。
 また、7年以上も続いた安倍政権と菅政権で富の再分配機能が低下しました。岸田総理は「成長と分配」のスローガンですが、今までの政策では、その「分配」がどうも国民全体に行き渡っていません。経済勝者はますます富を得、弱者は切り捨てられ、どん底に落とされました。現在は、そのような制度になっています。早急に「富の再分配機能」を医療・介護など社会保障面や税制(消費税を5%、累進課税、法人税を見直す)などを行うことを希望します。私たちの医療の観点からすると、2023年10月からの「後期高齢者窓口2割負担」の実行を阻止出来るかが大きな問題です。
 先日TVを見ていたら、「投票する人が誰もいないから選挙に行かない」という人の意見を意識ある政治学者が「そんな時は、これはダメで、これは納得出来る。消去法でいいから、一番ご自身の意見に合った候補に投票すべきです」と言うお話をされていました。
 保団連、全国の保険医協会は「選挙に行こう」キャンペーンを11月まで行っています。

総選挙に行きましょう

政策部解説vol.143 2021.10
 
 劇的に自民党総裁選挙立候補を断念した菅総理ですが、それをきっかけにTVでは朝から晩まで「総裁選挙」の報道ばかりです。誰が立候補するのか、どの派閥が誰を応援するのかなど話題のネタとしては時々刻々変化するので視聴者の目を引きやすく、見ている側も何となくオモシロイ。だから番組供給としては視聴率も取れるのでしょう。
 こんな「露出度」の高い報道を行うことで国民の関心は自然に自民党の総裁選に向いてしまいます。そして、自民党と言う政党のPRになっているようにも思えます。
 その上、「これらの総裁候補のうち、次の総理大臣は誰がいいのか」とまで言ってしまう番組まで出てしまう始末。自民党総裁であることと、内閣総理大臣は元々異なることすら理解出来ていないと感じてしまう番組が堂々と公共の電波で流されています。言わば電波ジャックしている気がしてなりません。番組担当者の意図的なものなのか、とも感じました。
 さて、10月か11月に必ず行われる総選挙。多くの国民が望んでいるのは新型コロナ対策です。
 この8月2日、中等症までの新型コロナ患者は自宅待機すると菅総理が発表しました。病床不足が原因とのことでした。さて、去年の段階から新型コロナ患者が増えたら医療崩壊するので医療体制の充実を行うようにと提言されていましたが、実感として蔓延防止と緊急事態宣言しか発せなかった感があります。8月22日の九州ブロック会議の席上、ある保団連理事が「去年の第1波から今回の新型コロナ第5波に至るまで、何ら新しい対策を打てず、同じ戦術ばかりの繰り返し。例えば戦争の場合なら早々に負けてしまっている。敵を見、分析しそれに対応した戦術が求められるのに」と残念がって発言されていました。
 新型コロナの中等度までの患者を収容する施設を作るようなことがこの一年出来なかったのか。イギリスなど酷い時には1日当たり数万人の新規患者がでましたが、イギリス政府がこの野戦病院(臨時医療施設)を作るようになりました。日本においては、国が行わないので、自治体や医療機関が独自に対応しつつある話題が出ています。重症患者を出さないためにもスピード感が求められます。
 自民党の総裁候補、そして野党連合の新型コロナ感染対策、経済対策を冷静に見て今秋にある「総選挙」には投票したいと思っています。
 読者の先生方、是非「投票」に行きましょう。

「国民を犠牲にすることを       
厭わない(棄民)政治にはNOを」
~選挙に行こう~

政策部解説vol.142 2021.9
 
 昨年の春、厚労省が「不要不急の歯科治療は遠慮してください」と言う歯科医療にダメージを与える呼びかけが「新聞広告」などで堂々と言われました。「歯科治療と新型コロナ感染拡大」の検証もせずに。その後、歯科医院がどのようになったかは、ご存じの通りです。
 また、飲食店に対しての政府からの「兵糧攻め」・・飲食店に営業自粛を求めながら、「給付金」「支援金」を4カ月以上も出し渋り。コロナで死ぬ前に、お金がショートして死ぬとの悲鳴。まさに死活問題なのです。給付されないなら「営業する」しかないので店を開けているところも多いと伺いました。
 少々前に保団連の会議に東京に行った時の事です。コロナ禍以前から気になっていた昭和レトロなお酒も出す「食堂」の前を通りかかり思わず立ち止まって見ていると、店主の方が出ていらして「給付金が滞っているので止む無く営業しています」とのお話。思わず、「頑張ってください。気持ち分かります。」と私。
 7月上旬、政府の要請に応じず酒類の提供を続ける飲食店に対し、「取引金融機関から順守の働きかけを行なっていただく」との政府の発言がありました。これなど典型的な兵糧攻めです。
 我々歯科医院に目を向けてみると、昨年度予算の「交付金25万円」も未だ給付されていないところも多いと伺っています。事務に手数が掛かっているとの言い訳のような理由がHPにありました。申請が多いから手間取っているのでしょうか。
 このように今の政権は「国民を犠牲にすることを厭わない政治」を推し進めていると感じます。
 このままでは普通に暮らす国民は貧困になり、中小零細は閉店、倒産に陥ります。にもかかわらず、一部の裕福層は益々富み、一部の日本を代表する企業は内部留保が安倍内閣の時からこの8年間で6割以上も増えています。
 7月26日には国の2020年度予算のうち、2021年度への繰越金が過去最大の30兆円超に達し、巨額の補正予算を3度組んだが、総額の5分の1前後が執行されずに持ち越されたとの記事が出て愕然といたしました。ドン底に突き落とされている飲食店があるのに未給付なのです。
 組まれた予算の執行を滞らせるのはPB(プライマリーバランス)理論で政治をしているのが原因だと考えてしまいます。京都大学大学院教授の藤井聡先生のおっしゃるMMT理論での財政を考え実行する時であると考えます。
 お酒を提供するお店のポスターに「当店ではしっかり感染防止対策をしています。不公平な緊急事態宣言には断固反対です。秋の総選挙では自民党と公明党以外に投票します」と書かれていました。強烈な内容ですがそこまで瀕しているこの声が届いてないのでしょうか。
 

「PB論・新自由主義・構造改革」からの脱却
政策部解説vol.141 2021.8
 
 何だか最近世の中は不況感が溢れているように感じます。
 さて、「新自由主義」。これはもう20年以上、何度も言われている言葉ですが、ここに来てこの政治政策で、多くの国民が「負け組」に追いやられ、その上、一旦社会的、経済的に落ちてしまうと這い上がれない国になってしまったと感じています。これとは反対に、一部に極端な富の集中が起きています。
 個人的な意見ですが、新自由主義とは「儲ければ、その利益はそのうち上流から下流に流れるように富の分配が生じる。まずは、会社や経営者が儲けることが第一である。」そのように理解しています。その政治政策が構造改革で今も続いています。
 新自由主義・構造改革、PB(プライマリーバランス)論の政治政策がこの20年以上実行されてきたため、GDPの国際比較では日本は1995年以来2020年まで500兆円前後で横ばいですが、アメリカ、中国などは10倍以上も伸びています。
 厚労省のHPから給与所得者の平均給与(実質)を見てみると1996年の472万円をピークに減少し続け、2017年では433万円でした。財務省の資料では一般会計の歳入は1990年に60兆円あったものがこの30年アップ・ダウンを繰り返し、2020年に60兆円に戻るまで30~50兆円の間でした。
 当然、その間、消費税率を上げ法人税を下げた政策を行いました。以前にもお話したように2012年安倍政権発足から8年間で企業の内部留保は70%の増加です。(2019年度は475兆円)
 GDPは横ばい、消費税は3%→10%へ、給与はダウン、しかし内部留保は70%増加、これが日本の現実です。
 今年の当会の定期総会の市民公開講演の席で藤井聡先生(京都大学大学院教授)のお話で、PBに偏重した財政制度をとっているのはG20中で日本だけであるとおっしゃっていました。そして、国は政府の借金と家庭の借金を同等に扱い、PB論が正当であるとの論拠にしていますがそれはマチガイであるとのお話。
 PB論をMMT理論に発想転換することが一つの転換というのが藤井聡先生のお話です。
 貨幣というものは、政府が国債発行に基づいて創っている。つまり、政府が(借金を通して貨幣供給している。だから、政府の借金は国民経済を豊かにする)日本、アメリカ、イギリスの借金総額(債務残高)は増え続けています。完済している国はどこにもありません。
 PB論を基本にし、構造改革を実行している限りは消費税率は跳ね上がるだけだと考えます。今こそ、消費税を下げること、MMT論の政治方針にすることが、不況感、デフレ回復に繋がると考えます。
 今秋には総選挙が確実にあります。政治、政策が変わることを強く希望します。
 最後になりました。「選挙に行こう」。
 

「10・3%増加の歯科平均点数」
政策部解説vol.140 2021.7
 
 1年以上にわたるコロナ禍の影響で、医療費は各診療科ともに軒並み減少しています。特に小児科が大変酷い状態です。保団連では各診療科のデータを出しました。
 歯科について2019年(1月~12月)と2020年の月別前年同月比を参照しました。12ヵ月のうち、5ヵ月(3月、4月、5月、7月、11月)が前年同月比マイナスで、特に、4月と5月が15%以上マイナスとなっていました。当然、コロナ禍での来院患者数の減少が原因であることは想像に難くありません。
 最近行った九州厚生局への開示請求では、令和2年度、福岡県下3101歯科診療所の平均点数は1423点でした。その前年(令和元年)は1290点。実に133点も増加という結果でした。増加率を計算すると10・3%。毎年の開示請求の資料から平均点数を経年的に見た時、ずっと低下していました。因みに、例年はこの平均点数を基にして「集団的個別指導(集個)」の対象者が選定され、集個が実施されます。開示された厚生局資料を当機関紙で発表すると、毎回、読者の先生からご意見やご質問を頂きます。
 平均で10・3%の増加、これは平均点数の変化を見た限り今まで経験したことのないアップ率です。理由として、コロナ禍で受診者減となり、その影響で診療1回当たりの点数が上がった形になったように思われます。同様に、東京都の歯科平均点数も資料から2019年と2020年では10%程平均点数が上がっているようです。
 2018年度までの歯科医療費は3兆円に到達していませんでした。2019年度、やっと3・03兆円になりました。ところが2020年は2・99兆円でした。2020年は金パラの公定価格が上がったことにより3兆円には届かなかったけれど計算上ではぎりぎり2・99兆円。「減少額わずか」という結果でした。これでは見かけ上、減少額は少しだった感じがしてしまいます。例えるなら、相撲でいう「徳俵の上」で踏ん張ったというところでしょう。ところが、ここで重要なことがあります。実質収支を考えると大きなマイナス要因の「金パラ逆ザヤ」です。金パラの上昇分、逆ザヤ分(現在のところ2万円強/30gの赤字)を考慮すると実質歯科医療費は2・75兆円になります。
 3・03兆円―2・75兆円=0・28兆円、すなわち、2800億円の歯科医療費が実質的にマイナスになったということになります。これは、約1年分の歯科医療費の10%に匹敵します。
 コロナで受診減になったところを、頑張って何とか1回の診療点数を上げたけれど、金パラ逆ザヤで無残にも10%減少になった、と考えられます。
 読者の先生方、肌感覚で経営の厳しさを実感しているのではないでしょうか。
 数字だけでの減少額が小さいので、厚労省が「あまり歯科は困ってない」ということのないよう、厚労省との懇談ではここのところをお話しする必要があります。
 

「新型コロナと国防」
政策部解説vol.139 2021.6
 
 国防と言うと、他国からの武力侵入、そして武器を思い出します。私見ですが「国を守る」という観点から考えてみます。国防を危機管理とすると、他国からの侵入のみならず、食料危機、疾病など国防は幅広いと思います。
 食料問題では日本の食料自給率は37%(カロリーベース)。特に、穀物自給率は28%です。欧米の国々では100%以上がほとんどです。因みにフランスは173%。日本では小麦、トウモロコシ、大豆など常温で保存の効く言わば戦略上重要な食料品は、ほぼ90%以上が輸入されています。どこの国でも、「自国が一番」です。自国で「余ったら売る」これなのです。
 さて、今回の「新型コロナ」対策について、国の対応を考えてみると場当たり的な感じがしてなりません。と同時に、「自助」で何とか切り抜けろ、「公助する」という考えは希薄と思ってしまいます。昨年9月に発足した菅政権の臨時国会での施政方針演説で「自助」が強調されました。「自助」即ち、「自分の責任でどうにかしろ」と理解しました。
 ところで、新型コロナワクチンの4月19日での接種率(Our World inDate から)は世界182か国中、131位で0・96%。この数日で多少接種率が上がったとは言え、情けないし恥ずかしいです。コロナに罹ってしまい、何とかするのも「自助」と言いたいのでしょう。病気に罹るのもそれを治すのも自己責任。そして、窓口2割負担が出来ない老人は「自助」が足りないと言いたいのでしょうか。
 5月7日で2800万回分のワクチンが到着したとの報道を伺い、やっとワクチン供給が出来るようになったと思いました。しかしながら、このうち使われたのは400万回分です。2400万回分がそのまま。今度は接種するシステム(人手、手配)が出来ていません。ワクチンを打つDrやスタッフの数が圧倒的に足りないのです。足りないから、厚労省(行政)が歯科医に打たせればいいじゃないか、と言わんばかりに「法を変えずに言わば行政サイドから通知・通達で歯科医にワクチン注射を押し付けた形」となっています。「法」による担保をしてから歯科医がワクチン接種出来ることがまともな形であります。
 あまりにも「国防」に対する日頃の考えが希薄であり、それを「自助」で片づけてしまわれています。こんな想定をするのは聊か心苦しいですが、新型コロナ感染が続き、そこに世界的な穀物収穫不足が起こってしまうと日本はどうなるのでしょうか。
 

外国に筒抜け
マイナンバーカードの情報の危惧
政策部解説vol.138 2021.5
 
 昨年後半、コロナ禍でヘッドレストカバーが入手出来なくなったことは歯科医には記憶に新しい事と思います。私事で恐縮ですが、その時期、ヘッドレストカバーを購入すべく某ネット通販(A社)に注文しました。世界中の人が利用している通販なので在庫がありましたが、当然、日本国内にはなく、中国の会社との取引になりました。数日後、品物が到着しましたが、困ったことに注文数と納品数が異なっていたので、サービスの方に苦情を入れ、後日に不足分が届いたのですが、今度は過分でした。
 1ヵ月程経った時、いきなり携帯電話が鳴り中国語で意味の分からない一方的な話。どうもヘッドレストカバーの件らしいのですがお話が理解出来ず電話を切りました。
 さて、この事象を考えてみると、私の個人情報はA社にあるはずなのですが、どうもそこから中国の会社に電話番号も含め私の個人情報が伝わっています。そして、購入した際のカード番号も把握されているのかもしれません。
 ところで、中国の国家情報法7条に、「中国国内の組織、国民は知り得た情報を国家に提供する旨」があると大学の先生から伺ったことがあります。そうすると、中国の会社が知り得ている情報は当然中国政府も把握していることになります。
 今年2月に長妻昭衆議院議員が国会で明らかにした「日本年金機構からマイナンバー個人データ入力の委託を受けた情報処理会社が中国業者に再委託したこと」。これは2018年に発覚しましたが、年金機構の監査では、中国業者に再委託されたのは「500万人分の氏名部分。そして個人情報の流出はない。」と日本年金機構の水島理事長は答弁。果たしてそうなのか、流失していない証拠はないのです。
 公的機関が入手している情報はその管理などを独自に出来るシステムがないので「業者」に委託しています。その委託先がまた委託する形(孫請け)が日常化しているようです。委託先の会社が情報を漏らすか否かは委託先次第と言えるのでしょう。
 ここでよく考えて頂きたいのは、下請け、孫請けの会社が外国の業者であれば当然、その国の法律に縛られます。それが、中国なら先ほどの「国家情報法7条」で情報を「漏らす、流出させる」のではなくて、情報を「提供」しているのです。同じことを言葉を変えているだけ、外国は他の国の個人情報を「共有」していることになります。
 日本のマイナンバー(カード)の直近(4月3日)の普及率は28・3%で3590万枚。TVやネットで普及促進、そして「ポイントで釣る」政策が功を奏したのでしょうか、最近急激に多くなってきました。カード情報(氏名、年齢、健康保険証番号、銀行口座、カード番号など)は日本国だけでなく外国も知っていると考えるのが自然だと思います。
 情報管理に甘いことは、「国民を外国に売る」不安があります。この日本人3590万人分の個人情報は外国が「共有」するのでしょう。
 

「75歳以上窓口2割負担反対」の署名
政策部解説vol.137 2021.4
 
 最初に、75歳以上の医療制度について概略を述べておきます。75歳以上では、75歳を迎えるその日から「後期高齢者医療制度」に自動的に変わります。後期高齢者医療制度は、75歳以上の方(一定の障害と認定された場合は65歳から)がそれまでの国民健康保険や社会保険などに代わって加入する医療保険制度です。大きく違うのは、世帯で加入するのではなく、個人単位で保険料を支払います。2008年、発足した制度です。
 保険料の支払い方法は、主に年金からの天引きで一部納付書などです。現在、医療機関窓口での自己負担割合は、世帯の所得などに応じて1割または3割です。後期高齢者医療制度の財源構成は、本来、公費50%、現役世代の負担(支援金)40%、後期高齢者の保険料10%。しかし、現役並み所得者(3割負担)には公費が入らないため、公費は全体で47%にとどまり、その分(約4000億円)が現役世代の負担になっています。
 さて、後期高齢者が医療機関で支払う窓口負担割合を1割から2割に引き上げる対象範囲を「年収200万円以上」(単身世帯の場合。複数世帯の場合は、後期高齢者の年収合計が320万円以上)とした法案(2022年10月実施)を今次国会で成立させようとしています。ちなみに、この対象となる後期高齢者は、全体の23%(約370万人)です。これは、もちろん医療費削減の一環から来ているものですが、この2割負担で医療費8000億円削減と試算されています。そして世代が負担する支援金の伸びを2022年度ベースで720億円削減できる試算となっています。2018年度の国全体の医療費は約43兆円。75歳以上の医療費は約16兆円と、約37%を占めます。高齢者が増えれば当然に医療費は増加します。しかし、お金がないからという理由で単純に「窓口負担増加」が正しいのか、こんなコロナ禍での2割負担の正当性はあるのか、甚だ疑問です。
 上記のように、公費50%の財源構成が問題で、公費の比率を上げれば解決です。社会保障費を賄うため、消費税を10%まで上げたにも関わらずこれが本来の医療に回らず、法人税減税の原資になり、行った先が大企業内部留保に流れてしまっているのです。誰も生きていれば年をとります。患者さんに署名をお渡しする時、「近い将来の自分の事と思ってみてください」と伝えると説得力があります。 
 生きにくい老後がこのままではどんどん加速してしまいます。
 

コロナ禍ドサクサ紛れの「マイナンバー」
政策部解説vol.136 2021.3
 
 日本に新型コロナ患者が出て1年以上経ちました。1月13日に「新型コロナウイルスワクチンに係る医療従事者等の優先接種希望者数等の調査」があった事は記憶に新しいと思います。そんな折、1月19日にはワクチン接種には「マイナンバーとひも付けして管理」する話がデジタル担当大臣からありました。
 確かに、「ワクチン接種履歴の照会に手間がかかる恐れがあるから、マイナンバー利用は有効だ」というのも納得出来なくもないのですが、個人的には前のめりになっている気がします。
 例えば、ワクチン接種の時には、問診票に名前、住所とこのマイナンバーを記載するのでしょうか。マイナンバーを記載しない、マイナンバーを知らない国民には接種しないのでしょうか?様々な事を考えます。
 12桁のマイナンバー(正確には個人番号)は全ての日本国民に付いています。日頃、利用することはあまりないので身近なものではありません。まして、マイナンバーカードの普及率は現在24%(昨年11月で23%)です。結果からすると、この必要性には疑問を感じます。因みにマイナンバーカードは有効期間が5年間なので、5年毎更新が必要です。
 このように生活上、あまり普及していないマイナンバー(カード)ですので果たして上記の調査の効果は低いのではないかと思います。そして、このシステムではワクチンを受けた国民とマイナンバーを紐付ける、とあり「ワクチンを受けない国民」はスルーなのです。公衆衛生の名で「マイナンバー(カード)」の普及を先行させる政策なのかとつくづく思ってしまいます。コロナ禍という平時ではない時に何だかドサクサ紛れにマイナンバーを定着させる準備をするのでしょう。
 目下、保険医療機関への「顔認証付きカードリーダー」の普及が叫ばれています。
 深く考えてみると、これには先ず、患者さんが「マイナンバーカード」を持っていることが前提です。それを、持参し医院の受付に保険証の「代わり」に提出し、これをカードリーダーに読み込ませます。これだけなのです。
 マイナンバーカードの普及率が24%ですので、患者さんの利用はどんなものなのでしょう。カードリーダーだけ設置したけど「使わない」という事は出来ないと伺っています。資格確認が容易ではありますが、ランニングには毎月コストが掛かります。もちろん、今まで通りに保険証確認して診療は出来ます。
 国策で様々なところにマイナンバー(カード)を強く導入する感があります。一度じっくり考える時期になったと感じます。
 

レントシーカーはコロナ禍を一層劣悪にする
政策部解説vol.135 2021.2
 
※「レントシーカー」・・・政府や役所、官僚組織に働きかけ、法や制度、政策を自らに都合のいいように変更させて利益を得る者。(Rent:過剰利益)
 この記事が読者の先生方に届く頃には、緊急事態宣言の真っ只中だと思います。一刻も早い新型コロナ収束を毎日切望しています。
 さて、表記の「レントシーカー(Rent Seeker)」と言う言葉を聞かれた事がある方は、先月号「おすすめの逸品:竹中平蔵 市場と権力」の記事を思い出されると思います。新型コロナウイルスの影響で解雇や雇い止めにあった労働者は12月25日現在で7万9522人であると厚労省の発表。この方々の今後の生活が大変心配です。コロナ禍にあって一番被害を受けているのは経済的貧困層です。この層にいるのは高齢者、若年者層、そして派遣などに代表される非正規の労働者です。経済的貧困者は、新型コロナが蔓延しても生活するための「お金」を稼ぐ必要があり、「休む」ことが出来ないのです。当然、メディカルプアが多いことは容易に想像出来ます。そして、適切な医療に掛かれないため、病気を重症化させてしまいます。経済的貧困者が健康弱者となり新型コロナのような感染症の発見、治療が遅れることで感染拡大をさせてしまう危険性があります。
 そもそも、経済格差(個人、企業)を拡大してしまったことに端を発します。新自由主義(構造改革)の経済政策を転換し富の再分配を行い、所得格差をなくすような政策がコロナ禍では急務です。
 小泉政権以降、レントシーカーの思い通りの政策が進み、所得再分配機能が低下しています。それも、悔しいことに「合法的に」です。以前から何度も述べましたが、国民からの消費税は、そのまま企業の減税(法人税減税の資金)にスライドし、その上、輸出戻し税で潤い、大企業の内部留保は2012年から2019年では171兆円も増加しました。これぞ、正しく過剰利益(Rent)です。ところがサラリーマンの平均年収は1997年の467万円をピークに2014年では52万円減少しています。若い世代ではもっと所得が低いのです。規制緩和という美辞麗句で、雇用破壊をさせ正規労働者を減らし、同時に非正規労働者を増やすことで国民の所得が減少し、そこに新型コロナ。病気の蔓延してしまう素地が整ってしまっていました。
 再度言います。所得再分配が急務です。そしてレントシーカーを国の政策に関与させないようにしなければコロナ禍の本当の収束は望めないと思っています。
 

後期高齢者窓口負担2割はメディカルプア製造機
政策部解説vol.134 2021.1
 
 私事のことですが、昨年末は「喪中はがき」が例年になく多く届きました。拝読してみるとそのほとんどが「親」の死亡でした。その多くが90歳以上でした。随分と長寿なのだという気と、長い老後生活をなさった半ば労いの気持ちを持ちました。
 さて、臨時国会会期末の12月3日で「75歳以上窓口負担実施が2022年10月から実施」と国会での裁決なく菅総理が発表しました。余りにも拙速なことで非常に驚きました。後は、収入の線引き(本人収入が155万円、170万円、200万円、220万円、240万円の5段階)をどこにするかが議論になっています。現役世代の負担軽減を行うという目論見ですが、最低ラインの155万円にした時で、1430億円軽減の試算です。2017年度の現役世代の負担額は6兆1000億円とのことで、1430億円の軽減額では2%でしかありません。現役世代の1人当たりでは年間に換算して約3000円(1ヶ月当たり250円)です。これが現役世代の負担軽減に繋がるのかというと疑問が残ります。
 12月4日のY新聞には「現役世代負担減、1430億円」などと現役世代と75歳以上の高齢者の分断を図るとも取れる記載、「ワンフレーズ、連呼、分断」の手法で郵政民営化がなされた小泉政権を彷彿しました。他方、2019年7月の高齢者の総所得に占める公的年金、恩給の割合は51・1%の世帯が100%、11・2%の世帯が80%~100%未満となっています。公的年金、恩給が多額の金額でないことは周知の事実。2016年では国民年金の平均受給額は月5万5373円。厚生年金の平均受給額は月14万5638円。これから介護保険料が天引きされますし、光熱費、食費など生活必需品の費用が掛かります。「これで2割負担に耐えられるのか」素朴な疑問を感じます。
 そして菅総理の発言の「自助、公助、共助」が「自助>共助>・・・>公助」と思えてなりません。病気に掛かるのも、支払いが出来ないのも、低い年金額しかないのも自己責任なのでしょうか。75歳以上の窓口負担2割は決して行うべきではありません。読者の皆さんも時間が経てば75歳を迎えます。
 

「メディカル・プア」
政策部解説vol.133 2020.12
 
 10月21日の「クローズアップ現代+」(NHK)をご覧になられた先生方もいらっしゃると思います。番組の中で「メディカル・プア」という言葉が出てきました。「病気を抱えているのに経済的な理由で受診を控え症状が悪化、最悪の場合は死に至る。(中略)かつては単身者に多かったが、家族で暮らしている場合でも、新型コロナで配偶者の収入が減った結果、家計に負担をかけられないため病院に行けないというケースが今、増えているのだ」と番組では記されていました。
 これを裏付けるようなデータが総務省から10月2日発表されました。8月の労働力調査によると、非正規の雇用者数は前年同月から120万人減の2070万人となり、6カ月連続で減少した、コロナ関連の解雇・雇い止めは9月23日時点で6万人を超えました。
「安倍政権で雇用者増加した」と報道されましたが、2013年1月から2019年1月までの449万人の雇用増、しかしその72・8%が非正規雇用でした。以前から「お金が無ければ受診を躊躇う」ことは指摘されていました。ここに来て、コロナ禍で職を失う、収入が減る、ぎりぎりの生活をしていた人には病院など行く余裕はありません。今日、明日の目先の生活をしなければならないからです。このような生活を強いられている方に「自助」をしろ、と言うのは所詮無理なお話なのです。非正規雇用が雇用の調整弁になっている社会が強くなり、メディカル・プアが増える結果になっています。それも、去年10月からの消費税の増税10%、そしてコロナ禍で追い打ちが掛かりました。
 番組で紹介されたメディカル・プアの方は「自分が病気になったり、お金が無くて病院に掛かれないのは自分が悪い」との気持ちでした。これぞ「自己責任論」そのものなのです。2000年頃から構造改革路線で自己責任論が推し進められ、国民に「貧乏、病気は自分が原因で、自分自身の責任で解決しなければならない。国を頼ってはいけない」という意識が染み込み、根強いものになった気がしてなりません。悲しい事に、この意識を国民に浸透させたという意味では、構造改革は成功したのでしょう。
 他方、財務省が10月30日発表した2019年度の法人企業統計では、企業が蓄えた内部留保に当たる利益剰余金が前年度比2・6%増の475兆161億円となり、8年連続で過去最高を更新しました。(2012年は304兆円)これだけ利益があるのですから所得再分配の政策を、今即座に打つべきです。

安倍政権を引き継いだ菅政権の忖度政治
政策部解説vol.132 2020.11
 
 日本学術会議の6名の推薦候補任命を菅内閣総理大臣が拒否したニュースが話題になっています。今まで、日本学術会議の推薦があれば総理が任命していた慣例が突如反故にされました。単純、素朴に考えて「なぜ慣例を破ったのか。拒否権があるのか。」総理大臣には説明責任があると思います。総理は「法に基づいて適切な対応をした」と話していました。一体、どの「法」で何が「適切なのか」理解に苦しみます。また加藤官房長官は「人事に関することなので、コメントは差し控える」との発言ですが、明らかに説明責任放棄です。
 報道にもあるように拒否された6名については、安倍前政権の政策までそのルーツを見ると頷ける気がします。それは2013年12月突如成立した特定秘密保護法、2015年9月に成立した所謂「戦争法」(安全保障関連法案)、2017年6月成立の「共謀罪」について「反対」意見を唱えた方々です。時の政権の政策立案に対しては、「学術的」観点からして物申すこともあるのは当然です。日本学術会議は「政治」の世界ではないからです。
 民主主義では、ある意見に賛成する人も反対する人も存在して当たり前で、反対意見から学習して政策がより良い方向に修正することも多々あります。同調する人だけで人事を決めるのは「裸の王様」です。木村草太東京都立大学教授は次のようにお話されています。「法解釈を変えたのならそれが、条文上可能であるか」「仮に可能であるならどういう時に拒否できるのか」「今回拒否された6人は政府解釈に基づく任命拒否基準に対してどんな点が問題だったのか」非常に質問の本質を述べられていると感じました。
 「耳の痛い勧告をする人は仲間から外すから政府寄りの意見を言うようにしてください。分かるでしょ。学者の皆さん、忖度するように」とのメッセージなのかと勘ぐりました。
 この記事を書いている最中、菅総理から「総合的、俯瞰的(客観的に物事の全体像を捉えること)に判断した」との説明がありました。まさにこれです。「忖度政治」です。理由を具体的に明かさずボカしました。菅総理の意に叶うよう自ら引き下がるように無言の圧力をかけるに最も都合のいい言葉を選びました。内閣に都合の悪い団体にはマイナスの忖度圧力を掛け、逆に自分に尾を振ってくる個人、団体には出世などのポジションを与えるでしょうか。「モリカケ問題」は形を変えてずっと続くのです。
 
 

情に流されず、事実をそのまま見てみましょう
政策部解説vol.131 2020.10
 
 先月号で「臨時国会の早期開催を」との記事を書きましたが、突然の安倍首相の辞意で事態が混乱しています。真偽の程はよくわかりませんが、健康上の事が理由とのことです。体調のご回復をお祈りいたします。
 最近、マスコミの調べでは辞任表明後の安倍政権を評価する意見が5割を超えた、との報道がありました。個人的には辞任が決定して評価が上がるのにはどうも理解できないです。日本人の「情」に由来したのであれば今一度、感情とは別にフラットに見てみる必要があります。
 さて、長かった第二次安倍政権を振り返ってみました。時系列に追ってみます。2012年12月、自民党選挙公約に「ウソつかない。TPP断固反対」を謳って大勝するや翌年2013年2月になると、いきなりウソついて、ブレてしまい日米首脳会議でTPP参加表明しました。2013年、強行採決の上、1ヶ月で特定機密保護法成立。2013年「3本の矢」、経済回復を狙った政策、ざっくり言うと「株価を上げる、円安にする」これがアベノミクス。手法は新自由主義を元に構造改革、トリクルダウンです。株価は2万円を超え、米ドル対比も100円を超え当時の株安・円高には一応の成果がありました。確かに輸出企業には追い風で、収益が上がりました。
 しかし、どうでしょう。従業員には給与(労働分配は低下)としては落ちてきません。トリクルダウンは画に描いた餅です。溜め込んだ企業収益は内部留保に行きました。内部留保は2012年272兆円、2018年463兆円になり、この6年間で70%の増加です。驚異的な数字です。2014年内閣人事局を設置し、官邸が高級官僚の人事を握ることになりました。官邸の都合のいい人選になり、逆に官僚は「官邸に忖度」すると出世するようになってしまいました。森友問題はその典型です。更に、法人税の引き下げの実行です。2014年に2・4%引き下げ、数年で20%台に引き下げ。因みに、日本の場合法人税には、多くの控除項目があるので単純に諸外国と比較出来ません。この年(2014年)4月、消費税5%→8%へ。「上げた税金は全て社会保障に回す」と盛んに与党は訴えました。ところが16%しか使われませんでした。
 この年10月からGPIFのポートフォリオを変えて株式投資比率をそれまでの25%から50%と2倍に上げました。株式の官製相場が成り立ちました。GPIFによって「株高」を国民の年金が支える構図が鮮明となりました。
 2015年「新3本の矢」、一億総活躍です。GDP600兆円を目標として、GDPの解釈を変更しました。9月、猛烈な反対行動があったにも関わらず安保法(集団的自衛権行使)が成立しました。また、6月には記憶に残る「森友」問題が発生(2016年6月赤木氏の自死)しました。2016年2月、政府が放送局に対し電波停止を命じる可能性を言及しました(表現の自由、報道自由への侵害)。2017年加計問題が暴露されました。先ほどの森友問題と掛け合わせ、「モリカケ問題」として知られます。2015年以降、伊藤詩織氏準強姦事件の不自然な警察の介入が起こりました。「桜を見る会」「黒川検事長の定年延長」(検察人事への介入)など記憶に新しい不可解な問題がありました。
 この間、私たち医療分野では13年度から18年度の6年間で医療費自然増分から1兆5900億円を削減しました。当然、患者さんや介護利用者の負担として重くのしかかってしまいました。
 ざっと思っただけで安倍政権の7年余りの出来事を書いてみました。忘れっぽい、そして情に流されやすいと言われる日本人です。情に流されることなく事実をそのまま顧みることが必要です。
 

早く臨時国会を開くこと
政策部解説vol.130 2020.9
 
 
 新型コロナ感染拡大が続いています。この影響は数字として顕著に出ています。本紙8月5日号でも支払基金4月の確定件数と金額(昨年の同月比)を紹介しました。東京の▼25・8%を最高に、福岡県でも▼15・7%など大都市のある都道府県では顕著に減少しています。因みに、先日、医療事務の方から「4月より、5月の方の減少幅が大きかった」と伺いました。私の周りの先生方も同様なお話をされています。
 さて、このような経営の厳しい折、第二次補正予算で盛り込まれた歯科医療機関向けの主な支援策、4項目を紹介致します。①新型コロナウイルス感染症対策従事者慰労金(歯科の場合5万円/人)。②医療機関・薬局における感染拡大防止等の支援(無床診療所100万円)。③家賃支援給付金、個人最大150万円(月25万円)、法人最大300万円(月50万円)。尚、家賃額が個人37・5万円、法人30万円を超える場合は給付の上乗せがある。④雇用調整助成金の上限引き上げ(休業手当を支払った職員一人につき日額上限15000円)。これらは十分な支援とは言えないまでも、何もしないよりはいいと思いますので該当する先生はウェブ等で検索し具体的な方法を調べてください。
 医療全体を考えたとき、このような一時的対応では経営面では「焼け石に水」の感は拭えません。例えば、大病院で新型コロナ患者受け入れ病院では2/3が赤字。1ヶ月で数億円の赤字を出しているとも聞いています。当然、こんな状況下では医療スタッフはオーバーワークで疲労困憊していることは推測出来ます。しかし、赤字経営でボーナスなど十分に手当されないと報道されています。これでは、感染リスクを背負い命懸けでの診療しているスタッフの心が離れてしまいます。金銭を含めた待遇改善が求められます。
 省庁の対応では最早対応出来ない状況と思います。早期に国会を開催し、総理の方針で医療のみならず事業への支援を行うよう求めます。通常国会が6月17日会期末でした。野党は会期延長を求めましたが延長されませんでした。国民の間には相当な不満があります。JNNが先日発表した内閣支持率は35%、不支持率62%。コロナ関連の不満が出ているのですから、今こそ内閣は臨時国会を開催しコロナ関係の改善策を出すべきであろうと思います。日本は中央集権的国家体制であるので、都道府県独自の対応では制限、限界があります。

マイナンバーカード取得への強引な政策誘導
政策部解説vol.129 2020.8
 
 先月号でお話した「10万円の定額給付金の受け取りにマイナンバーカードが手間要らず、そして入金が早い」などと謳いながら、利用者からは「4つの暗証番号」の問題や、役所では煩雑な事務処理に追われ、当初の話とはかなり異なった結果になり「残念」な感がありました。
 現在、定額給付金の申請が一段落したので、マイナンバーカード申請が途切れないようにと7月からは「ショッピングポイント」と「マイナンバーカード」をドッキングさせた「マイナポイント」の申請が始められました。
 この概略は、マイナンバーカード取得→マイキーIDを設定→スマホやPCからマイナポイントアプリをダウンロード→マイナンバーカード、暗証番号、キャシュレス決済サービスへの紐づけ(1つのみ)→予約完了。ただし、先着4000万人まで。ざっとこんなシステムです。
 見かけ上のメリットは2020年9月から2021年3月までこの決済サービスを利用した場合25%・最大5000円還元(1ヶ月)です。
 このようにマイナンバーカードありきでスタートしています。それ程まで早急にマイナンバーカードの普及をしなければならないのでしょうか。本当にマイナンバーカードが国民に便利なものなら、既に広く普及していると考えるのが自然です。(普及率は4月1日現在で16% )
 私たち保険医に関係あるのが2021年3月より健康保険証との紐づけです。健康保険証として使える条件として「予めマイナポータル上で事前に登録をすることが必要」です。これは患者さんが自分自身で行うので、登録していない時には医療機関の受付で混乱することがあるでしょう。また、総務省のホームページには「患者さん向けにはマイナンバーカードを保険証として利用頂く方が、受付の手続きがスムーズに行えます」と最初に大きく書かれていますが、果たしてそうなのでしょうか。今の健康保険証でも問題ありません。
 医療機関向けに、「マイナンバーカードで健康保険証の資格確認がその場で出来る」ともあり、一瞬私たち医療機関でメリットあるようにも思えますが、どうもそうではありません。ホームページには小さな文字で「保険者への加入の届出は引き続き必要です」と記載されています。これでは、患者さん本人が保険者(勤め先や市町村)で手続きしないことにはマイナンバーカードには反映されないということであり、今と何ら変わりありません。
 メリットばかりPRされていますが、マイナンバーカードの利点、欠点を今こそ考える必要があります。
 一元化・紐づけすることで国家にはメリット一杯。しかし国民にはそうでもないように思われます。情報の集中は管理次第では危うさを覚えます。2015年に125万件の年金個人情報の漏洩が起こったことを思い出してください。

マイナンバーカードは効率化に繋がるのでしょうか
政策部解説vol.128 2020.7
 
「新型コロナ」の影響がいつまで続くのか先が読めないことに溜息をついてしまいます。「新型コロナ」で自粛が続き収入の一部補填という事で「特別定額給付金」の10万円が支給。実施主体は市区町村です。6月3日現在で給付率は21・4%とのことで、既に90%を超えたところもあります。
 さて、この10万円の申請方式は、①郵送申請方式、②オンライン申請方式(マイナンバーカード)があることはご承知の通りです。さて、当初、総務省はオンラインを勧めるPRをしていました。ところがオンライン請求すると簡単に10万円ゲット出来るくらいに思っていました。しかしながら、オンライン請求後は、市町村役所のPCでプリントアウトしてそれを職員が1つ1つ手作業で、住民基本台帳との照合、銀行口座番号など多くの事項を確認して給付しているのが実態と伺いました。これは郵送の場合も同じですが、郵送の方は住民基本台帳からの情報で送っているので銀行の口座番号照合で済むとのことです。オンライン請求の方が多くの手作業(アナログ操作)が多いのです。また、オンラインではマイナンバーカード所持することが基本条件ですが、4つの別々の暗証番号が必要です。この4つの暗証番号を覚えていることはまずないでしょう。暗証番号が分からないから結局、役所に駆けつけ三密状態で並ぶことになったとの報道も多くありました。
 マイナンバーカードに「口座番号が紐づけされてない」のが迅速な給付出来ないと、話題をすり替えた論議が急に上がっています。例え、紐づけしても以上のことからすると迅速な給付は出来ないことは容易に理解できます。
 最近では、総務大臣が「1人1口座を紐づけ義務化」おまけに「希望者に限りすべての口座をマイナンバーと紐付けられる制度も検討」を来年の通常国会に法案提出するとの報道があります。事務作業の簡素化、行政コストの削減を理由にしていますが、本当のところは、国民の資産を国家が把握することが目的のように思えてなりません。銀行の窓口でマイナンバーの確認をされると複数の口座を持っていても銀行側から紐づけされます。
 効率化と言う言葉が出ていますが、これについて一言。この「特別定額給付金」は給付事業費が12兆7344億円、事務費1458億円(1)です。総額12兆8802億円(2)になります。事務比率は(1)を(2)で割れば1%です。「ナカヌキ」「ピンハネ」で問題になっている持続化給付金は事業費2兆3176億円に対し、ナカヌキされたと言う事務費769億円。事務費率は3%。GoToキャンペーンは事業費1兆6794億円、事務費が3000億円。事務比率20%です。特別定額給付金の事務費が1%ですので、他もその程度で出来ると思うのは当然です。やはり、「ナカヌキ」があるのでしょうか。

新型コロナから見えてきた
危機管理対策、モノ、人、システム
政策部解説vol.127 2020.6
 
 国は、医療関係予算を削減した結果、ツケが回ってきました。平常時には現在のような事を想定せず、場当たり的な対応で「失敗」してしまった感じがしてなりません。
 最近の報道から分かってきたことです。「人、物、システム」についての問題があると思います。まず「人」です。例を挙げると医師数です。OECDの国別の2019年の報告書によると、日本の人口1000人当たりの医師数は2・4人で、OECD平均の3・5人よりも少なく、加盟国36ヵ国中、32位になっています。日本の医師不足は長らく認識されてきた問題であり、特に地方の深刻な医師不足は深刻です。そして「物」ですが、「新型コロナ」が流行し始めて、PCR検査を実施するネックになっているのが「保健所」であることは、検査数が伸びない原因です。(現在では検査できる環境が変わってきました)
 地域の公衆衛生を担う保健所、保健所職員数は、1994年の「保健所法」(後に「地域保健法」)により減少しています。例えば、1996年まではずっと全国850カ所前後で推移し、保健所数は、1996年845ヶ所(職員数33698名)、1997年706ヶ所(29948名)、2000年では594ヶ所(30353名)、2009年、494ヶ所(28259名)、2020年469ヶ所に激減し保健所数は、改革前の55%くらい、職員数は82%になりました。例えば、福岡市では各区(7区)に全て保健所がありますが、大阪市(24区)は1カ所のみでお寒い状況です。
 そもそも、保健所は「公衆衛生の向上及び増進」を担う機関として位置づけられています。このように、保健所数、職員数が激減されると当然ながら、少人数で広範囲の地域を担当することになり、職員の業務過多と住民密着の業務は困難になります。
 そんな所に、今回のPCR検査の決定を国から丸なげされました。その上、「体温が何度あって、それも何日続かないと受け付けない」とも取れる「御布令」。検査数が伸びなければ当然、陽性者の数も増えません。逆に、陽性者の数を増やしたくなかったから検査数の抑制をしているのかとも勘ぐってしまいます。
 N95マスク、防護服、人工呼吸器ももちろん十分ではありません。人も少ない上に、物もない、おまけに方向違いのシステム……「インパール作戦」をいまだにやっている気がしてしまいました。

現実離れした金パラ改定
政策部解説vol.126 2020.5
 
 昨年来、ずっと金パラ価格の問題について、頭を悩ましている先生方の声を数多く伺いました。当会会員の先生、そして未入会の先生方から多くの院長署名のFAXでその想いを頂いたこと、深く御礼申し上げます。
 度重なる厚労省交渉(行政的行動)、国会行動(政治的行動)から一定程度、金パラ価格臨時改定を行うまでに至りました。しかし、実際は①「素材価格の変動で補正率を決める仕組みはそのまま」、②「15%の変動率があった場合、3ケ月(直近では7月に可能性)で改定」の2つ。
 ①について、そもそも素材として12%金、20%パラジウム(どちらも重量比)を含んだ「金パラ」を保険材料として決めて、その「製品価格」を、「素材価格」から算出するのには根本的に無理があります。昨年の10月「金パラとラーメン」の記事「素材(原材料、ラーメンの具材)で金パラ(製品、丼に盛られたラーメン1杯)を決めることのオカシな決め方」をご一読頂ければ幸いです。その基本的算定方法は放置したままです。
 ②について、「あまりにも急激に高騰した金パラの価格改定が6ケ月の間隔では実勢価格との乖離が極めて大きいのでその緩和措置として設けられた」と個人的には良心的に理解しています。これは、当協会や全国の保険医協会、保険医会、保団連が国会に赴き活動した結果の反応かと理解しますが、この「15%」が極めて問題であります。例えば、素材が高騰したが、変動率が14・9%であれば対象とならないと言うこと。不合理なことであります。6ケ月の改定は5%であるのだから5%が妥当であると素朴に考えます。それと同時に、価格決定の時期とその方法は相変わらずブラックボックスである。
 多少語弊や理解不足のところはご容赦願いたいが、医科では「薬の価格」を決める時には、販売している会社(複数)に問い合わせ、それを参考に決めているとの事です。薬の販売会社は数多くあると思いますが極めて理解できる価格決定のプロセスかと思います。金パラでも販売会社から価格を調べ、「金パラ製品」として保険材料価格を決定するのは容易なことではないでしょうか。医科に出来て、歯科に出来ないのはなぜ。
 そんなモヤモヤしていたところ、衆議院議員の田村貴昭議員から「金パラ問題」を国会質問することからお話を伺いたいとの連絡がありました。4月1日夜に議員とお会いし上記のお話で懇談を致しました。それから僅か5日後の4月6日(月)に、国会質問が行われました。質問時間が15分間と一つの問題としては今までになく長い時間を費やして質問されました。極めて迅速で的を付いた質問がなされました。厚労省の官僚からあまりはっきりした回答がありませんでしたが、最後に、厚労大臣が「検討する」との今までになかった答弁を得ました。
 当会からの運動がひとつ前進した感がありました。田村衆議院議員には深く感謝申し上げますとともに、これからも国会活動を積極的に行いたいと思います。 

「同調圧力」 
政策部解説vol.125 2020.4
 
 3月になりましたが、新型コロナウイルス感染問題は、まだまだしばらく続く感があります。既に市中感染の段階になった模様です。読者の先生方、そしてスタッフ、ご家族の方々におかれましてはくれぐれも予防にご注意されてください。
 内閣は、この感染問題を何とか早く解決しようとしていますが、国民にはどうもそれが上手くいっていない感があります。
 この間を時系列に書きますと、2月27日(木)の夕方、ニュースで「3月2日から全国一律、春休み始まりまで小中高は休校要請」との総理からの強い指示。誰もそんなことを聞いていなかったので当惑し、大混乱。対象は、小学生約640万人、中学生約320万人、高校生約320万人。これにはあまりにも唐突であったので、国民の怒りを買い、28日には文科大臣が「地域や学校の実情を踏まえて行うよう、各学校の設置者の判断を妨げるものではない」と訂正とも取れる発言がありましたが、もう世の中は「休校ムード」になってしまい、今更、現場に判断を委ねても戻らない状況になりました。
 そんな時、当院を訪れた患者さんが「27日の夜には、総理辞めろ、と言うママ友LINEがありました。翌日の28日にはもっと過激な罵詈雑言が送られてきました。LINEの内容が総理総スカンになってきたのですよ。それも多くのお母さんが」「私の子どもも、3月2日から修学旅行がある予定なのですが、もうキャンセルになりました。残念で仕方ないです。準備するものも買ってお金をかけているし、高校の一生の思い出がなくなりました。子どもには、今度選挙に必ず行って、総理の党には入れないように言いました。」と、いつもは穏やかな方が何時になく強い調子でお話されました。恐らく、こんな風に考えた主婦の方はかなり大勢いると思いましたが、なぜそうなったのか考えてみました。
 新型コロナウイルス感染拡大を阻止したいと言う気持ちは納得出来ます。しかし、決め方が如何にも唐突で、相談がなかったとの事でした。おまけに、日本人には多いのですが「他の人がやっているから自分もする」という同調意識、今回は総理から発出されたものだから、逆らえば何かペナルティーがあるのかもしれないと思った地方公共団体もあると思います。
 世の中の流れに逆らって自分の意思を持ち貫くのは容易なことではないでしょう。同調圧力の強い日本だからこそ、今回の「要請」などトップダウンの指示は慎重になされることが望まれます。
 この記事が読者の先生方に届く頃には新型コロナ感染が、収束に近づいていることを切に祈ります。

安倍政権の経済政策 「株高」への誘導策
政策部解説vol.124 2020.3
 
 戦後最長の安倍政権が今も続いています。「世界一企業活動しやすい国づくり」というスローガンで2012年12月に誕生した安倍政権ですが、もう今年は2020年です。
 ご承知の通り、安倍政権の経済政策の根本は、「円安」と「株高」です。企業に優しい、特に輸出企業にという事であれば、円安、株高でしかも法人税を払わなくてもいい制度ということになるのでしょうか。
 官製相場で「株高」に誘導し見かけ上、企業は、豊かになっています。しかし、株式に回る「お金」をどのように調達するかが問題です。現在の東証の日経平均株価が2万3千円代となっていますが、これはどう見ても実際より高い株価です。以前にも何度か述べましたが、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は2014年10月31日からそれまでのポートフォリオの変更を行いました。そこでは、ポートフォリオを国内外の債権比率71%から50%に落とし、逆に国内外の株式運用比率を24%から50%に上げました。これにより、株式相場に公的年金資金が投入され株式を売り買いしています。日経平均が2万3千円代とは、概ねGPIFが買支えした状態になっています。株高にするために、国民から集めた年金をドンドン注ぎ込んでいる形になっています。「株式の下支えのためなら、形振り構わない」方法です。
 因みに、去年7月では、東証1部の時価総額598・6兆円。GPIFが全体の6・3%を保有しています。
 更にその上、株式相場を活性化させ株高にするには、GPIFや会社組織という既存のレベルから、個人投資家を育てることが必要とされ、それが将来の「株式投資」での重要な位置づけとなると思っています。
 再来年の高校の授業科目に「投資」の話題が出ています。個人が株式(ファンドなど)に投資する素地は、若い頃より株式が身近なものにすることで生まれます。株式投資の善し悪しはさて置き、このやり方は、「マクドナルド」の「味覚のデータベース」戦略を見習ったのかとも思うのは考えすぎなのでしょうか。
 投資の基本を身に付けることと株式投資をすることは一線を画す必要がありますね。
 

動き出した不平等条約と売国政策
政策部解説vol.123 2020.2
 
 新年になり、それと同時に「日本売り」が元旦から始まりました。
 日米FTAが発効された日本にとっては一部の儲けを目的にした財界を除き、深刻な影響を及ぼす事態が予想されます。
 日本の農業にダメージを与えて、その代わり自動車等の優遇という事になるのですが、これがどうも日本にはかなり不利なものです。例えば、アメリカ産の輸入牛肉の関税は現行の38.5%から段階的に引き下がり、2033 年度に9%になります。豚肉は安い部位に税は482 円/㎏から2027 年度に50 円/㎏になります。
 ところが引き換えの自動車・自動車部品の関税削減・撤廃は事実上、「継続協議」で何もなっていないのです。一方では数値目標が決まり、他方では「努力する」なのです。
 これで、日本の農業市場は7500 億円の打撃ということも言われていますが、もっと深刻なのは「安全性」です。以前からTPPの問題の時に書きましたが、「非関税障壁」の撤廃が、ここ数年来徐々に進められています。例えば、先ほどの「アメリカ産牛肉」をとると、BSE対応として、月齢制限を生後20 ヶ月以内だったものを30 ヶ月にし、危険部位除去もされていないまま輸入できるよう昨年5月17 日に完全に安全基準が変更されました。また、牛肉には成長ホルモン剤(日本では使用禁止)が入っているのに、なぜか日本は検査なしで輸入されることになっています。(因みに、今はEUでは輸入禁止ですが、EUがアメリカ産牛肉を止めてから乳がん発生率が多い国では45%減少という報告もあります)
 雑駁に言うと、安全基準を下げて、そして、関税を下げ、日本で商売といったことになるのでしょうか。もちろん、それだけには留まりません。「種子法廃止」の問題もあります。穀物そのものを制するために、戦後日本で培った穀物(特に稲)を遺伝子組み換え(GM)やF1種子に変えさせ、安全を脅かし、日本人の暮らしと健康を台無しにしながら、アメリカ等の多国籍企業に日本を売る政策が元旦からスタートしてしまいました。
 

来年度の診療報酬改定で気になったこと

政策部解説vol.122  2020.1

 
 2020年は社会保険診療報酬改定年度、いわゆる「保険改定年度」です。診療報酬額を決める根本は「財務省」である事は自明です。その財務省から決められた診療報酬予算を厚生労働省が診療行為に決定(貼り付け)して、我々保険医が行う診療報酬が決まる流れになっています。
 「1年間の医療費が42兆円」と言われていますが、日本の1年間の国の予算(医療給付費)は11・8兆円(2019年度)であります。決して42兆円そのままが国家予算から出ているのではないことを最初に申し上げます。
 診療報酬削減を狙う財務省は、財政制度等審議会財政制度分科会において、診療報酬本体が賃金や物価と比べて高い水準となっているとして、2020年度診療報酬改定でマイナスとすることを提言しました。
 また、国民医療費が過去10年間、年平均2・4%ベースで増加し、その伸びは、医療従事者の給与を賄う雇用者報酬などの伸びを大きく上回っており、これ以上の負担増を防ぐには医療費の増加を抑制することが必要、と主張しました。
 このように主張するために、それを裏付けるデータが示されているのですが、これがどうもトンデモない処理をしているのです。図1、財務省のグラフは1995年を100として起点にしています。
 ところが、図2に示すように、2000年を100として起点にすると、医療職種賃金のほうが、2002年以降、診療報酬本体より上回っていることが読み取れます(図2は本田孝也・長崎協会会長作成)。青の破線グラフと、黄色の折れ線グラフの上下が逆になっています。
 さらに言うと、2002年以降、医療従事者の給与は診療報酬を上回り、「身銭を切ってスタッフの給与を出す」構造になっているのです。このように、財務省の「まことしやかな」データが診療報酬削減の基礎となっていることに、やるせなさを感じます。都合のいい、いわば「デタラメ」なグラフを財政制度等審議会財政制度分科会に出して、出席した委員をマチガッタ方向に誘導しているとさえ思ってしまいます。

消費税は社会保障費になっているのか?

政策部解説vol.121  2019.12

 来年度の医療財政のことが気になっていますが、11月に財務省が提出した財政制度分科会で出された資料のお話です。財務省は、「診療報酬を1%引き下げは概ね4600億円の費用を削減する効果が見込める。保険料は年々上昇し、急速に減少していく現役世代の大きな負担となっている。国債発行に大きく依存し、将来世代につけ回しを行っている」と。
 財務省の論理からすると「それなりに正しい?」のでしょうが、制度の大きなマチガイがあると個人的には考えています。
 そもそも「消費税」の問題を論じる時、「必要な医療費、増加する医療費のため」と散々言われ、それを素直に信じた国民も、医療者も多かったと思います。ところが、実際はどうでしょう。財務省は「国債発行に大きく依存」としています。
 ここでまた問題です。国債発行がいつの間にか「建設国債」から「赤字国債」に変遷してそれを、財務省の言うことでは医療費不足に使っている、と取れるのです。「論理矛盾も甚だしい。」と感じます。
 現在のお金の流れを見てみると、徴収された消費税がそのまま法人税減税分に移行し、大きな企業は、内部留保として毎年途方もない財を成しています。数字で示すと、2017年度で446兆円、2011年(第二次安倍内閣発足)では282兆円でした。この6年間右肩上がりで58%増加しています。
 家計の事として置き換えてみると、この6年間で貯金が58%も増加したご家庭はあるのでしょうか。もちろん、利益追求を第一目標としている企業が「儲けてはいけない」とは思っていません。むしろ株式会社なら儲けることが目標であって然るべきです。
 問題は、税制というシステムでお金が貯まるシステムです。物を売って儲かって所得が増えるという普通のシステムではないのが問題なのです。
 法人税の控除があまりにも多くあるシステム、それがこのように異常な程の内部留保になっていると感じます。日本を代表する大企業がそれなりに払うシステムになること、そして医療費増加は「悪」でないと言う国の方針になること。これが社会保障充実に繋がると思います。
「税金を払わない大企業リストの公表」(富岡幸雄氏)の本を読むと納得します。

保険診療が成り立つことの切なる願い

政策部解説vol.120  2019.11 

 政策部解説も120号を迎え、執筆し始めて10年間の歳月が過ぎました。数日前、ある過疎地方の歯科医が監査を受け、架空請求し診療報酬を不正に受け取ったことが判明し、その結果、5年間の保険医停止を受けたと報道されていました。確かにやったことは弁護出来ませんし、してはならないことです。しかし、その理由が「生活が成り立たない赤字が出て、収入が欲しかった」とのことです。「遊興費」にかける訳でもなく「生活が出来ない」ことなのです。
 ここで最近の歯科保険医療の現実を数字で確認します。医療経済実態調査からみた歯科医院の収支差額(最頻値)は、1993年から減少の一途で、データのある2016年では1ヵ月あたり51万9000円です。1993年が125万7000円ですから、このデータによると約4割にまで落ち込んでいます。個人的にはこの数字は、肌感覚で実感出来る数字かと思っています。
 他方、国民医療費は、1992年(23.5兆円)と2017年(42.2兆円)を比較すると伸び率が1.8倍。特に、歯科医療費をピックアップすると2.3兆円から2.9兆円で、率にして1.26倍です。伸び率を同じ1.8倍だったとすると2017年の歯科医療費は2.9兆円から4.14兆円になるはずです。
 最初の話に戻りますと、過疎化の進行している地方では、患者、住民の数も減少して、今の保険点数では経営が成り立たなくなりつつある歯科医療機関も多く存在していると察してしまいました。
 現在、保団連では厚労省に歯科保険医療費の10%アップを要求する署名のご協力を、会員の先生方にお願いしています。背景にはこのような現実があります。また、10月から金パラ価格が改定されましたが、30グラム換算で(1685円/g)50,550円です。最近、わたくしのところに連絡のあった通販の金パラ価格が58,000円/30g。消費税増税10%を勘案しての買値、58,000円×1.10=63,800円(消費税額5,800円/個)、30gを1つ買うごとに、63,800-50,550=13,250円のマイナスになります。先月よりさらに赤字幅が広がりました。
継続的に良い歯科保険医療を行うには、歯科医院の経営が安定することが不可欠と思います。

「金パラ」と「ラーメン」

政策部解説vol.119 2019.10 

 消費税10%になってしまうかもしれない10月が来ました。なし崩し的に決定された形で個人的にはどうも納得出来ずモヤモヤしています。財務省のウェブサイトには「2019年10月に消費税率が8%から10%に引き上げられる予定です」と2019年9月になっても堂々と表示されています。「予定」ですので、「決定」でなない、とも読み取れます。
 丁度、診療報酬改定も重なった10月ですが、金パラの告示価格が、1,685円/gに変わりました。保険医が買う30g換算にして50,550円です。しかし、ある通販の8月29日現在で54,200円、我々が買う時これに加えて、消費税が掛かります。8%では59,184円、10%になると59,620円になります。この状態が続いたとしたら、10%の消費税では9,070円のマイナスが生じます。
 ここで2つの問題があります。一つは金パラ価格の決定過程です。金パラの保険価格は「素材価格」から決めるやり方を採用しているのですが、これが市場価格との差を生じる根本原因だと思います。素材価格から決定ということは、金、銀、パラジウムの金属価格(いつか分からない時の時価)からそのパーセンテージで金パラ30gの保険材料価格を決定するやり方です。
 ところが、我々保険医が購入するのは、素材ではなく、30gの金パラ製品なのです。それには、合金にする手数、販売コスト、流通経費などは反映されていないのです。
 例えて言うなら、ラーメン屋さんで「ラーメン」を食べる時を考えて見てください。お店で出されたラーメンには、「麺」「焼豚」「ネギ」「メンマ」「紅生姜」「カマボコ」などが入っていますが、麺が「何円」、焼き豚が「何円」などそれぞれの単価を出して、その合計がラーメンの価格として出されていることはありません。当然、作るにいたる光熱費、食器などの経費など諸々と店の儲けが反映されているのです。
 話を戻すと、素材から金パラ価格を決定する事は、市場価格より低い金額になることが予想されます。金やパラジウムが右肩上がりで高騰する時期には、決定した時は既に金属価格がそれより上昇しているので、更に差が出てしまい、医療機関がその「損」を被ってしまいます。
 もう一つは、消費税。以前から、この「政策部解説」では何度もお話していますが、医療に掛かる消費税は「損税」となってしまいます。
 保団連では医療機関の損税が保険診療報酬に対しての比率を調査しました、2018年6月25日号の全国保険医新聞では、歯科医療機関の損税割合は2.31%でした。この時点では8%でしたので、10%になればまだまだ上がると予想されます。

考え込んでしまう選挙報道

政策部解説vol.118 2019.9 

 参議議員選挙(参院選)が終わり、結果は与党(自民、公明)が、改選議席の過半数を取った形で終わりました。報道では、自民は改選前に比べると議席を減らしましたが、前回が勝ち過ぎたのである程度は予想通りで、立憲民主党が議席を伸ばしたとのことです。これは、選挙結果ですので誰が見ても分かることです。
 ここ最近、選挙期間のTV等の選挙関連の報道が、以前に比べて少なくなった気がします。ところが、選挙の投票時間(7月21日 20時)が終了するや否や、堰を切ったかのように「どの政党の誰が当確、当選した。政党分布がどう変わったか」など、殆どのチャンネルが先を競って当選経過を発表していました。本来、選挙期間中に各政党や候補者の政策や課題などを世の中に発する責務があると考えますがどうも違うようです。今回の参院選の選挙期間中には、選挙関係報道より、芸能関係のスキャンダルが極めて多くの時間を取って放送され、国政と芸能のどちらが大事なのかとさえ思えてきました。
 思えば、2年前、保団連夏季学習の特別講演で毎日新聞特別編集委員をされていた故・岸井成格(きしい しげただ)氏が「自由な報道をすることは、今の政権になって窮屈になっている。報道とは政権には批判的であることが使命」と、お話をされていたことを思い出します。それからすると最近は、マスコミは政治報道を避けているとしか思えてなりません。因みに「世界の報道の自由度ランキング」で日本は、2010年11位(鳩山)、11年14位(菅)12年22位(野田)、13年53位(安倍)以降下がり続け、とうとう2017年72位(安倍)となっています(カッコ内はその当時の政権)。
 報道の自由度が下がり続けているのは政府への「忖度」なのだろうか。

「消費税10%は阻止しなければならない」
政策部解説vol.117 2019.8
 参議院議員選挙の結果、私たちの生活に関わる政策が、でどのように変わるのか大変気になります。先ず、消費税です。これこそ生活に直結、一番関わります。そして私たち保険開業医に直結した問題と思っています。
 2014年4月に8%になったのですが、消費税を上げる前に自民、公明の責任者が盛んに「5%から8%に上げた消費税は、全額社会保障に充てます」とマスコミを通して話していたことを思い出します。
 今回も、「2%増税分の5.7兆円の内、1兆円は赤字国債抑制に充てる以外は社会保障関連に回す」とのことですが、5%から8%になったとき増税分の1割程度しか充てられなかった事を思い出すと、どうもそのまま受け入れることは出来ません。
 それに、個人消費の落ち込みは避けられません。8%になった時に生じた個人消費の落ち込みは、5.4兆円、GDPも2%落ち込んでいます。GDPの6割を占める個人消費が2014年度は前年度の304兆円から294兆円と急落し、2018年度に至っても8%増税前年の2013年度の水準以下でその影響は凄まじいものがあります。
 ここに至っての消費税10%は生活が大変になることは必至と思われます。
政府の今年度の予算を見てみますと、増税分の負担が5.7兆円、景気対策として6.6兆円、になっています。
6.6兆円の景気対策の内訳は、住宅ローン拡充0.3兆円、ポイント還元・プレミア商品券2兆円、幼児教育の無償化(制限付き)3.2兆円などになっています。
 よく見てみると、増税分より0.9兆円も持ち出しをしていることになっています。それに、景気対策の恩恵を受けない(現金払い、小さい子どもがいない、住宅を持たない)人には相当過酷なものとなると考えます。持ち出し予算がこんなに大きいものなら、消費税10%にする必要などあるのでしょうか。
 最も申し上げたいことは、景気ではありません、個人の家計が問題なのです。

「参議院議員選挙の重要性」
政策部解説vol.116 2019.7 
 この「政策部解説」が当機関紙に掲載される時には、今国会は終わり、参議院議員選挙(参院選挙)が目前となっていると思います。この参院選挙は3年に一度の通常選挙ですから「選挙の論点」という意味では、総選挙のように明確なものはないように思われます。しかし、そうではありません。今回は、「憲法改正発議」が出来るか否かが掛かった選挙で、憲法改正の発議は、憲法96条にあるように、「衆参各院総議員の2/3以上の賛成」が必要です。そして、国民投票となっていきます。
 具体的には、今回改選数124議席。改憲勢力(与党と一部の野党)が88議席以上取れば容易くクリアすることになります。逆に、88議席に届かなかったなら「物理的に」発議は不可能となります。
 さて、第42回定期総会の市民公開講座で講師をされた護憲派の伊藤真弁護士のお話を一部記します。「軍事力・抑止力を高めても戦争のリスクからは免かれない。抑止力は戦争をすることが前提である」「憲法18条の苦役からの自由」が制限され「徴兵制」は可能になる。「第73条の2、及び、第64条の2、緊急事態条項では、内閣が人権制限を可能に出来、議員の任期はいつまでも続けられ、そのまま政権が続く」「国民投票法の問題点は、最低投票率、絶対得票率の規定はないから国民少数による改憲の危険がある。投票運動の広告資金、事前運動も規制はない。テレビCMの規制もない。であるから、資金力が投票結果を大きく左右する」「手続法を公平・公正なものにすべき。発議させてはならない」
 個人的には、私の親族に、戦中、特攻隊員がいました。出撃命令が出る前に、「敗戦」を迎えました。また、機銃掃射を受け、間一髪身体の50センチ外れて当たらなかったなど、小さい頃から多くの戦争体験を身内から聞くことで、戦争の非情さ過酷さ、戦後の大変さを肌で感じて育ちました。今、この世に存在しているのもこんな偶然の重なりからだと思っています。
 最後に、伊藤真弁護士のお話でドイツの牧師の「マルチン・ニーメラー牧師」の言葉が心に残りました。紹介します。「ナチスが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった。私は共産主義者ではなかったから。社会民主主義者が牢獄に入れられたとき、私は声をあげなかった。私は社会民主主義者ではなかったから。彼らが労働組合員たちを攻撃したとき、私は声をあげなかった。私は労働組合員ではなかったから。そして、彼らが私を攻撃したとき 私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった」
 熱気に流されない冷静さを保ち、おかしいことには、おかしいと気づいた者から声を上げることが大切です。

憲法、ずっと平和であり続けること
政策部解説vol.115 2019.6  
 元号が令和に変わりました。「平成の時代には戦争がなかったということが一番重要だと思います」とお話された今の上皇陛下の退位前のお言葉ですが、これからの令和時代にも平和がずっと続くことが望まれます。
 さて、「日本国憲法」の問題がクローズアップされています。改憲なのか、そうでないのか。改憲ならどのような改憲なのか。これはあまりはっきり決まった改憲案があるようには思われません。今の段階では、日本国憲法9条についての論議がされていると思います。
 先日、福岡県弁護士会で憲法改正についての護憲派と賛成派とのシンポジウムがありました。弁護士会の中にも護憲派と改憲派の弁護士がいることに些か驚きましたが、そこは法律家の集団です。理路整然としたシンポジウムだったと伺いました。その討議内容は省かせていただきますが、護憲派と改憲派の弁護士さんの一致点は、「今の日本国憲法9条が変われば、今のままの状況ではない」ということでした。
 この「今のままではない」と言うことから想像することは、戦争や紛争に巻き込まれやすいのではないか。と個人的に不安を覚えました。改憲なら、それはそれとして国民に分かるように、きちんとした説明がなされなければなりません。まさか、騙すとか欺く、誤魔化すことなどないことを祈ります。
 私たち歯科医が、歯科医療ができるのも、「平和」であるからと常々思っているところです。平和であることの有難さ、尊さを感じます。今年の当会の総会(5月26日)には伊藤真弁護士に記念講演をお願いして憲法、平和についてお話していただきました。今後も当会は、平和と憲法のかけがえなさを発信し続けていきます。

口から入るものは安全なのか
政策部解説vol.114 2019.5  
 最近、「国民の食と農やくらし、いのちを考えるセミナー」(JA福岡中央会主催)に参加した。講師は東大大学院の鈴木宣弘教授。以前から、輸入食品の添加物やGM(遺伝子組み換え)、牛肉のBSE、牛肉生産時のホルモン剤の使用など食の安全には気掛かりな事が多くあった。また、「食」に関連した種子法廃止、漁業法改正、水道法改正が行われたことに危機感を覚えているが、その危険性を殆どのマスコミは報道しなかった。昨年の本誌に種子法廃止、そして水道法改正の記事を掲載しているので気になる読者の先生方は一読をお勧めしたい。
 さて、表題の「口から入るものは安全」なのかと言うと、疑問符が付いてしまうと言うのが鈴木教授のお話。例を上げる。日本は、アメリカの穀物に世界一依存している。日本に輸出される小麦、大豆、トウモロコシにはラウンドアップがかけられている。もちろん、これらの穀物はGMである。世界ではGMとラウンドアップの発がん性が広く認識されている。こういうことから、EUはアメリカからの輸入に規制を強めた。ところが、日本は逆に、アメリカの要求に屈し、ラウンドアップの残留基準を多いもので100倍以上に緩和してしまった。当然、私たち日本国民は、毎日危険に晒されて生活している。
GM表示については、納豆などにある「遺伝子組み換え表示」。日本では重量で上位3位、重量比5%以上の成分について表示義務があるが、これが国際的には非常に甘い。BSEの問題について、輸入されるアメリカ牛の月齢制限を20ヶ月から30ヶ月に引き上げた事を以前本誌で書いた。日本政府の発表では、30ヶ月の牛は安全とのことで緩和されたが、これには根拠がない。極めつけは、アメリカはBSEの検査が行われていない。そして、そのまま日本に輸入される。その上、牛肉の危険部位の除去も行われていない。「危険極まりない」。
 最後に、「科学主義」と言うアメリカの主張を紹介する。言葉自体は何だか、良さそうな聞こえである。その実態は、日本が科学的根拠に基づかない国際基準以上の厳しい基準や措置を採用しているが、「低い基準のTPPに合わせろ」と言うのがアメリカ。根拠として「人が何人死んでも、その因果関係が特定できるまでは規制してはならない」のがこの科学主義。EUは「予防原則」でアメリカが何を言おうが危ないものは止めるが、日本はなぜかアメリカの言いなりである。「毒であると確定するまでは食べ続けろ」と言うのである。
 歯科医は口腔に関してのエキスパートであるが、口から入るものが今、どんなに危険になっているか熟考する必要があると考える。

不景気も、統計一つで好景気
政策部解説vol.113 2019.4  
 タイトルの標語、すでに先生方はご存知でしょう。厚労省の統計不正問題の最中、タイミングよろしく総務省が定めた2月1日の「統計の日」に標語募集に寄せられたものの一つです。余りにも統計不正に関係する辛辣な標語が多かったので急遽取り止めになったとの噂です。統計が不正な上に、それを隠蔽する。そして国会で追求されると理由を曖昧にする。これは他人事ではありません。ここ6ヶ月の金パラの問題です。前月号でも述べましたが、5%の価格変動があったら半年後の保険材料価格を変える、事になっているのですが、今年4月では保険改定がありません。因みに、私の利用している通販では3月2日現在54,100円(30g当たり)、去年9月25日では41,900円。その差額は12,200円。実に29%の値上がりです。
 さて、「5%の変動で保険材料価格を変える」はずが、29%でも変わらないのは厚労省の立派な「統計」があるからなのでしょう。先月号では厚労省からの情報開示がないと話しました。これに対して、保団連では情報開示請求を行いました。このまま黙っていては社会保障としての歯科保険が崩壊してしまうことを心配しています。
 表題のタイトルを変えて言いますと「金パラ価格、統計一つで据え置きか?」 こんなことでないことを切に祈ります。

4月以降の金パラの価格は据え置き?
政策部解説vol.112 2019.3 
 先月の記事で金パラ価格の去年9月からの推移のお話をしました。その後の金パラ価格は相変わらず高騰しています。2月6日現在で配信された金額は49,500円(税抜き)。ブランド品G社の「CW」は1月末に50,500円(税抜き)と伺いました。2018年10月改定の保険価格が41,000円から考えると、「上下5%の価格変動がある場合は、半年後の金属価格は変更する」ことになっていますが、4月以降の金パラ価格は2019年4月では改定なし、とのことです。
 この半年で約20%の変動があるにも関わらず「赤字で金パラを使え」と言うことです。もっと言いますと今年10月まで、この1年間、金パラの点数はずっとそのままです。
 会員の先生なら誰でも素朴な疑問が出ますね。「なぜ改定されないのですか?」「改訂の根拠となる資料は提示されないのですか?」などなど……
 保団連では毎年、厚労省との交渉を行っていますが、金パラ価格変化の根拠となる資料の提出を求めたことがありましたが、資料は開示されませんでした。こんなことを思っていると、今、世間の話題になっている厚労省の「毎月勤労統計の資料不適切調査」「隠蔽体質」、この2文字が真っ先に出てきます。敢えて「金パラ問題」と言わせて頂くとすると、調査の方法とそれを開示できないことがここにもあるのかと自然に考えてしまいます。改定がないなら、誰にでも納得できる説明を行うことが説明責任でしょう。
 さて、1月27日に行われた、保団連代議員会では当会の浦川先生がこの件についての発言がなされました。「保団連は厚労省交渉を行い、誰にでも分かる説明を求めていきます」との回答を得、今後交渉を行います。

最近の金パラ事情
政策部解説vol.111 2019.2 
 去年の秋から金銀パラジウム(金パラ30g梱包)の金額が鰻のぼりです。読者の先生方におかれましても痛感されていると思います。
 私の所に、ある通販サイトから金パラ価格の変動通知が不定期ですがメールで届きます。ずっとその変動を見ていますと実に急上昇していることが分かりました。ただし、先生方がディーラーから購入される際には、この価格に比べ多少の上下があることを予めお話ししておきます。
 数値を列挙しますと2018年8月21日41,900円、10月3日43,000円、10月29日44,700円、12月5日45,600円、12月28日48,000円(金パラ30g梱包1箱当たり)です。9月から12月の約3ヶ月間で6,100円価格が上昇しています。
 金パラメーカーの営業マンに伺ったところ、今の保険診療(2018年10月改定)では41,000円が設定価格ですので、大幅に割を食った状態になっています。
 原因は様々ありますが、金とパラジウムの価格が高騰していることに原因があります。特にパラジウムは産出国が南アフリカ、ロシアなど数カ国しかなく産出量も限定されて多くなく、市場規模が小さい。それゆえ投機規模によって簡単に価格が上昇する。また、パラジウムは自動車排ガス対策に需要の80%が使われているので、中国などの自動車新興国の自動車生産量が増加すると当然価格が上昇していく。
 こういった状況下において、細々と経営していく我々歯科保険医は、その価格に青色吐息です。作れば作るほど「赤字」になる事を余儀なくしなければならず、国民の健康を守るはずの「社会保障」が、赤字覚悟の診療となっているのが現実です。以前は2年に1度の金パラ価格の改定だったものですが、その変動が大きくなったことから、今では6ヶ月に1度の改定になっていますが、これでは追いつきません。
 そもそも、今の金パラが保険歯科代用材料として適しているものなのか、時価で購入する事が社会保障の材料として妥当なものなのか、一括して政府が買い上げ、それを保険医療にしてはどうなのか再度一考する必要があると思います。

保険算定の解釈
政策部解説vol.110 2019.1 
 

  •  昨年(平成30年)4月の診療報酬改定では実に煩雑な算定要件となりましたが、先生方におかれましては既に慣れてこられたと思います。協会、保団連では今次改正での収入の影響を調査致しましたが、1/3以上の医院では減収というアンケート結果を頂きました。様々な要因があると思われますが、その一つには複雑な算定要件の変化の理解が徹底されていないこともあると思っています。保団連は厚労省との交渉を定期的に行い、不合理是正を要求しています。保団連交渉の結果、見た目には点数は変わらないけれど、算定要件が緩和され点数の増加に繋がった一例を挙げます。
  •  機械的歯面清掃処置68点ですが、以前はP病名のときだけ算定出来たのが、C病名でも算定可能になりました。そして、妊婦には月1回の算定が可能になりました。算定要件の緩和で増点に繋がります。
  • また、処方料の外来後発薬品使用体制加算(施設基準あり)の算定では処方の度に算定が出来ます。細かな事を言えば相当数ありますが、保険のルールを理解した上で算定することが必要になります。
  •  当会に「レセコンでは算定可としてあるので算定したら、減点された」などのご質問がありますが、レセコンは道具です。算定可、不可は保険のルールを知った先生が判断されることで決してレセコンに頼ってはいけません。
  •  レセコンのソフトが間違っていることはしばしば個人的にも経験があります。逆に、レセコンでは「不可」とされているけれど「これはレセコンが間違い」として算定することもあります。歯科の技術の勉強や研究会参加も重要ですが、レセコン任せにせず、保険のルールの勉強が必要かと特に昨年の改定ではつくづく感じました。

来年10月から、もしかしたら上がるかもしれない消費税10%
政策部解説vol.109 2018.12 

  •  先月号の続きです。消費税の医療機関への影響は大きいです。再度、消費税とは、どういうものかを私的解釈で申し上げますと、「保険での診療報酬に消費税を上乗せ出来ない。だから、仕入れされた医療材料に課せられた消費税は、医療を受けた患者さんには転嫁できない。換言すれば、仕入れに関わる材料(金属、薬、印象材、石こうなど)、技工料金の消費税は医療機関がカブること。」そもそも消費税は、駅伝のタスキ渡しシステムのように、最終消費者が支払うことなのですが、医療にはこの原則が通じません。例外なのです。
  •  消費税非課税は、「売る」(医療の場合は診療行為)場合に消費税を課さない。仕入れの時には消費税を払う。それだけなのです。出るときには消費税を掛けて売れない。仕入れの時に払い転嫁出来ない消費税のことを「損税」といいます。
  •  保団連での主張での「ゼロ税率」とは、仕入れの時には消費税の負担がない。単にそれだけです。社会保険医療が非課税(売る時は、消費税を掛けられない)だから、せめて入る(仕入れ)時の消費税は掛けないで欲しい。そう言っています。
  • さて、2018年6月25日号の「月刊保団連」によると一医療機関の損税は2.31%。ただし、高額な医療機器を購入すると、この数値は上がると思われます。それに、10%の消費税率になれば益々損税は大きくなることは明白です。消費税が5%の時、損税全体では9000億円を超えていると言われていますが、単純計算で10%になれば1兆8000億円を越える損税になります。当然、それは主に国の懐に行くので、国はこれだけの税金をアテにしています。
  •  ところがそれと対照的なのが輸出企業です。輸出還付金制度で輸出企業には消費税分が還付されます。5%の時に3兆円の還付金があったので、これも10%では6兆円になり、消費税が上がれば上がるだけ「儲かる」ことになります。消費税が損税で苦しむ医療機関と消費税で儲ける輸出大企業の現実を思うと、不公平感が感じられます。消費税収が19兆円だった2015年の時を参考にすると、還付金額が6兆円に上り国に入ったのは13兆円ということになります。
  •  先月にもお話しましたが、労働分配率を下げ(所得を下げ)、このように還付金で儲け、法人税実効税率を下げ、そして内部留保を5年間で142兆円も積み増ししたことには矛盾を覚えます。
  •  資本主義経済では所得の再循環がないと成り立たない。この天文的なお金が全てとは言わないまでも半分でも回っていたら消費税など上げなくても8→10%に上げた時に5兆6000円億円の増収があると報道されていますが、内部留保の増額分を考えたら税率を上げるより下げることも出来るはずです。そうすれば、景気は上がります。このままでは増税に苦しむ国民と税制上儲かって笑いが止まらない大企業の構図が益々顕著になります。
  •  当然、身体の具合が悪くても「ガマン、忍耐」する国民が増えます。特に歯科医療は、所得弾力性が医療科目の中で一番高く、受診にブレーキが掛かります。その上、消費税の損税をまともにカブり社会的インフラである歯科医院の経営には大きな影響を与えることは明白です。
  •  まず、消費税10%は阻止しなくてはなりません。20年ほど前の橋本政権は、消費税を3⇒5%に実施したことで参議院選挙に大敗し首相退陣に追い込まれました。来年の7月に参議議員選挙があります。さて、消費税がどう投票に影響するのでしょうか。

都合のいい数字を出して捏造された統計
政策部解説vol.108 2018.11 

  •  「経済が良くなったから2019年10月から消費税を10%に増税出来る環境になった。」との麻生財務大臣がこの夏に語ったことを鮮明に覚えています。しかし、そうなのでしょうか。計算方法の上方操作へのカラクリを東京新聞や西日本新聞で論じられていましたので紹介します。
  • GDPについて
  •  日本のGDPは2015年までは500兆円くらいで推移していました。しかし、2016年12月にこのGDPの算出する計算方法を研究開発投資の項や様々なデータの入れ替えを行ったことで2015年度の数値は31.6兆円増え532兆円になりました。それ(2016年度)以降のGDPはこの計算法で行われてしまい2017年度は546兆円という数字になってしまいました。所謂、企業で言うなら粉飾決済をしたことになります。2015年の9月に安倍首相がGDPを「2020年頃までに600兆円」と言うことが反映されています。
  • 勤労者所得について
  •  「毎月勤労統計調査」からの厚労省が全国約3万3千の事業所から賃金などのデータから所得関連統計を出していますが、今年1月から作成手法を変更し、対象事業者の約半分を変えました。その結果1月から6月までの「現金給与総額」の伸び率は、いきなり大きな数字となってしまいました。特に6月は3.3%という数字になり、1997年以来21年5ヶ月以来の大幅な伸びでした。しかし、調査対象とならなかった半数強の事業者からの数値では先ほどの数値に大きく及ばない結果。
  •  この2つの結果だけでも分かるように、データの改竄で景気がいいことを強調しているに過ぎないと強く感じてしまいます。大企業の内部留保について、ご存知の方も多いと思います。2012年は304兆円で、毎年増加し続け、2017年では446兆円となりました。5年間で142兆円の増加です。
  •  企業が儲けることはわたくしも異存はない事ですが、労働分配率(労働者への還元)は、アベノミクスが始まる前の2012年度には72.3%でしたが、毎年低下を続け、2015年度は67.5%になってしまいました。
  •  確かに、企業は儲かっていることが読み取れますが、勤労者の所得はそうではありません。トリクルダウンにはなってなく、利益は川上でストップされています。景気がいい事(企業)と家計(個人)がいいのは訳が違います。もちろん、これらは来年の消費税増税の理由付けのデータにするのでしょう。
  •  医療機関の損税は、国民の生活、医療機関の経営はどうなるのか、次回には数字を上げてお話したいと思います。

始まりました歯初診(施設基準で医療機関の格差付)
政策部解説vol.107 2018.10 

  •  夏の中華料理店の看板にある(冷麺始めました)のようなタイトルですが、10月1日より歯科初診料237点(届出)、226点(未届)。歯科再診料48点(届出)、41点(未届)になりました。
  •  237点や48点の算定が可能になるには、10月1日までに厚生局に「歯初診」の届けを出さなければなりません。まだ、手続きをお済みでない先生方は、お急ぎ下さい。届出用紙は厚生局のウェブサイトからダウンロード出来ます。滅菌器の番号など所定の事項を書き込んで厚生局に送ってください(尚、最近通知があり10月10日までに厚生局に提出し受理されれば10月1日に遡り算定可能です)。そして、来年3月31日までに院内感染防止対策の研修会を受講し、その受講証を厚生局に提出、受理されることが必須条件です。受講証の有効期限は4年ですから、4年経過するまでに再度受講し、届出することになっています。何だか運転免許証のようですが、個人的には「絶えず勉強し研鑽するように」と解釈しています。
  •  さて、今次改定では、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)及び在宅療養支援歯科診療所(歯援診)の算定基準のハードルが上がりました。設備に対する基準に加えて、実績や日常の地域医療への関わりや取り組みが加わりました。詳細は「歯科点数表の解釈」(通称:青本)をご参照下さい。
  •  ここで届出猶予期間がありますが、今次改定前に「か強診」「歯援診」の施設基準を届出済みの医療機関では、2020年3月31日までとなっています。因みに、歯援診は1と2になりましたが、1の方がよりハードルが高く、経過措置として2020年3月31日までは歯援診2の施設基準を満たすものになっています。
  •  このように、施設基準の算定条件に合致するには、「設備」「実績」「地域の関わり」「歯科医師のポジション」など大きく関わってきます。雑駁に言えば、大きな診療所で、いろいろなポジションにいる所は算定可能、小規模な診療所は算定出来ない構図が浮き彫りになってきました。
  •  また、同じ処置を行っても施設基準の有無や違いで算定点数に差があります。窓口負担も大きくなり算定するのに躊躇してしまう、という声もあります。歯科の中だけで論じるより、患者、国民が納得出来る施設基準が求められると思っています。

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